ざまあ案件の聖女に転生しましたが、悪役令嬢が最推しだったので、ずっとついていきます
少しずつ短編を出していきたいと思います。
バシン、と大きな音と同時にリリアを襲った衝撃で、リリアは、前世を思い出した。目の前には今し方リリアが婚約相手を奪ったエメラルダが震えながら立っている。目は赤くなっているが、それでも美しさは損なわれていなかった。
(こんな時でも美しいなんて、尊い!尊すぎる!できるものなら写真に撮りたい!)
リリアはジンジンとする頬を押さえながら、心の中で思わず悶えた。リリアが前世で読んでいた小説の推し。それこそがエメラルダだったのだから。王妃教育を完璧にこなし、王太子の代わりに学園で生徒会長をも務める才媛。王太子の企みで婚約破棄をされるものの、隣国の王子に救われ、隣国を発展させつつこの国を併合してしまう、いわゆるざまあ案件だ。そして自分は彼女から王太子を奪うヒール役だ。
(私と王太子は一緒に処刑されちゃうやつだよね)
なぜ婚約破棄を言い渡した後に思い出してしまったのか。最悪のタイミングを呪いたくなったものの、今更元には戻らない。
「やはりそうやっていつもリリアを虐げていたのだな。エメラルダを連れて行け!」
王太子は近衛兵にそう命じると、リリアの肩を抱く。
「大丈夫か、リリア。今まで辛かっただろう。」
「い、いえ。そんなことはありませんわ。」
さりげなく王太子と距離を取ろうとするが、王太子がにじり寄ってくる。
「リリアは優しいな。いつもそうやってエメラルダを庇っていたんだな。しかし、もう恐れることはない。私がついている。」
それからなんだか甘い言葉を囁いていたようだが、リリアの耳には全く入っていなかった。
「それで、何をしにいらしたの。」
夜中にこっそり会いにきたリリアに、エメラルダは冷たい瞳を向ける。
(はうっ。その冷たい瞳もご褒美ですう)
思わずリリアは胸をおさえる。いっそのこと、このまま近くで鑑賞したいところだが、そう言うわけにも行かない。
「あの、信じられないとは思いますが、エメラルダ様をお助けしたいのです。」
「……信じられるわけないでしょう。逃げ惑う私を見て笑いたいというなら、まだ納得をいたしますわ。」
「ですよねえ。」
今まで散々冤罪を押し付けてきたのだ。信じてほしいという方が無理だ。かといってこのままではエメラルダには会えず、処刑されるだけの未来が待っている。要は自分がエメラルダと一緒にいられればいいのだ。
「ではこうしましょう。私と逃げてください。エメラルダ様と私は一緒にいたいんです!」
リリアの言葉は予想外すぎたのか、エメラルダは頭を押さえた。
「貴方、自分が何を言っているのかわかっていらっしゃるの?王太子の愛を得て、王妃候補となるのに、逃げている暇などないでしょう。そもそも私のことは嫌いだったのではないの?」
正論である。エメラルダはどこまでも真面目だった。
「いいえ!私は…そう!私はエメラルダ様を王太子という鎖から解き放ちたかっただけなんです!エメラルダ様は、自分の役目だからと、ずっと王太子の婚約者をつとめられていました。でも、本当は他にしたいことがあったのではないですか?」
静かな牢屋にリリアの声が響き渡った後、沈黙が落ちる。エメラルダは口を開けたまま彫像のように固まってしまった。
「……それは、聖女としての神託か何か、なのかしら。」
喘ぐように言うエメラルダにリリアは大きく頷いた。
「そうです!神様がエメラルダ様には好きに生きてほしいって言ってます!」
もちろん嘘である。エメラルダが幸せになるならば、そして自分の側にいてくれるならば、リリアはどんな嘘でもつく。聖女なんてクソ喰らえだ。
「……笑わないって誓ってくれる?」
「もちろんです。」
大真面目にリリアが頷くと、エメラルダは顔を背けた。耳が赤い。
「私ね、海賊になってみたかったの。」
「……はい?」
「海をまたにかけて、あちこち冒険するのよ。あ、もちろん海賊と言っても商船から金品を巻き上げたりしないわ。どこかに眠っているお宝を探したり、悪徳商人や他の海賊を倒したり。そんな冒険がしたかったの……!」
