呪われました
「この娘は呪われておる」巡業する人物鑑定士のお婆さんは、1人の少女を鑑定して、そう言いました。少女の両親は、表情を固まらせています。少女自身は、呆然とその言葉を聞いています。
「呪いの内容は、”レベルアップ不可”じゃな」鑑定士のお婆さんも、気の毒そうな表情です。
文明圏の外れ、ほとんど辺境といっていいほどの村でありました。主な産業は、農業と、畜産、小規模の林業、と、二家族だけいる、狩人さんです。四十に満たない戸数の集落で、その生活は貧しいものでした。
当然、子供といえども貴重な労働力で、物心がつくかつかないかで、家業の手伝いを始めていました。
ですので、充分に働けない存在はそれだけで、村では厄介なものとして認識されてしまうのです。
さて、人は、生活していると、前日には出来なかったことが、翌日にはできるようになる、という変化を感じるときがあります。これは、徐々にできるようになるのとは違って、いきなりコツをつかんだかのように、唐突にできるようになる劇的な変化です。
人々は、その現象を、レベルが上昇して、新しいスキルを手に入れた。と表現しています。
レベルというものは、人が、生活に必要な行動をしていると、自然に、僅かずつ蓄積されていき、経験が、ある一定の量を越えると、アップ、つまり上昇していくもので、客観的に数値に表すことができます。
スキルとは、レベルが上昇する時に、自然に自身が手に入れることができる、特殊な技能のことです。その技能の習得には普段の生活のそれが関わることが多いものの、それとはかけ離れた技能が習得されてしまうこともあります。なので、昨日できなかったことが、いきなり今日できるようになるということが、普通に発生します。(レベル、スキルの、それぞれの語源は、"level"、"skill"です。)
それらの具体的な数値や内容は、本人でも無条件で知ることはできません。普段の生活のなかで、レベルを推測したり、所有するスキルの内容を推し量ることが出来る程度です。
これらは、”人物鑑定”のスキルで、レベルの数値や、所有するスキルの内容を確認してもらうことができます。
人物鑑定のスキル保持者はそれほど多くなく、辺境では、今回のお婆さんのように数年おきに巡回してくれる方の鑑定を待つことになります。この巡回鑑定は、文明圏の地方政策の一つです。
少女は今年で10歳になります、名前は、シルフィと言います。同年代の少年少女は、5人です。他の少年少女達は、今回の鑑定の結果、何度かレベルアップをしていて、生活に役立つスキルを数個手に入れています。運動能力を発達させたり、手先の器用さが強調されたり、動物との簡易な意思疎通が可能になったり……年齢が若いこともあって、それらのスキルに習熟はしていませんが、将来性が期待される、子供達です。
一方シルフィは、呪いでレベルアップしません。それはつまり、いくら、頑張って経験をつんでも、生活に必要なスキルを手に入れられないということを意味します。スキルの使えない人は、まともに働くことができません。シルフィは、村のお荷物となってしまったのです。
それどころか、レベルがアップしないということは、成長速度が遅いということにもなります。通常、成長して、体力がついたり、新しい知識を覚えたりするという生き物としての、成長は、前提として、レベルアップによる各種能力への補正があるのです。一つレベルがあがるたびに、体がより頑丈になったり、集中して、時間をかけて、作業をしていても精度が下がらなかったりする力が、増していくのです。その上昇する値は1レベルごとには僅かですが、積もり積もれば、バカにできない量です。また、単純に、頭の回転が良くなったり、重いものを持ち上げられるようになったり、速く走れるようになったり、記憶力がよくなったりする能力にも、レベルアップ時に補正がかかります。それが、人の、生き物の、”常識”なのです。
それが、シルフィにはありません。これは大変なハンディです。
鑑定士のお婆さんには、呪いの解き方も、原因もわかりませんでした。
両親はそれでも、娘を見捨てませんでした。いくら村の厄介者で確定するとはいえ、家族なのですから。しかし、その態度はやはり少しぎこちないものにならざる得ませんでした。また、村の役立たず、有害な異物をどこかにやってしまえ、という、他の村人たちの有形無形の圧力が、家族を襲います。
シルフィは成長の遅い、回転しない頭で考えました。
これはダメですね、と。このままでは私の家族が不幸になりますねと。幸い、弟妹がいるので、私がいなくなっても両親はなんとかなるだろうと、(弟妹、両親には呪いはかかっていませんでした)
しかし、ただいなくなっては両親は大変悲しむでしょう。自分自身を始末したあとに残る見苦しい残骸も、片付けるのが大変でしょうし。かといって、見苦しくないように、山へ分け入って始末するのも、もしかすると、無駄に探しまわるかもしれませんし。
ある程度、期待をもたせるような終わり方を考えたほうが良いでしょう。どこか遠くで生きているという幻想をいだかせるような終わり方を……。
自身を商品にして売るというのはどうでしょう?……だめですね、呪いのせいで買い手がつかないでしょう。呪いの研究の為に買い取るという奇特な人を探す?時間がかかりそうですね……。そもそも人に買われるというのは、なんだか嫌です。最後くらい自分の好きにしたいですしね。
では、こうするのはどうでしょうか?
