屋上にて
当初の目的である屋上についた。なんだか無駄に時間がかかったと思う。鉄板を元に戻し、まずは魔力探知に魔術探知を行う。これは屋上に来る度に行なっていることだ。
人が基本的に出入りすることがないので特に探知にかかるものもなかった。一応屋上だし、空から魔族の連中が来るかもしれないので探知したままにしておこう。下は・・・誰も来ないだろうからいいだろう。鉄板あるしな。
横にいるメルコに「真ん中にいこう」といい、学舎の中央地点に向かう。歩いていると
「魔力は感じるけど、一体何の魔術使ってるの?」と横にいたメルコが尋ねてきた。
「いや、別に使ってない」
いつものやり取り。むぅ、私の思い違いかなぁと唸っているメルコ。そうしていつもの場所についたのでその場に二人して座る。日に当たっていたので暖かくなっている茶色の煉瓦が気持よかった。
「さて・・・メルコよ」
「なーに?」 首をかしげてきたので右手で素早く顔をアイアンクロー、からのこめかみに向かってグリグリ攻撃。
「い、いた!痛いよ!」本気で嫌がってるメルコ。あまりやると泣き出すので適当にやめて
「とりあえずお説教な」
「え、なんで?」
「お前は俺の名前を人前で出そうとした、そうだな?」
「そんなことしてないよ」と言うから
「いやした。廊下で名前を出した。あれは人前で出そうとしたのと同じだ」
「それを言ったら3階で・・・」
「あそこには人がいなかったのを目視で確認出来たからいいんだ」
まあ、それでも人がいなかったとは限らないんだが・・・考えすぎだろう。ちょっと自分でミスをしたと思うのが3階で探知をしなかったことだ。いつも屋上では探知をするが屋上に来るまでに探知をし忘れることはあった。今回は探知し忘れていたケース、油断をしたな。誰もいなかったことを祈りたい。
「ごめんね」 しょんぼりした顔で謝るメルコ。
「とりあえず、説教しておくぞ」
「うん、どこまで理解出来るかわからないけれど」
「じゃあこれだけまずは理解しろ」と言うと、ん?と言うから
「いいか、人前で名前は出すな。二人の時だけだ。絶対二人の時だけ、いいな?」
「分かった、けどなんで?」
前も言ったと思うが、どこまで理解出来るか分からないけど説明しておこう、と前置いて
「いいか?まず学舎のナンバー制のルール。あれは意味がある。単純に学生の順位を誇示するための番号じゃない、と俺は思っている」
「というと?」
「先生も誰も疑問に思っていないが、俺は疑問だ。別に順位を示すだけなら廊下にでも名前と順番を張り付ければいいことじゃないか?しかしそれをしない」
「・・・疑問に思ったこともなかったよ」
「だろうな、普通疑問にすら思わないことだろう。そこで一つの可能性が出てくる。おそらくこのルールを作った人間の意図とも言うべきものだろうが・・・」とメルコを見ると聞き入ってくれているようなので続ける。
「学舎では習わないことだが、名前を媒介にした魔術が存在する。自分自身詳しくはないが、名前を縛る・・という表現が正しいのか。とにかく名前を使った魔術で出来る事は強制や呪いといった類の魔術が行使出来るものもあるようだ」
「ふーん、けど学舎で習わないなら誰にもできないんじゃ・・?それは考えすぎだよ」と、メルコが言うから
「いや、そんなことはないだろう。やろうと思えば出来る人間がとりあえず一人いるじゃないか」
「え?誰?」
「・・・俺だよ俺!」思わず自分を指さしてしまった。
「え、使えるの?」
「使えるか試したことがないから分からない。が、名前が分かれば使える魔術という知識はあるのだから出来ないことはないだろう。失敗した所でデメリットはないぞこの魔術」
「デメリットがない魔術なんて存在しないと先生が言っていたような」
んー、これはどこまで説明しないといけないんだ?と思いながら
「あるじゃないか、大きなデメリットが」 えっ、と素っ頓狂な声が聞こえてきたのでため息をつきながら
「だから、逆を言えば名前がバレなきゃこの魔術は行使出来ないことが大きなデメリットなんじゃないか?」
「あっ、そうか!気づかなかったよ!」と言いながらも、「けど・・やっぱり考えすぎだと思うな私」と続けたメルコ。
「まあ、確かに考えすぎなんだろうな。が、用心に越したことはないし学舎のルールなんだ。きちんと守っておくべきだろう」
「それもそうだね、ごめんね」
「分かってくれればいい」
確かに考えすぎなのかもしれない。だがこの学舎のシステムは明らかにおかしい。試験の成績が変動することも当然あるわけだろう。その際にはナンバーも当然変わる。なのに他人を呼ぶのに「ナンバー」を使っているのはそうでもしないと説明がつかない何かがあるのではないか?