ぎゅっと手を握りしめて言うエメラルダに、おもわず前世で読んだ漫画を思い出したが、エメラルダには通じないだろう。
「壮大な夢ですけど、実現できる手立てはあるんですか?」
リリアの現実的な質問に、エメラルダはうふふと笑う。
「私が何の楽しみもなく王太子の婚約者なんてやっていたと思っているの?各国の状況がいち早く分かるのよ?ちょっと情報を操作するだけで、へそくりくらい作れるわ。」
そのへそくりはきっと途方もない金額に違いない。お宝を探す必要がないくらいに。
「船とか仲間とかも必要ではないですかね?」
「そうねえ。船は買えばいいけれども、仲間は探さないといけないし、船の操縦も覚えなければいけないわね。」
買えるんですね、船。しかも即金で。
「普通に商会を立ち上げると言うのはどうなんでしょうか。」
穏便な方へと誘導しようとするリリアに、エメラルダはチッチッチと指を振る。
「……リリア、貴女は分かっていないわ。商会では『お宝』も『髑髏の旗』も足りないの。私は帳簿をつけたいんじゃない、荒波を越えて未知の島へ行きたいの!」
完璧な才媛はどこかへ消えてしまったのか、それともそれは仮の姿だったのか。それでもそのキラキラと輝く姿は、リリアをきゅんとさせるのに十分だった。
「分かりました。なりましょう、海賊。この国を出て、船を買って、仲間を見つけるんです。」
牢屋の入口を開けると、リリアはエメラルダに手を伸ばす。エメラルダはにこりと笑うとリリアの手を掴み……リリアを牢屋に放り込んでガシャンと鍵をかけた。
「エメラルダ様?」
驚いたリリアにエメラルダは何やら呟いた。その途端、エメラルダの姿がリリアのそれに変わる。自分と瓜二つの顔をしたエメラルダは、ドレスの裾を摘んで、淑女の礼をとる。
「ごめんなさいね。一日だけ貴方の姿を借りさせてもらうわ。貴方のことを信じた訳じゃないの。でも、夢を思い出させてくれてありがとう。もし本気で私と一緒にいたいなら、追い掛けていらっしゃい。」
そしてエメラルダはその日以来姿を消した。王太子は卑劣な奴だと怒ってエメラルダを探したが、見つかることはなかった。
そしてリリアは。
「リリア様。コルシュ国から手紙が届いております。」
「ありがとう。こちらの書類が終わったら目を通すわ。」
未来の王妃候補として、仕事に、王妃教育に忙殺される毎日だ。もちろん聖女の仕事もしっかりと。王太子と遊んでいる暇は無いのだ。
(どこかにエメラルダ様の痕跡があるはず!それを見つけたら私もこの国を出る!)
そしてエメラルダに再会したら、仲間にしてもらうのだ。
リリアは知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
それから3年後。
「そろそろ結婚しないか。リリア。」
ベタベタと付きまとう王太子をかわしながら、リリアは書類に目を通す。
「ええそうね。この海賊問題が片付いたらね。」
リリアの元には最近暴れている海賊に関する報告書が届いていた。被害に遭うのは奴隷船や悪徳商船ばかり。快哉を叫ぶ平民達の不満を買いたくないのか、どの国もそれほど真面目に海賊を捕まえようとはしていないらしい。
しかし、これこそがリリアの待っていた情報だった。
(見つけたわ、エメラルダ様!)
エメラルダの真似をしてこっそり私財を作り、両親も別の国へと旅立たせた。少ししたら事故で死んだと偽の連絡が来るだろう。海上貿易のために必要だと技術開発を急がせた船も手に入っている。
数日後、王宮から王妃候補が忽然と姿を消した。 代わりに残されていたのは、一枚の髑髏の旗。
この後、聖女と海賊の勧善懲悪譚があちこちの国で拍手喝采と共に迎えられるのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
一周回って聖女が主役です。かっこいいのは悪役令嬢の方ですが。
才媛ならこのくらい見通しておいてほしいという願いを込めつつ。
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