No,1
「はぁ……。
先程自己紹介の時間があったので知ってますが……」
彼女から帰ってきた言葉は素っ気ない返事だった。
それにやっぱり俺の事は覚えていないらしい。それは仕方ない。だって9年も前の話だから。それに俺が居た時期が短いからこれと言った思い出もない。挨拶とちょっとだけ話をして、またねってお別れの言葉を言っただけ。
俺だけかと寂しい気持ちは覚えつつも割り切るしかない。とりあえず彼女と何か、ちょっとした事で何でもいいから話したい。
「えっと……。
さっきの自己紹介で皆好きなものとか特技話してたけど、白石さんは無かったなと思って……。
何か好きなものある?」
怪訝そうな顔してる。そりゃ彼女からしたらクラスメイトとは言え今日が初対面の異性で話も急な事だ。不信感あるしこの話題は失敗だったかなと心の中で泣いていると、
「生き物……」
「え……?」
「動物とか見たり、動物図鑑も読んだりするのは好きですよ」
「それってアリとかも?」
「え、まあはい……。
昆虫とかは見るだけですけど……」
「いいよね、俺も結構好きだよ」
少しだけ思考が止まった。次第に色々な感情が湧いて出てきて嬉しくなった。
なぁんだ……。俺が好きになった彼女のままだったって思った。あの時みたいな笑顔は今の白石さんには見えないけど、それでも記憶のあの子と全然変わらない。いや、あの時は可愛いと思った。今は高校生でずっと大人に近付いて可愛いけど綺麗だとも思ってる。うん。いや、心の中で思うだけだけど変態に感じてきて少し焦る。
うんうんと心の中で色々な思考を巡らせている俺を見て何が言いたいのか分からなそうな顔。ごめん、この後の話が思い浮かばない。無計画過ぎた。もっと話題かき集めてから行動すれば良かったと若干の後悔。そもそもほぼ初対面だから当たり前だよ。俺だって白石さんの立場なら困惑する。
ほら、今凄く困ってる顔してる。ごめん白石さん。頑張れ俺、何か話題を探すんだ……。
「えーーーっと……。あ、そうだ。俺最近ここの近くに引っ越して来たんだけど良かったら案内とか……」
いきなり過ぎたかなと思ったし、多分引っ越して居なければ白石さんだってここの近くは地元ではないはず。多分3駅くらい離れてると思うし、全く知らない可能性の方が高い。これも話題としては大間違いで空振りが凄い。
「すいません。私ここの高校の近くは知らなくて……」
ほらやっぱり!!
想像通りで面には出さないけどがっくり落ち込む。
「そっか、ごめんねなんか。
じゃあそろそろ時間になりそうだから席戻るね」
「はい」
失敗ばかりで印象は良くないかもしれない。
また会えなくなるかもしれないと考え焦っていた。9年も片思いをし続けてきたんだ。
中学の頃は周りも興味を持ち始めてカップルになる人が多かった。大体の人はすぐ別れていたけどそれでもなんとなく俺もいつかはそうなのかなって思いながら見てて、でも身近な人よりも遠くにいた彼女の事を忘れられなくて、告白もされた事もあったけど頷く事は出来なかった。
他の女の子を好きな状態で付き合うなんて不誠実だし、自分が相手の立場なら嫌だったから。その子に恋人がいて諦められるなら良かったのにって思ってた。
あの子が楽しく過ごしていたらいいなって。友達と笑って居たらいいなってずっと思ってたんだ。
「はぁ……」
思わず出るため息。多分共通点なんてほとんどない。だからこそ白石さんと話す為の話題は必要だし、その為には何をすればいいんだろう。彼女の後ろの席なら良かったけど生憎俺が一番前。時々何をしてるかなって見ることも出来ない。だから積極的に話すしかないけど……。
今の彼女を見ていると不安と心配が強い。多分俺が転校した後に彼女に何かあったんだろう。それが何かは分からないけどそれは良くない事で、近くに居られたら彼女を守ったり支えたり出来たかもしれないと思うとモヤモヤしてくる。
でも今あーだこーだ考えても仕方ない。俺の気持ちが成就するとも思ってはないけど、彼女の笑顔がまた見たいから俺が頑張るしかない。
心の中でそう誓った。勝手に。