「父さん、母さん、私は”谷”へいっていみようと思います」
やつれた両親は驚きの表情で、私を見つめます。
”谷”は村から、半日ほど歩いたところにある、峡谷です。昔は河があり水が流れていたそうですが、いまは水源が枯れてしまっていて、切り立った崖が、左右にそびえ立つ、茶色の岩が目立つ深い谷です。
ここには”怪物”が出現します。”怪物”とは、自然に生まれてくる生き物とは一線を画した存在で、何もないところから浮き出てくる”何か”です。
”怪物”にはいくつかの特性があります。まず、出現する場所がある程度確定していること。意志の疎通は基本的に不可能で、人に敵対するものが多くて、人が、”怪物”に近づくと襲いかかってきます。その強さには幅があり、人はその難易度をレベルで表現しています。
”谷”の”怪物”レベルは低めですが、一般の村人では、戦闘的なスキルを持っていないので、倒すのは難しく、まさしく命がけ、といった所です。村の狩人さんなら何とかなるかなというレベルです。
そして”怪物”の大きな特徴は、倒すと生活の中で手に入る経験の値より、多くの経験が手に入るというものです。シルフィが注目したのはここです、呪いによってレベルアップしないのなら、大量の経験を手に入れることで対応できるのではないでしょうか?というものでした。
両親は最初は、反対しましたがシルフィの思いが強いこと、対象とする”怪物”を選べば比較的安全に戦えるということ(このことは、村の狩人さんから聞き出しました……かなり幸運に頼らなければならないようですが)を説明して、納得してもらいました。
父親は、最初、一緒に行くと言いましたが、こっそりと近づいて不意をうたないと行けないので、1人の方がいいのですという表向きの理由で1人で行くことを納得させました。
本当は、”谷”へ行くのはもう村には戻ってこないという意味だ、ということを両親も知っていました。スキルもない、1レベルの少女が、”怪物”の出現する”谷”へ行くということは、そういうことであると、分かっています。ただ両親は、それをはっきりと言わないで、どこか希望があるように思うことで、自分は悪くないと思おうとしているのです。
シルフィ自身も、家族にこれ以上迷惑をかけないように、自分自身を始末する為に行くと、理解していました。レベルアップ不可の呪いを覆すという、動機は、これはまた、自分を騙す為の、建前の理由でした。
そうです、彼女は、生きることを半ば諦めていたのです。
***
シルフィは地面に倒れていました、ここは”谷”に入って、少し、火にかけた大鍋が煮え立つほどの時間が過ぎたぐらいの間、歩いた場所です。彼女は何もない所から、ふーとわき上がった”怪物”に襲われたのです。犬に似た、頭をもつ2足歩行の人型をしていました。その”怪物”は、手に生えた鋭い爪でシルフィに攻撃してきたのでした。
ああ、これでおしまいですか。シルフィはそう思い、最後までぼんやりと大きな口を開けてせまってくる、犬頭の”怪物”を見つめていました。
その時、轟音がして、目の前の犬頭が吹き飛びました。咄嗟に、音のしたほうをシルフィが振り返ると、20歩ほど離れたそこには、”長い杖のようなもの”を地面と水平に両手で構えた、青年がいました。その”長い杖のようなもの”から、白煙が出ています。
「だいじょうぶか?」近づいた青年がそう問いかけながら、シルフィに手を差し出しました。
シルフィは驚きと、助かった衝撃で、言葉が出ませんでした。ただ、こくこくとうなずくだけでした。
***
その後、青年とシルフィは”谷”を抜け、落ち着ける場所へ移動しました。
