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卒業

学舎に通い、メルコと雑談して帰宅して鍛錬して、そんな日々を繰り返しているうちに学舎を卒業する日となった。


庭に学生が集められ整列させられる。その中に自分もいた。前に校長がおり、演説をしている最中である。


「君達は今日卒業を迎えられる。しかし君達にとっては人生の始まりであり・・・」



その長話を聞きながら周囲では感極まって感動している者もいた。


が、自分にとっては退屈に過ぎず、早く終われ、眠いと思っていた。


「魔族や人間という種族の垣根を越えてですね、一丸となって次の時代を築いて頂きたい!」


と締めくくられて校長の話は終わった。学生たちの拍手が鳴り響く。


その中自分は棒立ちでいた。


───理想論だ。そう思わずにはいられなかった。


人間と魔族には明らかに差がある。それは「格差」となっている。ここにいる学生は気づいていないのかもしれないが、この差は決して埋まらないだろう。決して。


「卒業式」が終わり、一度教室に集められた。全員着席し、前にはハゲ。


ハゲは涙ぐみながら


「君達の進路はもう決まっている、魔族軍で働くことだ。特にナンバー1・2・3、君達は優秀で魔術師部隊への参加も決まっている。自分の生徒から魔術師部隊に参加する者が生まれたのは初めてで先生は嬉しい!」


1・2・3も涙を流しながら「ありがとう御座います!最高の魔術師になるべく頑張る所存です」等とナンバー1はいっていた。


周囲も、メルコでさえその雰囲気にあてられたのか涙を流していた。


くだらない、外を見ながらそう思った。


茶番よ早く終われ。


と思っているうちに終わった。


そうして解散。


もう彼らの顔を見ることもないのだろうな、と思っていた。


思っていたら門の前で声をかけられた


「よう8」ナンバー1だった。


「なんだ?」


「なんだ、じゃないだろ。なんでしょうか、だろう?これから俺は魔術師部隊に参加するんだぜ。一気に偉くなったわけだ」


眩暈がした。立ちくらみか。


馬鹿につける薬が欲しい。確かに身分は保障されるが、こいつの「器」が大きくなったわけでも当然偉くなったわけでもないのに一体何を勘違いしてるのだろうか。そもそもまだ参加すらしてないし、魔術が上達したわけでもないだろう。


あーいやいやよそう。馬鹿のことを考えると頭が痛くなる。


「そうでしたね、おめでとうございます」


とりあえず答えた。


「気持ちがこもってねえなあ、気持ちが!」


やれやれ、何故最後までこうなるのか。黙っているとナンバー1は言葉を続ける。


「父も魔術師部隊にいるし、これから一気に魔術の進歩が進むだろう」


「そうですか、それは何よりです。もう失礼してもいいでしょうか」


我ながらアルカディア語が上達した気がする。


「いやいや待てよ。結局最初から最後まで俺を尊敬もしなければ恐れもしなかった人間はお前だけだったぜ」


等と言い出した。


「いえいえ尊敬してますよ」


その馬鹿さ加減は尊敬に値するのでそう答えておいた。


「その馬鹿にした態度が気に入らねえ。軍の厳しさを早く知った方がいいだろう。上下関係をきちんと教えてやる」


学舎の裏山に来い、二人で勝負だ、と言い出し


「勝てるわけないでしょう」



「逃げるのか、逃がさんぞ」


いよいよ面倒くさい方向に話が進み、気づいたら二人して裏山に来ていた。


「ここなら誰もいない、俺の恐ろしさを教えてやる」


探知に誰も引っかからないことを確認して内心ほっとした。


「そうだな、誰もいない。で、どうするんだ?」


「殺しはしないが、死ぬほど怖い目にあってもらう」


そういって掌に魔術を込めるナンバ-1。


だが遅い。


影を呼び出し後ろに回らせ思い切り蹴り飛ばさせる。その一撃でナンバー1は気絶したようだ。


こちらに無防備で飛んできたのでさらにもう一撃顔面に右拳を叩きこんでおいた。


影との連携も上手くいって安心した。と思ったら次に不安が襲いかかってきた。


「しまった、2発目はやりすぎた」


見た感じ鼻の骨は折れているだろう。起きた時に証拠が残ってしまう。


影を慌てながら回収し、ナンバー1の記憶も消去しておくことにした。


右手に「電撃」の魔力を込め仰向けに倒れているナンバー1の脳に強く流し込んでおいた。身体が小刻みに震えている。・・・やりすぎたか?


「初実験だ。死ななければいいが。あ、いや。無事に記憶が消えていればいいのだが」


卒業式後の教室を出たあたりからを狙って消したつもりだが、案外学舎生活の記憶まで消し飛んでいたりしてな。


まあ、いいか。


要は今日の俺との記憶がなければいいのだから。


「そうは思うが、呼吸してるかくらいは・・・」


確認しておかねば。大丈夫、呼吸しているから生きているだろう。


ふう、記憶消去の魔術の本を読んでおいてよかった。


消去出来たか確認出来ないのは痛いが。


万が一覚えてた場合は消すしかないな。次は記憶じゃなくて肉体の方を。


今は学舎の近くで足がついてしまう恐れがあるが軍に参加すればやりようもある。


そうだな、同じ魔術師部隊の誰かと争いになって死んだように仕向ければいいことだ。きっとよくあるだろう、魔術師同士のぶつかり合いくらい。学舎でもこうしてあったんだ、軍だともっとあって然るべきではないか?


そうだ、もし覚えてたらそうしよう。そうするのが良い、そうするべきだ。そうしなければならない。


そう心に決めるとその場をそそくさと離れ、学舎の前に戻るとメルコが偶然いた。


適当に雑談し「また魔族軍で」


どちらともなくそう言い別れた。









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