第一話
――第一話
『乱雑なる人員招集』
沖田が突拍子も無い事を言い出してから、一週間が過ぎようとして居た。あれから何の音沙汰も無い処を見ると、彼は本当に諦めたのだろうか。
土方は、普段通りの生活を送りながらも頭の中では其の事について考えていた。幾ら考えた処で如何にか成るのかと問われれば、其れは否としか言い様が無いのだが。
土方は此の日も、あの陽当たりの悪い中庭に足を運んだ。学内に在る図書館から借りた論文を読むために訪れたのだが、何時も自分しか居ない中庭に、今日に限っては珍しく数名の先客が居た。
見知った顔のみが集まって居て、其の中に沖田も居る処を見ると、一週間前に行われた突飛な件についてだろう。否、それ以外は考えられない。
「やあ土方さん、主役は遅い登場だね」
「誰が主役だよ」
矢張り彼の話か。ほぼ確信めいた推測が、たった今完璧成る確信に変わった。
もう此処まで来ると、申請書が完成したか最悪もう既に提出されているかのどちらかだろう。
沖田の表情だけ見ると、後者の確率が高いか。
さて、今回沖田に巻き込まれたのは誰か。土方が辺りを見回してみれば、正に沖田に引っ掛けられましたと云うような雰囲気をありありと出して隠そうともしない彼等が此方を見て居た。
「言い出したのは俺じゃねぇからな」
「土方さんがそんな事を言う方だとは思ってません」
其の場に居る数名から向けられた視線の中で最も殺意の隠って居る方を向けば、そこに居たのは常識人かと聞かれれば違う処が在るが其れなりに常識を弁えている青年・斎藤一だ。
ミステリアスな雰囲気を纏う彼は、何時何時も何を考えて居るのかが他人にからは到底計り得ない処がある。
紫掛かった黒髪。後ろ髪の長さは其れ程でも無いが、前髪は目に掛かる位には長く伸びている。人目を気にする質らしく、出来る限り他人を視界に入れない為の彼なりの策なのだとか。
多少だが影が薄いと云う特質があり、他人に気付かれずに講義を抜け出すこともしばしば。
大抵は彼の側に居る、此の場所に居る中では小柄な方の青年・藤堂平助によって連れ戻されるのだが。
藤堂は、天真爛漫と云う言葉がぴったりな、明るい性格の持ち主だ。見た目落ち着いた雰囲気があるため勘違いされがちだが、実際の処彼は動物に例えると犬。
明るい茶髪はさっぱりと切られ、襟足も肩に着かない長さとなっている。
因みに平助と斎藤は、土方・原田・沖田、其れから此の場には居合わせていないもう一方より二つ年下だ。
「土方さんってさ、本当に処武力師団に興味在るの?」
「いや、全く無い」
愉しい事が何よりも好きな平助は、土方さえ丸め込めれば満場一致でテーマパークに行けると云う考えらしい。
人畜無害そうに笑う平助だが、実は彼は巷では名の知れた喧嘩番長だ。此の大学に通う誰もが、平助は只の犬系美男子だとしか捉えていない筈だ。
「…取り敢えず、何で俺が頭なんだ」
「貴方が頭をやると言ったら、政府はいとも簡単に申請を受理して下さいました」
輝かしい視線を自分に向けて居る平助を視界から追いやり、土方は沖田の方に顔を向けた。其の質問を待って居たとでも云うようなタイミングで、沖田は右手に携えていたファイルから一枚の紙を取り出した。
其れが皆からも良く見える様に、沖田は紙を持っている方の手を頭上にあげた。
「国家機密防衛師団結束申請を許可…お前又勝手に…」
「何たって貴方は、此の日本を代表する平和至上主義者だ。物の数分で許可が下りましたよ」
沖田の行動力は、誰もが目を見張る物がある。こうと決めたら直ぐ様行動に移し、必ずやり遂げると云う姿勢。他の誰にも真似する事の出来ない行動力は、たまに間違った方向に働く。
其れが今回だ。