もし何もないなら嫌なルール以外の何物でもないだろう。常に自分の順位を公表されるだけのシステム。それだけで学舎の中での格付けが為されるルールとなってしまう。何かしらあってもいいものだが。
「さて説教は終わり。せっかくきたんだ、適当に雑談して帰ろう。幸いもう授業はないしな」
「うん。ここに二人でいると成績のこととか気にしなくていいからいいよ。いつもドンケツとか言われるし、嫌なんだよね」
「ふーむ・・・」
しばらく考える。おそらく通常の人間なら「見返せるように努力しろ」と言う所なのだろうなと思う。事実、自分の両親にそんな弱音を吐けばそう言われるだろう。だからこそ自分はこう言いたい。
「勉強って何のためにするんだろうな、と考えたことはあるか?」
「え?」 突然の問いにびっくりしているようだ。
「そもそもお前、底辺にいるけどそんなに困っているのか?まあ、確かに学力のことでいじめられてはいたけれど。現在進行形か?」
「大問題だよ、私にとっては」とてもしょんぼりとしながら返してきた。
「ふーむ、けど俺も学力でバカにされることもあるわけだ。ほれ、さっきもバカにされてたろ。8番だから取り立てていいわけでもないんだ」と、いった所で
「ファフニル君は1番だよ!」と鼻息を荒げるメルコ。あー、わかった、と言いながら
「これは個人的な考えだが、学力や運動力で成績を決めること自体おかしいというか限界があるんじゃないか?まあ、ルールだから仕方ないんだけど」
「ん?どういうこと?」
「よく考えてもみろ。魔族と人間族は生まれにおいて能力値が違うことは歴史で実証されているわけだろう?事実そのせいでアルカディア戦争は勃発しているのだから」
「・・・そういえば、そうだね」
「で、結果的に学舎が設立されこうして子供たちは一つ屋根の下で生活して魔族と人間族は和解したように見える。が、実情何も変わってないことにお前は気づいているか?」
「え?」
「順位だよ、順位。お前が底辺の理由だよ!」
「なんでそこで私が出るのよぅ」というので
「お前が底辺な理由は勉強自体はしているが結果が出ないことと、運動能力が他と比べて劣っているからに他ならない、そうだな?」
「うっ、酷いよファフニル君・・・」気にしてるのに、と言うから
「すまんな、ただここで考えてほしいのはお前が問題じゃないということだ」
「よく、わからないけど・・・どういうこと?」
「単純に考えてもみろ。運動能力で魔族の1・2・3に勝てるか?勝てという方が難しんだこれは」
「た、確かに・・・」
「この時点でランク付けは魔族にとって有利。だから上位7人は魔族だろう全員な」
「そういえば・・・考えたこともなかった」
「魔族10人と人間10人いる教室でこの評価制度、さてお前はどう思うか・・・なのだが」
「・・・そう考えるとファフニル君8番って凄いね」等というので、お前が関心するのはそこか・・・と言いおいて
「さらに魔術は人間たちも知識として知っているが、扱うとなると別だろう。事実実習において人間族の魔術ははっきり言ってド下手だ、もちろんお前もな」
「ひどいよぅ!」
なんか愉快な気持ちになってきたので少し笑いながら
「いや、けどお前は魔術のセンスにおいては一つ抜けてるよ。おそらく教室内の中で1番だと思う」
「えー、けどドンケツだし・・・何の根拠があって」
「根拠ならあるさ」
「え?」
「だってお前、俺の視えない魔術に気づいたじゃないか。だからセンスは1番なのさ」
「えー!?けどドンケツだし・・・」
「そのドンケツっていうのやめろ。いいか、学舎の評価等意味はない。あの評価は明らかに魔族主体の評価で、人間じゃまず勝てない。誰が作ったか知らないが随分魔族優位な評価制度を作ったもんだ」
メルコが黙ってこちらを見ていた。おそらく次の言葉を待っているのだろう。だから続けた。
