再会3
メナルド城屋上。
今、隣には約一ヶ月前に山頂で別れたラザファムがいる。
俺はこの一月のラザファムの動向について話を聞いていた。
ラザファムは憑き物がとれたように晴れやかな顔だ。
そりゃ愛しい娘に会えて、二百年に渡る悩みが解決したんだもんな。
まだ母親のことが残っているけれども……。
本当によかったよかった。
当事者でない俺ですらこうなんだ。
ラザファムの心中は察して余りある。
ああ、ドロドロした感じにならなくてよかった。
「それでお前……誰にルミナリアがいることを聞いたんだ?」
「……ああ、まだ言ってなかったな」
「まぁ、ぶっちゃけ大体の想像はついているけどな」
ラザファム曰く、俺が知っている奴だって話だ。
俺は友人なんて多くない。
悲しいことに、消去法でなんとなく予想できる。
「教えてくれたのはギンという名のサハギンだ」
「やっぱりか……」
ルミナリアと俺のことを知っているとなるとギンしかいない。
「ん? でもお前らに接点なんてあるか?」
ラザファムはメナルドへ。
ギンは海にある故郷に戻る途中。
だが……海と空で互いに移動手段が異なる。
二人はどうして、どこで知り会ったんだ?
「メナルド近海に、グリフォン便や船の物資補給を行う島があるのは知っているか?」
「ああ」
確か、クライフが整備したとか言ってたな。
前にルミナリアから話を聞いた記憶がある。
「妻の実家の島からずっと空を飛び続けていたからな。メナルドに入る前に一休みしようと、島に降りたんだ」
「ふむ」
「島の店で一人で食事をしていたら、ギンに一緒に飲まないかと声を掛けられてな。向こうも同じ理由だ……故郷に戻る途中、休憩するために島に立ち寄ったそうだ」
「……なるほど、そういうことか」
なんつうか、すごい偶然である。
もう偶然という言葉で済まされるレベルじゃない気もするけど。
世間は狭い。
二人が同じ場所、同じ時間にいたこともそうだが、普通は会話もせずにすれ違っただけで終わる。
それが、接点まで持つなんてな。
まぁ大方、一方が情報欲に突き動かされて興味本位から話かけたんだろうけど。
「それと……コレだな」
そういって、ラザファムが服のポケットから青い石を取り出す。
「これは……畜音石か。もしかしてギンが持っていたやつか?」
「そうだ。お前……誰が父親代理だ、一瞬息が止まったぞ」
「……は? んなこと言ったっけ?」
「とぼけても無駄だぞ。ちゃんと証拠が残っている……聞くか?」
「おう」
ラザファムが石に魔力を込め畜音石を再生する。
録音されていたのはルミナリアが酒場で酔ってしまったときのやり取りだった。
聞くと、俺は確かに父親代理と言っていた。
当時のことをだんだんと思い出してきた。
再会した時、父親の座は譲らんとか意味不明なことを言っていた理由がわかった。
この石のせいで誤解したのか。
酔っ払って何故か俺を父親呼ばわりしたルミナリア。
それを見て、ホームシックになったと勘違いした俺は彼女のために父親を演じきろうとしたわけだが、そのサービス精神が仇となったらしい。
「あれはその場の勢いみたいなものだ。本気じゃないぞ」
「それはギンにも聞いたし、頭ではわかっているつもりだがな……まったく、人の心をかき乱しおって」
「……は、はは。あん時は娘さんだと知らなかったんだよ」
まぁ驚かせたのはそっちもなんだ……許せ。
「さて、俺はボチボチ部屋に戻るかね。ラザファムは今日どこに寝るんだ? リーゼに部屋を用意してもらったのか?」
「いや……彼女の手をわずらわせるのも申し訳ないからな。今夜はルミナリアの部屋で寝ることになった」
「そうか、なら久しぶりに家族水いらずで過ごせばいいさ」
「ああ……」
「それじゃあ、また明日な」
「おやすみ」
ラザファムに背を向けて城に戻ろうとすると……
「アルベルト、ちょっと待ってくれ」
「なんだよ?」
「俺、娘とどう接していたっけ? 何を話せばいいんだろうか?」
「そ、そんなの俺が知るかよ……」
この駄目龍、何を言い出すんだ。
そこまで面倒見切れるか。
まぁ、心に少し余裕が出てきたっことだろう。
さっきまでは喜んだり、叱られたりでそんなことを考える暇もなかった。
「そんなに意識しなくていいんじゃないのか? 二百年振りに会ったんだから積る話題もあるだろ?」
