第五章 四節 別れ
少し性的表現ありです。
イグレインがウーサー王と一夜を共にしたことをきっかけにイグレインの自制はなくなった。
ウーサー王と終始一緒に過ごしては夜を共に過ごす。周囲は世継ぎを待望しているためイグレインを歓迎するムードがあった。まだ懐妊していないにも関わらず周りが気を使いまるで妃のように扱っていることもイグレインが変わった要因だ。イグレインは今まで経験したことのない扱いをうけかなり気が大きくなっていた。それによりイグレインはある相談をウーサー王にする。
「ねぇ…ウーサー王…私、ずっとここにいたい」
「イグレイン?どうしたんだ、急に?いつまでもここにいたらよいではないか?」
「そうだけど…私には、夫と娘がいるし…」
「…………」
ウーサー王はずっと考えていた。どうやったらイグレインを妻にできるのかを。自分と今の妻とは簡単に離縁できる。問題はイグレインのほうだ。王と結婚するとはいえ不貞関係がある以上、向こうが離縁を拒否できる。そうなるとイグレインはずっとウーサー王の妾になってしまう。それだけは避けたかった。答えが出ず黙っていると、イグレインが話始めた。
「ウーサー王、私、あなたの子を産みたい…」
「な、なんと!本当か?」
「ええ、本心よ。私はすでに子供がいて体は少し衰えているけど産めるはずよ…あなたとの間に生まれた子を立派に育ててみせるわ!」
「イグレイン……」
ウーサー王は涙を流しながらイグレインを抱きしめた。
「ウーサー王…?どうされたの?」
「いや、ワシとの子を望んでくれたのが嬉しくて……よし!今夜もがんばるぞ!」
そう言ってウーサー王はイグレインを押し倒し、ゆっくり口付けするのであった。
悩みに悩んだウーサー王は自身の臣下にある依頼を行う。それはイグレインの夫であるゴルロイスの暗殺である。ゴルロイスを亡き者にしてしまえば、離縁の問題は片付くだろう。イグレインは悲しむかもしれないが、うまく言い訳すればそこまでショックは与えないはずだ。
そんな自分に都合の良い計画を企てていたウーサー王だが、数日後、臣下からの伝達に驚いた。
それはゴルロイスが自殺したとの知らせだった。
ウーサー王が暗殺を依頼する数日前、モルガンは自分が生まれ育ったコーンウォールをたずねていた。目的は、父に母であるイグレインの状況を伝えるためだ。
モルガンの父、ゴルロイスは書斎でいつものように眉間に皺を寄せて仕事をしていた。すると慌てて秘書が書斎に入ってきた。
「旦那様、お客様です」
「何?今日は約束はないはずだが」
「それが……」
「誰が来た?」
「…………モルガンお嬢様でございます」
「何だと!?」
ゴルロイスは机を強く叩きつけ立ち上がる。その姿に秘書は若干びくっとした。ゴルロイスは少し考え秘書に伝える。
「通せ、ここまで」
「承知いたしました!」
秘書は慌てて部屋を出て行った。
あの日以降、一度も家に帰ってこず、イグレインを連れ去ったようにも近い行為をした娘に文句を言わないと気が済まなかった。また、イグレインからも連絡がない。このことにも聞きたかったため渋々娘に会うことにした。
秘書に連れられ入ってきた娘はかつての姿はなく、まるで別人のよう風貌をしていた。
「お久しぶりでございます、お父様」
モルガンは丁寧にお辞儀をする。
「あぁ、久しぶりだな…」
ゴルロイスはモルガンの美しさと凛々しい見た目に先ほどまでの怒りがみるみるうちにしずまっていった。
「突然訪問してしまってすいません。でも急ぎ伝えたかったことがございまして……」
モルガンはそう言って写真をいくつか出した。そこにはイグレインとウーサー王が逢瀬をしている姿が写し出されていた。
「なっ……」
「これは私がたまたま王に用がありたずねた際に見た光景です。なんて酷いことでしょう。仮にも夫がいる身でありながら、恥ずかしげもなく他の男に馬乗りになっているなど……破廉恥極まりないですね」
「…………」
