第四章 八節 アヴァロンの9姉妹〜後編〜
『ね、姉さん…?』
モノロエは困惑しながら呟いた。目の前にいるのは先ほどメロウから戴冠していたモルガンと瓜二つの人物だった。訳が分からず黙ったままでいるとモルガンが話しかけきた。
『無理もないわね。自分が長女だと思って生きてきたのに実は姉がいるなんて聞かされても困惑するわよね』
モルガンは申し訳なさそうに話しかけてくる。モノロエは首を振り話し始めた。
『いえ…そんなことはないです』
『そうかしら?不安そうな顔をしているわ』
モルガンは右手をモノロエの頬に添えた。温かい右手…母を思い出すようだった。
『ええっと…モルガン姉さん…?どうしてあなたが姉さんで、ここに現れたの?』
『そうよね、大事な話をしないといけないわね。でも時間がないの…外の世界は大変な状況になっているからね』
モルガンは悲しそうな顔を浮かべる。
『そうだ!私、メロウ様の呪いを解いている途中だったんだ…どうしよう…姉妹達が心配だわ…』
自分が欠けたことで大変な事になっているのではないかと落ち込む。そんな様子を見て、モルガンがクスッと笑いモノロエの頭をポンポンと優しく撫でた。
『大丈夫よ、そんなに心配しなくても。だけど時間がないから急がないと』
モルガンがポケットをまさぐる。するとポケットから綺麗なガラス玉がでてきた。
『このガラス玉はね、私が伝えたいこと全てが詰まっています。これを持ってあの光の方向へ走りなさい。走りながらガラス玉があなたにいろいろ教えてくれるでしょう。外の世界に戻ったらなすべきことも理解しているはず』
モルガンはモノロエの手にガラス玉を握らせた。
『さぁ、時間がないわ。走って戻りなさい。愛しい妹、モノロエ。皆んなによろしくね』
そう言ってモルガンは徐々に透明になり消え始めた。
『あ、ありがとう!モルガン姉さん!』
モノロエがお礼を言うとモルガンは優しく微笑み、完全に消えてしまった。
『泣いている場合じゃない!行こう』
モルガンの言う通りに走り始める。遠くに小さい光が見えたので、モノロエはその光へ向かってひたすら走った。
少し走るとガラス玉が光を放ち始める。するととある記憶が流れてきた。
ーモルガンが生まれた時に姉妹の輪からすり抜けたこと
ー本来は9姉妹として生まれるはずだったこと
ー母の言いつけは正しかったこと
ー伝承は本当だったこと
そして最後に一言、言葉をかけられる。
ーさぁ、最初で最後のもう一人の姉妹を呼び覚ましなさい
全ての事実を知ったモノロエは走りながら涙を流す。そして心に誓った。
『必ずメロウ様を助けて皆んなにこのことを知らせなくちゃ!』
走るスピードを早くし、光へ向かうのであった。
モノロエが抜け殻となり魔力が不安定になった瞬間、モルガンが輪に入った。
『あなたは!そんなことできるの?!』
マゾエが驚く。しかし、モルガンは咄嗟に輪に入っただけで詠唱を持続させるほどの力はなかった。
「ごめんなさい…魔力を放って少し安定させるくらいしか私にはできないわ…」
『マゾエ姉さん!これはその方にはできないわ!この安定も長く続かない…どうしよう…』
グリトネアが不安を吐露する。マゾエは考えたが妙案は思いつかなかった。
『どうすれば…』
モルガンの助力も虚しく、魔力が再び不安定になってきた。そのまま呪いに飲み込まれてしまいそうになったその瞬間、モノロエの体が光を放ち始める。
『モノロエ姉さん?!』
マゾエが驚きモノロエに話しかけるとモノロエが話し返してきた。
『マゾエ…みんな!ごめんなさい!今戻ったわ!説明したいけど時間がない!とりあえず呪いを何とかしましょう!』
モノロエが皆を奮い立たせる。弱気になりつつあった姉妹達はモノロエの言葉を受けて元に戻っていく。すると鎖が伸展しなくなった。
『モルガン!お願い!あなたにも手伝って欲しいの!』