「俺の二百年の出来事……さっき十分で話を終えてしまったんだが」
酒飲んで、山頂で光って、暴れただけもんなあ……。
「家族なんだから無理して会話をする必要もないだろ。ルミナリアの話を聞いてやるだけでもいい」
まったく、久しぶりに会っても世話の焼ける龍だ。
翌朝。
「ふあぁ~あ」
昨日はアークデーモンの来襲、ラザファムとの再会。
色んな出来事があり疲れていたのだろう。
普段より少し目覚めが悪い。
「つっ」
変な姿勢で寝ていたようで、腰のあたりがこっている。
手を上げて欠伸し、全身を伸ばしてストレッチをする。
ベッドから立ち上がり、窓を開けて、新鮮な空気を室内へ。
目が覚めたあと、俺は食堂へと向かう。
「お~す」
「おはようございます」
「おはよう」
入口で挨拶を返してくれる古龍親娘。
「……あれ?」
一人足りないな。
一番賑やかなのがいないぞ。
「リーゼは?」
「お姉ちゃんは昨日のアークデーモンの後処理で、朝まで起きていたからお昼まで寝るって言ってました」
「なら朝飯は三人か」
「はい。それであの……今日は城の厨房を借りて私がサンドイッチを作ってきましたので、よかったらどうぞ」
「へぇ、ルミナリアの手料理か」
「簡単な食べ物なので、料理と言えるかわかりませんけどね」
なんでもできるね、この娘。
サンドイッチの内容は柑橘系のジャムを挟んだもの、定番のオーク肉のベーコンと野菜を挟んだもの。
色んなバリエーションがある。
これだけあれば、食べてて飽きることはないだろう。
見た目も綺麗だし、味も期待できそうだ。
遠慮なくサンドイッチをいただくとしよう。
「……に、二百年ぶりの娘の手料理」
隣では感動しながら、お手製サンドイッチを丁寧に味わって食べるラザファム。
頬が緩みきって、幸せそうな笑みを浮かべている。
「うまい、うまいぞルミナリア」
「ありがと、お父さん」
親娘の交流を交わす二人を横目に、俺も食事をいただく。
「美味美味」
ふむ、確かにうまい。
手が止まらないぜ。
何故こんなに美味しいのか。
パン切って、具材挟んだだけの料理の筈なのに。
美少女が作った料理という付加価値もあるんだろうけど。
「おい、もっと味わって食べろ、滅多に味わえないご馳走だぞ」
「いいってお父さん。美味しそうに食べて貰えたならそれが一番だから」
「……だそうだぞ」
「まだ、沢山ありますからね。慌てなくても大丈夫ですよ」
食事の席では父親を諫めるルミナリアが印象的だった。
二人からは再会から生じるぎこちなさを感じない。
昨日ラザファムが不安を覚えていたが……余計な心配だったようだ。
まぁそれが家族だよな。
朝食を済ませて、各自これからどう動くかというところ。
「ルミナリアは今日の予定は?」
「このあと、ギルドで指名の仕事が入っていますね」
「そうか」
ルミナリアのように仕事の実績があればご指名で依頼が入るそうだ。
指名は強制ではないので、受けるかどうかは当人次第だけどな。
ぶっちゃけ、彼女の場合はギルドに仕事を取りにいかなくてもどうにかなる。
あと、聞かなくてもわかるでしょうが、俺には指名依頼が来たことがない。
「ギルドか……ルミナリアの仕事は確か傭兵だったな?」
「そうだけど、どうかしたの?」
ラザファムが口元に手を当てて、考えるそぶりを見せる。
「いや、俺も付いて行こうと思ってな」
ラザファムの突然の同行宣言。
いや……それはどうなんだ。
そんなに娘と離れたくないのか?
「……え、そ、それはちょっと……」
「お、お父さん、邪魔なのか?」
「……ええと、さすがに見られると仕事しにくいかな」
ちょっと困った顔を浮かべるルミナリア。
娘に拒否され、ショックを受ける父。
仕方ないな、少しフォローしてやるか。
「まぁギルドまで見送るくらいはいいんじゃないか?」
ルミナリアの気持ちもわからんでもない。
彼女なりのペースもあるし、父親に仕事をするのを見られるのってなんかな。
気恥ずかしさもあるだろうよ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
おかげさまでガーゴイル二巻が出ることが決定しました。
詳細については後日活動報告にて
Web更新スローですみません。
書籍作業落ち着き次第ペースあげるつもりですので。
よろしくお願いします。