ゴルロイスは何も言えず、ただただ写真をずっと眺めているだけだった。
「可哀想なお父様。お母様はウーサー王の部屋から出てこないため私もお母様と話をしていないんです。だから何を考えてるかわからなくって…」
「……………」
「でも安心してください。私が今日、秘密裏にお母様をここに連れてきますから。それでお母様と会話するといいですわ」
「……………」
「では、お父様。また夜にきますね」
そう言いモルガンは部屋を出た。何も反応のなかった父親の姿を思い浮かべながら、一言呟く。
「絶対に楽に死なせてやらないから」
モルガンが去った後、ゴルロイスはしばらく放心状態だったがなんとか気持ちを整理し夜を待つことにした。
いつもの通りに過ごしていると、寝室の扉がノックされた。
「誰だ?」
「私よ!あなた!」
扉の向こうでイグレインが立っているようだった。ゴルロイスは深呼吸して扉に向かって返事をした。
「入れ」
その言葉を受け、扉が開かれる。そこにはいつものように美しいイグレインの姿があった。
「あなた、ごめんなさい。連絡をよこさないで」
「それはいい。それよりも聞きたいことがある」
「何?」
ゴルロイスはモルガンが貰った写真をイグレインに見せた。
「な、何これ?!」
「ウーサー王との逢瀬の瞬間だ。お前、不貞をしたな?」
「していないわ!私には貴方しかいないじゃない!しかもウーサー王と不貞する理由がないわ!」
イグレインの主張は最もだ。仮に不貞するにしても相手がウーサー王は少し現実味がないように感じた。モルガンのことを馬鹿正直に信じた自分も少しおかしかったか?と考え始める。
「これはモルガンがもってきたのね?」
「あぁ、そうだ」
「やっぱり!あの子は本当に気味が悪いわ!突然今まで育ててくれたお礼とか言って城につれていって、ずっと部屋に閉じ込めて…かと思ったら急にここにつれてこられて…意味がわからないわ!」
イグレインがいつものように怒り、モルガンに対して嫌悪感を示している様子を見てゴルロイスは安心した。やはり写真は嘘だったのだと思ったのだ。問題はモルガンはなぜそんな嘘を私に教えたのかだ。考えていると、イグレインが話かけてきた。
「あなた、寂しかったわ…家に帰って来て少し安心した」
そう言いイグレインはゴルロイスの胸に飛び込んだ。その姿を見たゴルロイスは少し微笑み、イグレインをそっと抱きしめる。
「最近仕事が忙しくてお前にかまってやれなくてすまなかった。後、さっきも疑ってすまない…」
「いいのよ…全部モルガンが悪いんだから」
ゴルロイスは確かにと心の中で頷いた。そしてイグレインの顎を持ち上げる。
「久しぶりに…どうだ…?」
「ええ…いいわよ」
イグレインの囁き声にゴルロイスは昂った。そしてそのままイグレインに口付けしようとした瞬間、腹の横側に痛みを感じた。針で指を刺したかのようなチクッとした痛みが走る。何だと思い、そのまま自分の体を確認する。すると、鋭いナイフが自分の横腹に刺さっていた。
「な……これはどういう?」
チクッとした痛みで何ともなかったが、ナイフを見るとみるみる内に痛みを感じ始め気づけば、痛いと叫ぶほどだった。
「イ…イグレイン?こ、これは…?」
目の前の妻に問うが、妻は何も話さない。黙って痛みに耐えていると急に妻が笑い出した。
「イグレイン…?どうした?」
目の前には狂ったように笑う妻がいる。痛みがだんだん強くなり、意識が朦朧としてきた。
「イ、……イグレイン!」
強く妻の名前を呼ぶ。すると目の前の妻が急に黙り出した。と同時に頭から光の輪がうまれ徐々に足元に下がっていく。そこには変わり果てた見た目の娘が目の前に現れた。
「モ、モルガン…?」
「ふふっ、お父様。ごきげんよう、そしてさようなら」
モルガンが挨拶したと同時にゴルロイスは意識を失いその場に倒れた。
「あ、これを言い忘れていた」
倒れているゴルロイスの耳元で囁いた。
「永遠にさよなら」