「さらにこの評価が歪んでいると思うのは、魔術による行使がそのまま評価に繋がることだ」
「ん、よく分からないんだけど?」というので
「試験を考えても見ろ。例えば氷の魔術の試験だが、なんだありゃ。氷のツララを作る試験があったろ。何を評価基準にしてるかって、出来たツララの長さだぜ?」
「あったね・・・、私50cmくらいだった。1番なんて5mだから凄いよね」
「そうだな、だからあいつはナンバー1で、俺は8番で、お前は20番だったわけだ」
「うん・・・」しょんぼりとうなだれるメルコ。やれやれ、仕方ないな・・・、と思いながら立ち上がり
「メルコ、見てろよ。座ったままでいい」
「う、うん」
メルコを横に座らせたままにする。
「ちょっと準備をするから待っててくれ」と言って少し離れる。
流石に探知をしながらの魔術操作はしんどいか・・・。誰もいないようだしとりあえず一度探知はやめて「土」の魔術を使う。巨大な煉瓦を創りだした。そして元の場所に戻り、
「いいかみてろよ」と次に操作するのが「氷」の魔術。長さにして30cmほどのツララを作成した。それを先ほど作った煉瓦に向かって魔力で飛ばす。
「それくらいなら私にでも出来るよ」とメルコが言う。おそらくそう言うだろうなと思ったので続けて
氷のツララを作って飛ばして作って飛ばしてを繰り返す。
「え・・・、えっ!?」
ようやくやりたいことに気づいたらしい。そう、同じ所に高速で氷のツララを飛ばし続け出来たのは長さ5mほどにもなる氷のツララ。形はいびつだがツララはツララだろう。
「と、言うように氷の魔術も行使の仕方次第でこうなる。はっきりいってあの試験そのものがナンセンスなんだ」
とメルコの方を見たらポカーンとしてたので後片付けをすることにする。掌に氷の魔術妨害を発生させツララを消し去って、次に土の魔術妨害で煉瓦を綺麗に消滅させ元の場所に戻る。
おっと、探知をしなおして・・・誰もいないことを確認。見られてたら面倒だからな。
そして未だ唖然としているメルコの横に座ると
「確かにナンバー1は凄い。よくあそこまで大きな氷のツララを作ったと思う。俺も本気で練り上げたことはないけれど、せいぜい10mくらいが限界じゃないかと思うし。実用的じゃないから作らないけどな、だが・・・」
「魔力を練り上げるのに10分はかかっていたし、あんなの実戦じゃ使えない。実戦で敵は魔力を練り上げることも待ってくれないだろう。そして基本動いての魔術行使になるだろうし・・・って聞いてるのか?」
「あっ、うん。この発想はなかったよ」と我に返ったようでようやく反応してくれた。
ちょっと嬉しいな、この発想はなかったという言葉。
「思うが・・・、魔術は発想力の勝負じゃないか?そしてメルコが偶然にも発した、これくらいなら私にでも出来るという言葉。実はこれが重要で、これを最速かつ効率的にやった人間が始めて魔族に勝てるんだと思うぞ」
「うーん?」と首を傾げているので
「要は出来る事をやればいいんだろう。ただ、通常のやり方ではダメだ。考えなくては」
「考えるか・・・」メルコが考える考える・・と反芻している。
「そうだ、お前はお前に出来る事をすればいい。だが、お前にしか出来ないことをするんだ」
「私にしか・・・出来ないこと」
「それを気づかせてくれるのが勉強なのだろう。やれることを増やすといえばいいのか?やれる選択肢は多いに越したことはない。そこに優劣つけるほうが本来どうかしてるんだよ、そうじゃないか?」
「私、ファフニル君と友だちでよかった」
「ばかだなあ、これからも友達だろう」
「あれ、ところで・・・」
「ん、なんだ?」
「ファフニル君って人間族なのに、どうして8番・・・なの?」
と言われ少しドキリとした。よりによってそこに気づくか。
「さて、どうしてだろうな?宿題にしておこうか。早速考える事が出来てよかったな」となんとか答えておいた。