「私?でも私は呪いの解除方法は分かってもできないわよ?」
『大丈夫。このガラス玉を握って!そうすればきっとできるから!』
モノロエは握っていたガラス玉をモルガンに手渡した。するとモルガンの中にもある記憶が流れてくる。これは雛が転生する前のモルガンの出生の記憶だ。
雛が転生する前のモルガンは本来はアヴァロンで、9姉妹の長女として生まれる予定だった。それは本来のモルガン、つまりルフェがそうだったように。
しかし、ティターニアから次期女王が生まれる話を聞いたヴィヴィアンは次期女王が女王になる確率を下げるために生まれる魂を探しだし、強く干渉した。
その結果、モルガンは人間としてコーンウォールの公爵家に生まれてしまい、モノロエ達は8姉妹として生まれてしまう。これにより本来の予定に歪みが生じてしまった。
しかし、ヴィヴィアンが干渉してくるであろうことを予見したティターニアはモノロエ達姉妹の母の夢に現れこう伝えた。
ーあなたは本来9姉妹を産むはずがとある事象のせいで8姉妹を産むことになるかもしれません
ーもし8姉妹が生まれたら、8姉妹が持つ治癒力と保護力を磨かせてください
ーそして、女王や王が困った時はその力を存分にに発揮してください
ーその時以外は他の者に力を示してはいけません
ーそうすればいつか姉妹達の努力は報われるでしょう
モノロエ達の母は夢を信じ、姉妹達に強く言い聞かせた。もちろん周りからの迫害にもあったが、逆らわず静かに暮らした。治癒力と保護力を磨きながら。
ルフェがモルガンから抜けた後に、夢でティターニアに会い事情を説明しあった。そして二人が結託して、ガラス玉をつくりいつか起こるかもしれない事象に備えてガラス玉を封印していた。
これらの記憶がモルガンに流れてきて、今までの流れを理解した。それにより、モルガンも姉妹達がもつ治癒力、保護力を使えるようになった。頭に鎖を切断する方法が浮かんでくる。
『モノロエ…ありがとう。全て理解したわ。私がこの鎖を切断します』
そう言ってモルガンは床に手をつき魔法陣を展開する。展開した魔法陣から光の剣を取り出して、両手で構える。目を閉じ、深呼吸して、鎖の切断面を特定する。そして、切断面に向かって剣を振り下ろした。その瞬間、鎖が弾け飛び矢がゆっくりと消えていった。
『グリーテン!回復!』
『はい!モノロエ姉さん!』
3番目の姉妹、グリーテンは姉妹の中でも治癒力が高い。単独で大怪我を治すことができるため、モノロエはメロウの治癒を彼女に依頼した。
グリーテンが魔力を手から放ちメロウを治療していく。瞬く間に傷が塞がりメロウの顔は穏やかになった。
『もう大丈夫です。呪いがメインの致命傷だったので傷はそこまででした』
『お疲れ様、グリーテン』
モノロエはグリーテンの頭を撫でる。グリーテンは少し赤くなりながら俯いていた。
周りの妖精達はメロウが助かったことで安心し、ザワザワと話し始める。そんな中、モルガンが手にしていた光の剣を床に突き刺した。
ぐさっと大きな音が響き、周りは少し静かになる。その機会を上手く利用し、モルガンは話始めた。
「皆さん、私が此度女王に就任したモルガンです。皆さんが見ていた通り、前女王メロウが何者かに暗殺されかけました。しかし、ここにいる8姉妹達のおかげで最悪の事態を回避できました。皆さん、8姉妹に盛大な拍手を贈ってください」
モルガンが話終えた直後、妖精達は8姉妹を讃えた。城内に拍手が湧き起こる。
「皆さん、ありがとう。そして大切なことを話しておかなければなりません」
モルガンが真剣な眼差しをおくったことで、城内は静まりかえった。皆、モルガンの話を真剣に聞いていた。
「私は、実はこの8姉妹の長女なのです。訳あって離れ離れになっていましたが、本当は私達は9姉妹なのです」
その発言を聞いた妖精達は口々にこう呟き始める。
ーあの伝承は本当だったの?




