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第四章 六節 戴冠式

あと3〜4話でアヴァロンの話は終わりです。

5章以降ブリテンに戻ります、


 マーリンの家で会話してから数日たった今日、アヴァロンにある女王の城で戴冠式が行われる。現女王メロウからモルガンに冠の授与が行われ、モルガンが正式な女王となる。戴冠式の様子は中継にてアヴァロン全域に放送される。これにより新しい女王が誰なのかアヴァロンの全住人が知ることになるだろう。

 そんな戴冠式をソワソワしながら心待ちにしている妖精がいる。その名はモノロエ。茶会でモルガンに助けてもらい、マーリンの家の近くに住んでいる。彼女は8姉妹の長女。しっかりものだけど、ちょっと抜けてるところもある。そんな彼女は昔、親からよく聞かされたお伽話に女王や王様が出てきて、小さいながら女王という存在に憧れを抱いていた。しかし、平凡な自分が女王になれるはずもなく、ましてや女王に近づくことなどできない。彼女はいつか女王に直接会えたりしないかなど夢を抱いていたが、姉妹達に馬鹿にされるのも恥ずかしく、心の奥底に秘めていた。

 しかし、この度モルガンが戴冠し女王になること、モルガンが直々に戴冠式に招待してくれたことでモノロエはかつての夢が叶うと思い、喜びに満ち溢れていた。


『〜〜♪』

『モノロエ姉さん、ご機嫌ね。そんなに戴冠式が嬉しいのかしら?』


 一つ下の妹であるマゾエがぼそっと呟く。


『ん?マゾエ?何か言った?』

『モノロエ姉さん、ご機嫌だねって言ったの。そんなに戴冠式が楽しみ?姉さんを助けてくれたあのモルガンって人が新しいアヴァロンの女王になるみたいだけど…あの人怖くない?』

『そうかな?私には仲が良い友達みたいな親近感があるけど?』

『助けてもらっただけだよね?たいして一緒にも過ごしてないよね?しかもあの人、人間だよ?私達妖精とは違うじゃない。人間は妖精を虐めるから嫌いよ』


 マゾエは冷たくモノロエに言い放った。


『確かにね…でもね、モルガンは私達を助けてくれたからブリテンにいる人間とは違うわ。それに、なんだか不思議なんだけど、モルガンとはあの茶会よりもずっと前に会ったことがあるような気がするの』

『姉さん、さすがに毒されすぎだよ。そんなはずないよ。私達、姉妹はずっと一緒に過ごしてきた。姉さんが会ったことあるなら私も会ったことあるって感じるわよ?でも私はあの人には何も感じないわ…』

『マゾエ…』


 マゾエは下を向き俯いた。そんな様子をみたモノロエはマゾエを抱きしめる。


『ごめんなさい、変なこと言って。もう何も言わないわ。でも戴冠式は楽しみにしているの。だから今日だけは許してね?』


 マゾエの背中をポンポンと優しくたたいた。そんな2人に4番目の姉妹、グリトネアが話しかけてきた。


『2人とも何してるの?早く出ないと戴冠式に間に合わなくなっちゃうわよ?』

『あら?もうそんな時間?』

『ええ、みんな集まっているわ』

『グリトネア、呼びに来てくれてありがとう。マゾエいきましょう』

『ええ…』


 3人は他の姉妹達が待つ集合場所へ向かうのだった。



 正式な戴冠式が久々に行われるとあって城内はかなりの人が忙しなく動いていた。城外はどんな人が新しい女王になるのかと騒がしく妖精達が集まっていた。

 そんな中、モルガンは控え室で式が始まるのを待っていた。衣装はレイチェルが今日のために見繕ってくれた。モルガンの雰囲気に合わせて用意された淡い水色のドレスは今までもずっと着ていたのかというほどにぴったりかつ似合っていた。


「モルガン、よく似合っているね。そのドレス」

「ありがとう、ルル」


 ルルと部屋で会話しながら式の始まりを待っていた。

 マーリンの家での会話の後、ルルには試練のこと、この先ブリテンに戻った時にしようかと思っていることをすべて話した。ルルは否定も肯定もしなかったが、その瞳には安堵が浮かんでいた。

 今までのモルガンとは違う選択をしていることに安堵しているのかはわからないが、ルルが否定をしなかったということは、つまりそういうことなんだろう、とモルガンは自分で納得した。

