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再会1

 アークデーモンの襲撃も失敗に終わり、これで一件落着……と思っていたら。

 一体どうなってんだよこの状況は。


 突然飛んできた雷弾(サンダーボール)落雷(サンダーボルト)

 その攻撃対象はアークデーモン(上位悪魔)のラボと、召喚されたアーリマン。


「……ぐっ、う……あがっ……」

 

 ラボが雷弾(サンダーボール)の直撃を受け、呻き声を上げている。

 アーリマンの方は落雷により消し炭だ。


 降伏してくれたのに、先ほど無事でいられると約束したばかりなのに、これでは嘘をついたみたいだ。

 まぁ高い魔法抵抗力が幸いしてか、命には影響ないようだ。

 電撃による麻痺もあるし、回復には相応の時間を要するだろうが。




「ラザ……ファム?」


 確認するように、もう一度その名を呟く。

 黄金に輝く体から放たれる光。

 山頂で一戦交えたのは記憶に新しい。


 間違いない……酔っぱらいドラゴンだ。


 なんつうか、元気そうでなによりなんだけど。

 再会にはちょっと早すぎる気がしないでもないぞ。


 邪魔にならないよう人化状態になるラザファム。

 割れた窓から、俺たちのいる場所にゆっくりと向かってくる。



「……邪魔だ」


「ぐふぇっ!」


 ラザファムの進行方向にいた気絶中のラスが、移動の邪魔とばかりに蹴っ飛ばされる。

 ゴロゴロと転がり、俺の足に衝突する。


「い、いらねえんだけど」


 下を見ると、ダラッと涎を垂らして、グッタリしているラス。


(おいおい、まさか……俺になんとかしろってことか?)


 こんなもん渡されても正直困るんだけどな。

 白目を剝いており、イケメン悪魔もこうなっては形無しではある。

 ラボも含め、その扱いにはほんの少しだけ同情する。


 とりあえず、いつ目覚めても問題ないように、処置をしておくか。

 動けないように、土魔法で作った石の枷で拘束をしておこう。


 よし、これで完了だ。


 あとは……そうだな。


「プレゼントだ」


 少し離れた場所にいたリーゼのところにラスを転がしておく。

 怪我人に鞭打つ趣味はないが、今回は自業自得ってことで諦めてほしい。


 基本、困ったときは、リーゼに丸投げのスタイルだ。


「え?」

 

 転がってきたラスに戸惑うリーゼさん。

 あとは魔王代行のあなたの仕事です。

 牢屋に入れるなり、拷問して情報を聞き出すなりしてくれ。

 あと、黒焦げのラボに死なないよう、軽く回復魔法をかけてやってくれ。




 さて、と。


 アークデーモンのことはとりあえずリーゼに任せておいて。

 今はそれよりも大事なことがある。

 ラザファムめ、一体何しにメナルドに?


(なんて……考えるまでもないか)


 ラザファムの視線は俺ではなく、隣にいる人物に注がれている。

 この男から探し求めていたもの(トライデント)を見つけたときのギンと同じ雰囲気がするしな。


 つまり……そういうことなのだろう。


「ルミ……ナリア」


「おとう……さん?」


 見つめ合う父と娘、二人の視線が交差する。

 二百年振りの再会だ。


 ルミナリアのほうは父親登場にまだポカンとした表情。

 現状を把握できていない様子だ。


 一方、父親のほうは娘の姿を見て、ジワリと目に涙を浮かべている。

 今にも涙腺が決壊しそうだ。


 ……わずかな間のあと、ツゥッと頬にこぼれ出す涙。


 一歩、一歩、感動からか足を震わせ、覚束ない足取りで近づいてくるラザファムだが、もう我慢できないとばかりに走り出す。


 一応、俺とリーゼもここにいるんだけどな。

 たぶん今、娘さんのことしか目に入っていない気がする。


「ルミナリアアアァッ!!」


「……え?」


 こ、これ、どうなるんだろうか?

 感動の再会となるのか?


 結局……なんだかんだでルミナリアの気持ちは確認しないままだ。

 ああ、事無かれ主義の、問題の先延ばしが仇となってしまった。

 この先の展開が読めない。


「ルミナリアアアアッ!」


「っ!」



「…………あっ」


 二つの体が重なり合う。

 今まで会えなかった分を取り戻そうと、もう離さないとばかりに強く抱きしめるラザファム。


「ルミナリアアアアアアッ!!」


 大の男が大声を上げて泣いている。

 正直、みっともないと思わんでもないが、事情が事情だからな。

 まぁ、なんだ。感極まるのは仕方ないんだけどよ。

 なんつうかさ……力入り過ぎよ。


「……苦しいよ」


「……ルミナリアアアアッ!」


 そんなに抱きしめたら苦しいだろ。

 もうちっと優しくしろって。


 まだ別れて一か月くらいしか経ってないってのに、熱烈な抱擁だ。



「ん? なんか固……ってなんだお前!」


「……」


 娘じゃないと気付いたラザファムが、後ろに下がる。

 ルミナリアめ、咄嗟に俺を身代わりにしやがった。


(……あとで覚えてろよ)


 翼を失くしたガーゴイルと妻と別れた龍の抱擁とか、誰得の話だよ。

 互いに欠けたものを埋め合おうってか?