「なるほど……」青年は、野営の準備をしていた場所で、たき火を前にして言葉をこぼしています。シルフィから、成り行きを聞いたのです。青年は、”長い杖のようなもの”を傍らにおいて、銀色の金属のカップで、黒い色の熱そうな飲み物を飲んでいます。青年の名前はビリーと言いました、飲み物の名前はコーヒと言う、と説明しました。にこやかに笑う、気の良い、背が低めの青年でした。
「村に帰るなら、送っていくけどね」
シルフィは貰ったミルクを温めたものを入れたカップを、両手で持ったまま、無言で首を横にふります。
「まあ、帰れないよなー、で、どうする?」無邪気に訪ねる青年です。シルフィは答えられません。
「……そうだよなー、……でもこのまま見捨てるのも寝覚めが悪いね、君がよければ、ついてくるかい?ちょうど弟子が欲しいと思っていたんだ」
レベルがあがらない呪いを持つ私を弟子に?という疑問には
「この世界の人間はレベルやスキルに頼りすぎるんだよね、きちんと修練を重ねれば、達人の域に達することもあるというのにそれを目指す気概が無い。俺はそれが気に入らない」
だから、レベルやスキルに頼れない少女に興味があると言いました。
***
「これは、”銃”という。まあ、俺の昔いた所にあった、一般的な飛び道具……の、ここいらへんでの代用品だ。引き金を引くと、この筒の先から、”弾丸”が飛び出して、標的を倒す」
旅をしながら、ビリーはシルフィに彼独自の戦闘方法を教えていきます。
ビリーは、自分の使っている武器の説明をします。片手で持てるくらいの黒い短い杖のようなもので、角度のついた、持ち手を握り、引き金という可動する所を動かすと、仕掛けが動き、あの轟音とともに、標的を吹き飛ばすのだそうです、ビリーいわく
「ケツにくらわせれば、オハイオまで吹き飛ぶぜ!」とのことです。正直シルフィにはオハイオがどこにあるかなど分かりませんでしたが。
魔法の一種だそうです、スキルなどで弾丸を作り出し、”銃”で起動させる魔法の矢のようなものだと説明されます。
「そうだ、この”銃”の先にある尖ったところ、”照星”という、それと、この手前にある谷のような形のところ、”照門”という、を標的と一直線になるように結んで……そうだ、それで、両手でここ、手で握るところ、”銃把”という、を握って、いやそんなに力むことはない……」
ゆっくりと、後ろから、少女の体に添うように指導していく、ビリー。標的は枯れ木を、拳くらいの大きさに切ったものです。距離は7歩くらい、狙いをつけて引金を引くシルフィー、轟音と、反動で驚きますが、目は標的から離さないでいます。
「……筋がいい、最初は怖がるものだが」ビリーはシルフィの反応を見て言います。
「わたし、頭悪くて鈍感だから……」
「そーゆーのは、根性が座ってるてーんだ。強みだぜ」
吹き飛ばされた、木片を見ながら、ビリーは褒めました。
その後、なれればこーゆーこともできると、ビリーは宙に投げた木片に、連続して発砲して、弾丸を6発すべて瞬時に空中にある目標に叩き込むという離れ業をみせました。そう彼は、結構負けず嫌いの子供っぽいところがあるのです。シルフィが年齢を尋ねると、20は越えていたと思うけどな、と無邪気に笑って、正確なところは答えませんでした。
***
「弾丸だが、これは”技術”を使って作る。まあ、スキルでもつくれるがこれはこだわりだな」
本来なら、鋳造して、整形して、薬莢に火薬をいれて……弾丸を作成するのだけどな、この世界ではそれが難しいし、なぜか、この手の魔力を介さない、飛び道具は破壊力が低いので、この世界に見合った弾丸を作らないといけない。と解説していきます。
「これが材料だ、比較的手に入りやすい、魔力を帯びやすく融点が低い金属だ、おれは”鉛”とよんでいるこれをだな……」
携帯の小型炉を使用して、溶かして、型に流し込んで、形成していきます。
