学び舎にて
その昔、アルカディアと呼ばれる巨大な大陸があった。そしてそこには、大きく分けて3つの種族が生存していた。「魔族」「人間族」そして「竜族」である。そして、この物語は「魔族」と「人間族」の間に生まれた「魔人」と呼ばれる、魔とも人間ともつかぬ生き物の物語なのである・・・。
時はアルカディア歴150年。100年以上も続く力と力とのぶつかり合いによる戦争が未だ続いていた。魔族と人間族との戦いが明けることもなく繰り広げられているのであった。それもそのはずで、魔族と人間族は容姿も違えばその個人能力も違う。大きな特徴を挙げるならば、魔族は基本的に大きな「こうもり」のような羽を持って空は飛べるし、耳も尖っているしとても力が強い。逆に人間族にそのような羽はなく空は飛べないし、そして何より非力であった。その結果どういうことが起こったのか。
力こそが全ての時代の到来である。人間族は魔族に屈するしかなかった。力による魔族の支配が続いた。
しかし、人間は諦めなかった。ある人間がこう言います。「我々は確かに魔族と比べて力もない、空も飛べない。・・・しかし!私達には奴らにはないものがある。それは意志と知恵だ!」
人間は魔族と比べて非力であったが、その非力を補うだけの「知恵」を持っていた。それは生きるための術であった。
魔族は魔術と呼ばれるものによって火を起こしていたが、人間族は木を摩擦させることで火を起こすことに成功し「火矢」を開発。そして人間族は力をつけ魔族に対して叛旗を翻すのであった。この戦争を後の歴史家はこう名付けている。「第一次アルカディア戦争」と。
そしてアルカディア歴155年。この戦争がいつまで続くのかと誰もが思っていた時突如として登場する魔族がいた。その名をバルバロッサと言う。バルバロッサは魔族をまとめあげ統率、指揮し人間族を一気に殲滅した。こうして第一次アルカディア戦争は魔族軍の勝利によって静かに幕を降ろした・・・。
ここまでがアルカディア大陸の歴史。今では誰もが知りうる「常識」である。そう、常識なのだが・・・と窓の外を見ながら物思いに耽っていると、
「おい・・・そこ!ナンバー8!」
ナンバー8、とは俺の記号だ。その結果何が起こったのかというと、魔王バルバロッサの統治によって魔族と人間族は和解。お互いの知識や知恵を出し合って生きていくことにし「学舎」と呼ばれるものを作った。その学舎に入れられたのはこれからの時代を築いていくであろう子どもたちで、そのうちの一人が俺、ナンバー8である。ちなみに数字は成績の順番で、教室で8番目の子という意味でもある。
「あっ、はい・・・」
と気のない返事をすると
「大事な歴史の時間に何を気をゆるめているのか!魔族と人間族がこうして仲良く一つ屋根の下で勉強出来る事をなんだと思っている!」
「あ、はい。すいませんでしたー」
「まったく・・・、お前のようなやる気のないやつは出て行け!廊下にでも立っていろ!」
うるさいハゲである。叫ぶついでと言わんばかりにそのハゲは背中についた大きな羽をばたつかせる。自分は魔族だぞとアピールしているのである。さらに距離で言うと10mは離れているのに耳元で叫ばれている気がするのだからとてつもない大声だ。この大声はここまで行くと才能か災害だな。
「分かりました」
そう言うと、静かに椅子を立ち廊下に静かに退散。
それでは授業を続けるぞ!と扉を閉めても聞こえてくる声。その声を背にしながら考え事の続きを始める。
確かにアルカディア歴155年に第一次アルカディア戦争は終わった。これは事実だが、違う所もある。バルバロッサによって戦争が終結されたと思われているが、実際はその参謀の力による所が大きい。魔族軍参謀長ファフニルである。ファフニルが実際は軍を指揮し戦争は終結した。しかしファフニルの名が歴史に残らなかったのは「カリスマ」がなかったからだろうと俺は分析している。単純に魔族受け、人間受けがよかったのがバルバロッサで、ファフニルは・・・そうだな。受けが悪いわけではなかったが、目立つわけでもなかっただけのことだと個人的に思っている。
まあ、よくある話だろう。事実この教室にだってあるさ。ナンバー8って言うのは教室の成績順位だ。20人いて8番なのだから悪くはないのだろうけれど、取り立てて目立っているわけでもない。逆に1番ときたら派手で、テストの点数は見せびらかすし魔術の試験もとにかく派手。じゃあ人間関係が悪いかというと、これが良いんだからどうなってるんだろう・・・などと思っていると教室と廊下に鳴り響く「カランカラン」というチャイムの音。外にある巨大なチャイムが鳴っているのである。いつもチャイム鳴らす人大変だなと思う。
と───
「フンッ!」
左手の扉をガランと開けて出てくるハゲ教師。こちらをギロリと睨んできたが気づいてないフリをした。向こうに立ち去っていくハゲ。
その後に続くナンバー1、ナンバー2、ナンバー3。なんでこいつら3人いつも行動してるんだろうか、と考えていると3人がこちらに近づいてきた。何か面倒な予感がする。
ニヤニヤしながら、そして背中の羽をばたつかせながらナンバー1が「おいおい、なんだあのザマァ?だっせえなあ。そんなんだから俺様に勝てないんだよ、勉強も運動もよぉ」と言い、ナンバー2、3と続いて
「そうだよ、ナンバー1様を見習いなさいよ!カッコ悪ぅ」と羽をバサッと広げながら言う2。
「ほんとほんと、これだから8番は」これまた羽をバサっとして続く3。
・・・これはどう返せば正解なんだ?とりあえず
「そうだな、1を見て学ばないとな」と答えた。すると、
「おいおい、学ばさせてください、だろ?アルカディア語を正しく使えよな」と返答が。どうやら何かを間違えたらしい。何か理不尽さを感じるが、まあいいか。
そうだそうだ、これだから8番はと2、3が続く。・・・なんだ、これ面倒なんだが。
「すまないな、国語力も平均だからそんな立派なアルカディア語すぐに出てこない」
「へっ、言葉の不自由なやつはこれだから・・・」もっと国語を勉強しろよなーと3人はどこかに立ち去っていった。一体何をしたかったのだ、彼らは。・・・そしてもう一人は一体何をしたいのか。
「どうした?お前も俺に何か用か?」
「あ、うん・・・気づいてたの?」
しょんぼりとした顔をしながら教室からこっそり出てくるもう一人。ナンバー20である。トゥウェンティと呼ぶのは面倒なのでドンケツと呼ばれている。ちなみに19番目はブービーだが、まあどうでもいいだろう。
「やれやれ、誰に言ってるのやら」
「そ、そうだよね・・・今更だよねファフニル君」
「おいこら、ここでその呼び方はやめろ」
思わず舌打ちして
「ったく、屋上いくぞメルコ」
と、ドンケツ・・・正式名「メルコ」の小さな手を思い切り引っ張り屋上に連れて行くのであった。