 あれからオングスとは会っておらず、今日久しぶりに会うことになっている。オングスにはどこまで話そうかなと悩みに悩んで今日を迎えることになってしまったのだけが唯一の後悔だ。

 式が始まる直前まで考えていると、レイチェルが呼びに来てくれた。


『モルガン様、準備が整いました』

「レイチェル、呼びに来てくれてありがとう。今から向かいます」


 儀式は玉座にて行われる。玉座にある女王が座る唯一の席にメロウが鎮座している。そこにモルガンが向かい、冠を戴くことで儀式が完了する。簡素なものだが、資料に残された情報をもとに再現した儀式だ。昔、ティターニアが戴冠した時にいた年寄りの妖精とオングスがこんな儀式だったと言ったことで決まった式である。

 とはいえただ、戴冠するだけでは味気ないということでレイチェル、メロウが少し手を加えて若干内容を変更している。

 騒がしく皆が会話している中、玉座にいるメロウが小さな呼び鈴を鳴らす。その音を聞き、皆が静まる。


『皆の者、よくぞ集まってくれた。今日は新しいアヴァロンの女王に戴冠する儀式を行う。ここに集まってくれた方々、中継でみてくれている方々、皆、注目してくれ!』


 メロウが指を鳴らすと玉座に続く大きな扉がゆっくりと開く。眩い光が放たれ何も見えない中、1つの影が音を鳴らして玉座に近づいてくる。

 赤い絨毯の上をゆっくり歩く度に響くヒールの音。新しい女王が玉座に向かって歩いていた。

 髪は銀髪、瞳は紫に金色の模様があり、水色のドレス纏ったその半妖精は歩く度に観衆達に存在感を示す。

 半妖精の魔力でありながら圧倒的な支配者のオーラに皆圧倒され、その見た目には何も文句を言い出せなかった。モノロエ達は玉座の真ん中に続く通路を挟んで両側にある招待客の席にいた。歩くモルガンの姿をみて、モノロエは涙を流していた。


『……姉さん?!大丈夫?何かあった?』


 マゾエが心配そうに小さな声でたずねてきた。


『あれ…?私、なんで泣いて…?』


 ポケットにいれていたハンカチで涙を拭くが、涙が溢れて止まらない。


『あれ…?どうして…?』


 モノロエが困惑している最中、モルガンはメロウの前に到着し一礼をした。


『新女王、モルガンよ。そなたはアヴァロンを到着する真の女王になられた。私から正式に座を譲るためにこの冠をそなたに送ろう』


 そういうと冠がひとりでに浮遊しながら、モルガンの前にやってきた。冠は選ばれた者以外は触れられないため、魔法を使って浮遊させあたかもメロウから渡したかのように見せている。


『皆、注目せよ!』


 メロウの一言で、皆がモルガンに注目する。モルガンは目の前の冠を自分で頭に被せた。その瞬間、アヴァロン全域にモルガンのオーラが放たれる。そのオーラはティターニアを彷彿とさせるあたたかいオーラで、アヴァロンにあった不安定さが一瞬にしてなくなった。またアヴァロンを覆う霧がより濃く深くなり、島全体の神秘性を増幅させた。これは城外の妖精達、辺境に住む精霊達、皆感じており、かつてのアヴァロンが戻ってきたと皆喜んだ。その声はモルガン含め城内にも届き、城内の妖精達もまた喜び安堵していた。

 メロウは肩の荷がおりほっとしていたがまだ儀式は終わりではない。深呼吸し話はじめる。


『モルガン、戴冠おめでとう。これでそなたは今日から正式にアヴァロンの女王となった。儀式の最後にそなたからスピーチをお願いしたい』


 メロウに言われ、モルガンは事前に考えていたスピーチをしようと考えている最中、妙な違和感を感じた。感じたことない違和感、まるで魚の骨が詰まっているような感覚。どこかにその違和感があるが具体的には何も分からない…黙って考えことをしているモルガンを心配そうな目つきでメロウはみた。


『モルガン?どうされた?』


 メロウが玉座から立ち上がり、モルガンのそばに近寄ろうとした際、玉座の近くにある窓の外側で何かが光った。


『メロウ様!あぶない!』


 モルガンが叫んだ甲斐も虚しく、窓ガラスを突き破ってきた光の弓矢にメロウは射抜かれてしまった。

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