 滅多に見れない絵面なのは間違いないけど。


 てか、すぐ気付け、大切な娘なんだから。

 こういう早とちりというか、突っ走るところは変わってないよなコイツ。

 そしてまぁ……当然というか、再びルミナリアに接触しようとするラザファム。


「ル、ルミナリッ!」


「……落ち着け、馬鹿野郎」


 俺はラザファムの前に腕を突き出して止める。


「むっ!」


 娘に会えて興奮しているのはわかるが、少し冷静になれ。

 ……無理かもしれんけど。


「お前……よくも俺を身代わりにしてくれたな」


「す、すいません……いきなりだったので、つい」


 後ろを振り返ってジロリと見ると、謝るルミナリア。

 まぁ気持ちはわからんでもないけどな。

 ルミナリアは俺の腰を掴んで、背にピッタリと隠れていた。


「ラザファムめ、いくら胸が小さくても男女の違いくらい気付くだろ。種族が全く違うし、体の固さも違うしよ……ん? どうしたルミナリア?」


「……い、いいえぇっ、別に……」


 ルミナリアは笑顔を浮かべているが、気のせいか少し震えている気が。

 ポツリと呟いたつもりが後ろの彼女には聞こえたようだ。

 ラザファムには聞こえていないようで助かったけど。


 ……す、少し口が滑ったかな。

 身代わりにした負い目故、我慢しているみたいだけど。


 結構気にしているらしいな。

 次からは気をつけよう。

 別にいいと思うんだけどね、貧乳だってさ。


 需要は十分にあると思う。

 水の中を泳ぎやすいメリットもある。

 彼女は水龍だ、生物はその環境に適した形に進化するしな、仕方ない。

 

 ……と、考えが逸れたな。

 今はそれどころではないんだった。



「……久しぶりだな、二人も」


 僅かながらも冷静さが戻った様子のラザファム。

 後ろにいるルミナリアをチラチラ見ながらも再会の挨拶をする。


「ああ」


「お、お元気そうで何よりです」


 挨拶を返す、俺とリーゼ。

 さっきの今だとあれだな。

 おまけで言われた感が凄いけどな。


 ほんと、リーゼの言うとおり元気すぎるよ。

 もうちょっと普通に現れてくれないかな。

 こいつの登場シーンはいつもドキドキするぜ。


「ルミナリアも、髪……伸ばしたんだな」


「お父さん」


 二人、顔を見合わせる。

 本当は今すぐ抱きしめたいのだろうが、我慢しているようだ。

 

「ん? クライフはここにいないのか?」


「兄様は魔王ベリアに会いに、リドムドーラへ向かっています」


 ラザファムの問いにリーゼが答える。


「……そういえば、来るとき噂を聞いたな。少しタイミングが悪かったか」


 再会の挨拶を軽く済ました後。

 もう面倒なので、直球で聞くことにする。


「で? なんでお前がここに?」


「愚問だな……娘に会いにきたに決まっているだろう?」


 娘さん、俺の斜め後ろに隠れていますけどね。


「それはわかる……奥さんの実家に行ったんじゃねえのかってことだ?」


「ああ……行ったが、妻は留守でな。実家の島で妻の妹から、ルミナリアがメナルドに行きたいと話していたと聞いたのだ。それで……ここまでな」


「なるほど」


「といっても、当初はメナルドで娘の手掛かりが得られればくらいの考えだったがな。旅している途中に出会った、お前のよく知る男からルミナリアがここにいるという確実な情報を得てな……」


 俺のよく知る男?

 ルミナリアのことを知っていて、尚且つ……となると。


「まぁ、それについてはあとで説明しよう。それよりも……ルミナリア」


 ラザファムの視線は俺の腰に、そっと手を触れたままのルミナリアに送られている。


「あっ」


 父の視線に気づき、ルミナリアが慌てて俺の腰から手を放す。

 腰に触れていたのは無意識だったようで……ちょっとだけ顔が赤い。

 それを見てラザファムが顔をしかめる。


「……おい、二人はどういう関係だ?」


「あん?」


「お前には恩もあるしな、あまり友人にこういうことを言いたくはないのだが……一応釘を刺しておくぞ。ルミナリアの父親は俺だ!」


「……い、意味がわからん」

 

 なに言ってんだ……こいつは?

 そんなの当然のことだろう、なんで一々言うんだ?

 いくら俺でも寝取りの趣味はない。

 あと、恋人だってんならわかるけど……なんで父親の座?


「まさか酔ってんのか?」


「酔っていない……もう酒はやめた。禁酒一か月の万全の状態だ。あのときと同じようにはいかんぞ。今度は負けん!」


「理解した。酔ってても、酔ってなくても面倒な男なんだな、お前」


 俺とルミナリアは深い関係などない。

 強いて言うなら友人の娘で、傭兵仲間だ。

 特別な関係などではない。


 と、そこで。


「……あのときと同じように? 今度は負けない?」


 さっきまで隠れているだけだったルミナリアが反応する。

 どうにも聞き逃せないワードだったようだ。

 割と笑顔の絶えないルミナリアだが、今はその笑みも潜めている。


「……どういうこと? お父さん?」


 隠しごとは許さないといった様子。


「さっきから自然に話しているけど、アルベルトさんとの関係は? 一体何があったの?」


「え?」


 感動の再会……と言った雰囲気ではない。


「あ、アルベルト……もしかして娘に言っていないのか? 俺のこと」


「言ってねぇよ、言えるわけないだろ」


 考えてもみろよ。

「お前の父さん酔っぱらっていて、山で出会い頭に俺とリーゼにブレスぶっ放して殺そうとしてきたぜ!」、などど言えるわけがない。


 せっかく俺とリーゼが、気を遣って隠しておいたってのによ。

 どうにか父親の威厳を守ってやろうと思ったのに。

 まぁ真実を伝える勇気がなかったともいうんだけど。



「……説明、してもらえますか?」

 


 当然、そうなるよな。

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