「直接弾丸が、銃口から飛び出すわけではないから、少々の歪みは気にしなくていい、いわゆるこれは”触媒”だ、ただ、弾倉への装填はスムーズにしたいから、バリなどを、ヤスリで削ってしあげていく……」この溶かして固める時に、魔力を取り込むよう意識すれば良いと指導する。まあ、魔力といっても……
「強く願うだけで、OKだ、それほど難しいことじゃない」ニカリと笑います。
もっとも、ビリーがそう言っているだけで、やっていることは、立派な魔法の道具の作成です。そう簡単なものではないはずなのですが、シルフィは単純に信じて、真似を始めます。数日、練習を行うと、たどたどしいですが、弾丸を作成できるようになりました。
一応スキルでの作成も見本をビリーは見せてくれました。そちらは、手に乗せた材料が、自動的に弾丸に変化していきました。
***
照準を合わせて引金を引く、轟音ととともに、弾丸が飛び出し目標である四足獣型の”怪物”に命中する。角のある少女の腰ほどの大きさの”怪物”(ビリーが言うには、”角付き兎”だそうです)はその頭を貫かれ、次の瞬間消滅し、後には、小指の先ほどの、きらきらと光る水晶のようなものが転がっています。この水晶は、買取所へ持っていくと現金になるのだそうです。
「よし、だいぶ精度が上がってきたな、この”銃”での攻撃方法は、数で補うことも可能だが、基本は命中精度を高めること。確実に当てることが大事だ」ビリーは褒めながらコツを伝える。
「はい」シルフィは素直に応える。出会ってから1週間、近距離用の”拳銃”と、長距離用の”ライフル”(”谷”で犬頭の”怪物”を撃ったのがこれです)の2種類の銃を中心に使用法を伝授されていきます。すでに、シルフィは低レベルの”怪物”くらいなら一撃で倒すことができるようになりました。”銃”は急所に当てると”怪物”へ致命傷を与えて、一撃で葬ることができるようです。基本的に威力も高く、連射も可能です。装填数が”拳銃”で6発、”ライフル”で4発なので、それだけ撃ち切ると再装填に時間がかかるのが弱点でしょうか?
ビリーが言うには再装填も極めれば一瞬で行えるそうです。また、再装填用のスキルもあるとのことです。
「頼りきりになるのは問題だが、あるものは有効に使わないとな、大切なのは生き残ることさ」スキルの使用方法に対するスタンスをシルフィが聞くと、いたずらっぽく笑いながらビリーは言いました。
そう言いながら、”銃”を二丁両手に持ち、人型の”怪物”の群れに踊りこみ、次々に撃ち倒しながら目にもとまらない早業で弾丸を再装填し、数十体の”怪物”を瞬く間にせん滅させました。
「こんなものさ」得意げです。本当に子供っぽい人なのです。
***
旅を始めて半年ほど経ちました。シルフィとビリーは、文明圏の端っこ、シルフィーのいた村を中央からみた方向から、90度ほどずれて、中央から同じくらいの離れた距離の場所へとたどり着きました。
旅の間は、”怪物”を退治して水晶を集めたり、普通の動物などを狩り、それを売り払い、旅費に当てていました。ビリー曰く
「”怪物”を撃っているだけで金になるとは、いい世の中だねー」とのことです。
シルフィも腕前もかなり上がっていました。今では、走りながらでも20歩以上離れた目標でも急所を撃ちぬけるほどになっています。かなり異常な成長速度ですが、これにはある理由がありました。が、ビリーもシルフィも気が付いていません。ビリーは「すげー才能」と感心しているくらいです、まあ「おれの方が上だがな」と笑っていますが。
この辺境には、ビリーの本拠地があります。近くには定期的に湧いて出る”怪物”がいて、狩りをしたり、訓練をするのにちょうどいいのとのことです。周囲の町からは”魔の山”とか呼ばれている物騒な山であることは、ビリーもシルフィも知らないことですが。
「ではここで、本格的に訓練するとするかな?」
「はい」