「……ったく、こう成ったからには本気でやるからな」
「そう来なくっちゃ♪」
呆れ返って物も言えない様子の土方の肩を、沖田は嬉しそうに叩いた。
早速幹部やら何やらの人選だと意気込み始めた沖田に制止を掛けたのは、其れと無く見覚えの在る人物だった。確か此の大学に通っている者で、相当な良家の娘だと噂されている。
「其の話、僕にも一枚噛ませてよ」
「…お嬢様が何の用?」
色素の薄い灰色の髪は流せば腰の辺りまで在る。後ろ頭の真ん中程の位置で結われており、見た者にさっぱりとした印象を与える。追記として、前髪は目に掛からない位置で適当に切られている。
彼女は、沖田に「お嬢様」と言われると同時に、怒りを隠す事無くありありと表した。
「僕がお嬢様?ふざけるな」
「聞いてたんでしょ、本気だって。世間知らずのお嬢様は――っ!?」
「其れ以上云ってみろ、首を飛ばすぞ」
何時もの調子で、つまりふざけた調子で話続ける沖田の首に、彼女は何処に隠し持って居たのか鉄の扇を押し当てた。
瞬き一つの間に積めた距離は五メートル、相当な身のこなし。
「貴殿方からは想像不可能な程、辛い修行と死闘を潜り抜けて来ました。世間知らず?嗤わせないで下さい」
「沖田が迷惑かけたな、済まん。あんた、名前は?」
「…芦屋緋月、途絶えつつ在る陰陽師・芦屋家の末裔です」
土方の落ち着いた声により、芦屋と名乗った少女は頭に血が昇った状態で声を荒上げた事を反省したらしく、名を名乗った後で静かに頭を下げた。
其れから直ぐに踵を返し、芦屋と名乗った彼女は入り口へと歩き始めた。
「…芦屋、お前も此の名簿に名前書いて行けよ」
芦屋が歩みを数歩進めたところで、何を思ったのか土方が彼女を呼び止めた。訝しげに土方の方に顔を向けた芦屋は、自分に向けられた紙の内容を読んでから口を開いた。
「其れ、参加可能は男子のみ」
「君、男の子っぽいし男装でもしたら?」
幾ら何でもと云った風に口を開いた芦屋に、突拍子もない事を言い出したのはお決まりの沖田。心底楽しんでいますと云う表情に少しの遠慮もなく、芦屋は呆れ顔をかましてみせた。
其れから芦屋が反論をするために口を開きかけた時、其れを遮るようにして聞こえたのは、賑やかだが聞く者に煩さを感じさせない暖かな声。
其処に居たのは、土方等と同い年にして此処に居る人々を仲間として知り合わせた張本人・永倉新八だ。全体的に爽やかな印象の容姿で、髪もスポーツ選手のように短く切られている。要は突っ立っている。日に焼けた薄い小麦色の肌が、彼の性格をよく表している。
「お前ら善くも俺を出し抜いてこそこそと!」
「だって新八さん煩いんだもん」
「此の面子を集めた立役者を放っておくとは…」
木製長椅子の周りに居た土方等の側まで来た永倉は、何処か楽しそうに、そして態とらしく沖田の肩に腕を回して笑った。其れに乗っかる様に上手く切り返した沖田は、心底邪魔そうに其の腕を方から外した。
腕を外されたこと事態は気にならない様だが、在る意味では除け者にされたと云う事実を嘆いているらしい。冗談と苦笑混じりに口を溢している。
「煩い人も来た事だし、今の内に名前書いちゃいますか」
「…まあ、そうするか」
いそいそと紙に名前を書く彼らを横目に、芦屋はそっとその場を立ち去った。
芦屋が居なくなった事に気付いた沖田は、早い内に彼女を見付けて無理矢理名前を書かせると云う遊びを考案し、一人口元を三日月に歪めた。
「(…総司の奴、何か企んでやがる;)」
†後書き
取り敢えずメインメンバーは出揃いました!
芦屋阿国ちゃんは、俺のオリジナルキャラです。お気に入りのキャラです。
気に入っていただけたら嬉しいですヽ(・∀・)ノ