3・遊園地 part2
なんか凄い甘くなってしまった。
「うわぁ!!」
中はすごい人で溢れ帰っていた。
右に人。左に人。前にも後ろにも人。
炎天下の中、こんなに人がいたんじゃ熱中症は本気で心配しとかないと。
初デートを熱中症で終えるとか、私はゴメンだからなっ! そんなことになったら、夜枕を濡らすかもしれない。
ふと横を見ると、妙に体が密着している男女がいた。暑くないのかな?
やっぱり恋人も結構居るんだなぁなんて考えながらマップへと歩く。
恋人。恋人か............私たちは、周りの人から見ると、ちゃんと恋人になってるのかなぁ。
と考えて、頭を振った。
いけないいけない!! 弱気になるな私! マイペースマイペース。
その様子を見てたのか、浅木さんが小さく笑った。
「心配しなくても大丈夫だと思うよ。手だって繋いでいるんだし」
............あんたはエスパーですか。
最近、よく心を読まれてる気がしてならない。下手なこと考えるの止めようと思う。
でも、その言葉だけで何故だか落ち着いた。浅木さんの言うことはいつも正しくて、優しい。
だから安心できる。
恥ずかしいけれど。
ちょっとだけ、手を強く握ってみた。
すると、私の勘違いかもしれないけれど。
浅木さんも、握り返してくれたような気がした。
*****
ふむ。
この状況はどうなのだろうか?
......私、今、1人でメリーゴーランドにのっているんだけど。
浅木さんは柵の外で笑っているんだけど。
いや、スッゴく恥ずかしいからね!?
みなさん、勘違いしないで下さい。
私は好きで1人で乗っているんじゃなくて浅木さんに騙されて乗っているのです。
乗ろうよ! って誘われたから一緒に並んでたんだけど、途中でトイレ行ってくるから1人で並んでてって言われて、結局帰ってこなくて、私の番が来て............
しょうがないから1人で乗ったら、柵の外で余裕で待ってた浅木さん。
ちょっとムカッてきた。
ようやく終わり、浅木さんが駆け寄ってきた。
腹を小突く。
「ぐわっ! 痛い!」
くそぅ。
少しだけ涙目になってしまった。
「ごめんごめん。 可愛かったからつい」
「むぅ......」
そんなこと言われたら怒りづらい。
「もうやらないから。次いこ?」
「......分かった」
結局、それで許してしまう私は、攻略されやすいキャラなのかもしれない。
「シートベルトの確認をしまーす」
係りの人がそう言って、胸の下辺りのベルトを引っ張る。
「はい大丈夫です。それでは、お楽しみください」
「はい」
私たちを乗せたゴンドラが動き始めた。
洞窟へ入るところで係りの人が、
「暫しの別れっ!」
そんなことを言っていた。
「行ってきまーす!」
浅木さんはしっかりと答えていた。
のにたいして、私は。
「キャャャャャャャ!!」
それどころじゃないからね!?
「月音!? まだ始まってないんだけど!?」
「恐い無理死んじゃう落ちる無理無理ー!!」
下を見ると、岩のような地面が何メートルか下に。
ちょっと高くて私にはしんどい。
実は、怖がりだったりします!
「くくくくっ!!」
浅木さん大爆笑。
く、くそぉ。
でもちょっと本当に恐いからねっ!?
私はギュッと浅木さんの袖を握って目を閉じた。
浅木さんはそれを微笑みながら、受け入れてくれた。
「何食べたい?」
「うーん......あ、ここのカレーライスが美味しいって有名なんだよね」
「じゃそれにしようか」
お昼になったので、アトラクションは一回中断してご飯を食べることになった。
ちなみにあれから何個か乗ったんだけれど、絶叫系は全部死ぬかと思った。
亜季に言ったら絶対、「情けなっ!?」とか怒られそうだ。よし、言わないでおこう。
注文したカレーライスとコーヒーがきたので、トレイを持って休憩所へと移動した。
「いただきます」
手をあわせてから、スプーンでカレーとライスを同時にすくって、口へ。
「あ、美味しい」
「後味で少しピリピリするね」
思った以上の味だ。
少し辛いが、こくがあってやみつきになりそう。
手がすらすら進み、15分足らずで全部食べ終わってしまった。
一息ついて、思ったことを言ってみる。
「そういえば、こういうときでもコーヒー頼むんですね」
「うん。1日1杯は飲むようにしてるんだ」
「へ~」
勉強熱心だなと思いながら、最近自分も毎日コーヒーを飲んでいることに気が付いた。
浅木さんに会うまでは、あまり好きじゃなかったのに。
影響されてるな、私。
そう心の中で笑って、カップのコーヒーを啜った。
*****
何時間も遊んで、気付いたらもう9時を回っていた。
そろそろ閉館だ。
私たちは噴水の前で、人が居なくなるのを座って待っていた。
周りの木はライトアップされていて、輝いている。
「綺麗だね」
「うん」
他愛もない会話。
「今日は楽しかったです」
私がそういうと、浅木さんは嬉しそうに笑った。
「それはよかった。俺も楽しかったよ」
「私、今までこうやって男の人と2人で出掛けたことがなくて、凄く凄く不安で............」
でも。
「でも、浅木さんを見てそんなもの吹き飛んじゃって、安心して」
私が何が言いたいのか伝わったらしい。
目を閉じると、私の顎を優しく上に向かせた。
そして。
私たちは、キスをした。
それは互いを確認するように、そして受け入れるように甘くて、幸せだなと心から思った。
それでも、幸せはいつまでも続くものじゃない。
それに気付くのは、もう少し経ってからのことだった。