第三者からみると、まだ訓練する余地があるのですか?という腕前にシルフィがなっているのですが、幸か不幸か、指摘する人はいませんでした。
***
低レベルの虫型”怪物”を、出現する端から撃ち倒し、森の中を散歩するように移動するシルフィ、歩みを止めないどころか、頭の後ろにも目があるのか?という様子で対象へ、撃ちこんでいきます、途中で、操る”拳銃”が二丁になり、移動速度も上がっていきます。
30歩ほども離れた、中級のレベルの猿のような”怪物”の眉間を一撃で撃ちぬき、木の上からたたき落とします。その気づいて、狙って、撃つという一連の動作は、スムーズで、スピードは目にも止まりません。
”弾丸”の威力も最初のころからは段違いです。魔法の熱量が違うようです。
熟練した狩人や、”怪物”を専門に狩る高レベルの”ハンター”も真っ青な腕前です。
さて、ここで、シルフィも、ビリーも気がつかなかったとある現象の種明かしをいたしましょう。
呪われて、レベルが上がらないとされていたシルフィですが、実は、経験した数値が深夜、日付が変わる時にリセットされ、レベルが1に下がるという仕様でした。つまりですね、日付が変わるまではレベルが上がるのです。
ただ、村での日常生活ではレベルが1日で上がるほど、経験の値がたまらなかったので、レベルが全く上がらなかったのです。しかし、今は、”怪物”を狩ることで経験を効率よく積んで、1日のうちに何度か、レベルを上げることができるようになりました。
そして、レベルが上がったときに、僅かですが、各種身体能力、認識、記憶力、学習能力への補正がつくのですが、深夜、日付けが変わる時、経験の値が0になり、レベルが1になった時は、””補正された各種能力は下がらない””のです。
しかも、低レベルの内では、少ない経験でレベルが上昇するので、短時間でレベルがあがり、一日に何度も、レベルアップし、能力の補正が複数回つきます。レベルも、次の日には1へ戻されるので、同じような狩り場で、同じように経験を積んでも、昨日と同じように、レベルが簡単にあがっていきます。低レベルで上昇する各種能力の補正幅はわずかですが、それがが積もり積もって、シルフィの能力は、常識では考えられないほどの、段階になってしまっているのです。
そして、上昇した各種能力のおかげで、さらに高いレベルの”怪物”も狩れるようになるので、同じ時間における、経験の蓄積効率とレベルアップ回数は、とんでもない勢いで上昇していくことになるのです。
結果、ビリーの本拠地”魔の山”へたどり着いて半年、村から出て、一年経つころには、シルフィの実力は控えめに言っても、世界で有数の戦闘能力をもつことになっていました。
しかし、相変わらず、シルフィ本人も、ビリーもそのことに気がついていません。シルフィは比較対象が、自身と同じく世界有数の実力をもち、腕前が上のビリーのみですし、ビリーは常識に疎いからです。
「そろそろ、竜種も狩れるかもなー」無邪気に笑うビリーさん。ちなみに竜種とは、”怪物”の中でも別格の高レベルな存在で、間違っても気軽に狩れる対象ではなかったはずです。
「楽しみです、師匠のように、竜種の”怪物”も一撃で倒してみたいです」最近、シルフィはビリーのことを師匠と呼ぶようになっていました。
「甘い甘い、目標は竜種くらいは”七面鳥を撃つくらい”の気安さでどんどん狩れるようにならないとな!俺みたいに!」師匠と呼ばれていい気になっているビリーさんです。
相変わらず、師匠は私の聞いたことの無い単語をつかうなーと、思いながら、シルフィもニコニコと笑っていました。
”魔の山”が可憐な少女に完全攻略されるのも時間の問題のようです。
とんでもない怪物が、生まれつつある、もしくは、生まれたことに、世界はまだ気がついていません。
幸いなるかな