幕間「微睡みに包まれて」
普段の半分程度の文量です。
ロキス国神保邸。
柔らかな日差しが窓から差し込み、真っ白なリビングを暖かく彩っている。
日光をたっぷり吸い込んだふかふかなシーツに包み込まれるような心地よさを感じ、神保はソファ上で気持ちよさそうに微睡んでいた。
前髪を目まで被せ、頬を淡い桜色に染め。時折くすぐったそうに口元を緩め、あどけない寝顔を披露する。
半分以上夢見心地な神保の肩に温かく繊細な指先が触れ、からかうような無邪気さで優しくタッピングされた。
耳元にミルクのように甘い吐息が触れ、春風のように穏やかな声音で「あらあら」と呟かれると。
神保はネコのように目を細め、無防備な表情をさらけ出し、小さくあくびを見せる。
「神保さん。今から萌さんと、ポウロ国からいらっしゃった武官様たちをお送りする予定なのですが、神保さんはどうしますか?」
普段と変わらぬ玲瓏な微笑みを向けられ、神保は一瞬立ち上がろうかと腰に力を入れたが。
寝起きの状態で姫君に面会を求めるのは失礼に値すると考え、神保は中腰の格好になったまま小さく首を横に振った。
「いいや。二人で行ってきてくれないか?」
「はい」
穏やかに応えると、メシュは「うふふ」と笑みを見せながらリビングを退出する。
ドアの向こう側で萌と何やら話す声が耳に入り、神保はもう一度夢の世界へと旅に出ることにした。
異常なほど眠い。
ここ数日間あちこち冒険をしたからか。異世界環境に慣れたせいで、油断のために抵抗力が弱まってしまったのか分からないが。
神保はソファの身体を埋めると、まるで女の子のように愛らしい寝顔を披露し始めた。
◇
玲瓏な日差しを受け、ライトグリーンなショートヘアが煌びやかに輝く。
頭上に生えるネコ耳を可愛らしくパタつかせながら、ジャスミンは清掃用具を持ってリビングに現れた。
ふぅ。と小さく溜息を着き、しばしの間リビングの清掃に勤しんでいたが。
ふとソファに眠る神保の姿を見つけ。ジャスミンは甘く透き通るようなロリボイスを放ち、穏やかに寝息を漏らす主に声をかけた。
胸の上で腕を組み、身体がソファから半分ほどずり落ちている。
非常に無防備な姿を晒し、神保は時折ピクンと身体を痙攣させていた。
「ご主人様」
「……くぅ」
非常にあどけない寝顔を披露され、ジャスミンはうっとりとその顔を見つめていたが。
起きる気配も無いので、神保の安眠妨害にならないよう細心の注意を払いながらリビングの掃除を再開させた。
掃除をしながらも、ジャスミンはずっと上の空である。
愛するご主人様が可愛らしい寝顔を見せ、しかも当然無防備かつ無抵抗。
時折身体をモゾリと動かすのが、何ともなく魅力的だ。
ジャスミンは少し躊躇ってから、辺りを見渡すと。誰もいないことを確認した後で、そっと神保の傍に歩み寄り。
「…………」
添い寝をしてみた。
広いソファーなので、幼い少女のような体格をしたジャスミン程度なら、無理なく転がることができる。
穏やかに寝息を立てる主と全身が密着し、ジャスミンの吐息が若干荒くなる。
腰周りに生えるネコ尻尾は緊張と興奮のあまりピンと張り詰め、頭上のネコ耳は先ほどから止める術もなく、忙しなくパタパタとはためいていた。
「んぅ……」
神保の口元から心地よさそうな声が漏れ、ジャスミンの秘めたる恋心を掻き立てる。
奴隷が主を想うことなどいけないことなのだろうが、ジャスミンだって普通の女の子なのだ。
想い人を目の前にして、平常心を保っておくことができるわけが無い。
ジャスミンは繊細な腕をそっと伸ばし、神保の頬を優しく撫でる。
柔らかい耳たぶを温かみのある手つきで摘むと、フニフニと指先で揉んでみた。
男の子の身体は割と硬いところが多いけど、ここは男女共通で柔らかい。
いつまでも触っていたい感覚を覚え、ジャスミンはうっとりと目を細めていたが。
「……ん?」
眠っていたはずの神保が薄く目を開く。
前髪の隙間から凛々しい瞳が顔を覗かせ、困惑した表情のジャスミンをしっかりと捉えた。
微睡みから覚めたら、目の前に愛らしい女の子の姿がある。
このような状況で、掻き立てられた愛念を抑えることができるだろうか。
動揺して総身を戦慄させるジャスミンをギュッと抱きしめると、ジャスミンのエルフ耳を優しく甘噛みした。
「――!」
未知なる感覚。
エルフだから特別耳が敏感などというわけでは無いが、突然のこの感覚には思わず鼓動が速まる。
神保に抱きかかえられたジャスミンは身体をピンと張り、尻尾をビクビクと痙攣させた。
「も、申し訳ございません。ご、ご主人様」
「謝るようなことなんてしてないでしょ?」
神保の腕に力が込もり、お互いの鼓動がはっきりとわかるくらいに全身を密着させられる。
全身が心臓になったかと思うようにドクドクと震え、ジャスミンの顔がみるみるうちに紅潮していく。
自身が身に纏うメイド服に手をかけられ。ジャスミンは目を瞑り、この後に起こるべくロマンスに期待して、全身から力を抜く。
生々しい衣擦れの音が耳に響き、目眩を起こしそうなほどに心地良い開放感を得たところで、突如聞きなれた女性の声に邪魔をされた。
「お姉さん、何をしているんですか?」
その声を耳にして、ジャスミンは罪悪感のためか目を開くことが出来ない。
無抵抗になってご主人様に抱きしめられている自身の姿。
声の主であるメリロットも、自分と同じくご主人様をお慕いしている。
背中に冷たい視線を感じ、ジャスミンはまた別の意味で鼓動が速くなってきた。
「お姉さん、抜けがけとかズルい」
「メリロット」
神保はメリロットの双眸をしっかりと捉え、誘うように手招きをする。
前髪によって目が隠れているので、どのような表情をしているのか定かでは無いが。
多少不機嫌な表情をしたメリロットは、拗ねたように神保の元へと歩み寄り、尻尾を丸めながら唇を尖らせる。
「何でしょうか、ご主人様」
「おいで」
肩を引き寄せられ、メリロットの小さな身体は神保の上へと覆いかぶさった。
眼前に広がるご主人様の柔らかそうな口元。
メリロットが思わず喉を鳴らすと、またしても引き寄せられ、メリロットの桜色をした唇を神保によって奪われた。
口腔内を甘い舌が暴れ、メリロットの身体から徐々に力が抜けていく。
二人の熱烈な愛情表現を目の当たりにして、寂しくなったジャスミンは神保が着込む衣服を優しく剥ぎ取り始める。
三人の吐息が絡み合いながら、ゆっくりと時が過ぎて行った。




