第四章 五節 女王と剣
「な、なにこれ......」
モルガンは鏡に映る自身の瞳に驚いた。元々紫色の瞳だったが、そこに金色で羽のような模様が入っていた。
「モルガン......あなた、ティターニアに会った?」
ルフェが静かに問いかけてきた。
「ええ、試練を達成した後に会って会話したわ」
「そこで何かあったの?」
「何って、会話して......冠を受け取って......それ以上は特になにもなかった」
「......」
ルフェは何も言わずにただ考えていた。
『ルフェ!お前何か知っているのか?』
カハルがつかみかかるような勢いでルフェに詰め寄る。
「いえ、何も......。ただ、戴冠したことでモルガンが女王としてふさわしいようにティターニアがなにかしら細工をしたかもね」
『細工.....』
カハルは納得いかない顔で呟く。
「モルガン、詳しいことはわからないけどあなたは今、半妖精の状態になっています。自分では特に何も感じないとは思うけど、第三者はそう感じます。半妖精は本来存在しない"存在"です。生まれても自然と淘汰されアヴァロンにはいません。ある意味禁忌の存在です。それを念頭に置いてください。後、金色の瞳ですがこれも本来ティターニアの系譜以外には表れない色素です。ティターニア亡き今、ティターニアの血を引く縁者もいません。なので、これもまたありえない"存在"ということです。カハルの反応は正しく、玉座に戻っても同じリアクションをされるでしょう」
「そうなんですね......でも、冠は私を選んだ。だから文句を言われても、私が女王なことには変わりがないですね?」
モルガンは鋭い眼差しで確かめるようにルフェに問いかけた。その瞬間強い風がカハルにだけ吹き付け、カハルは恐怖にかられた。
『!!』(な......なんだこの恐怖は?目の前のモルガンが私を見ていないのに視線を感じる......見えない視線で焼き殺されそうだ......感じたことのない恐怖......)
カハルが震えているのを見て、ルフェが慌ててモルガンに話しかける。
「モルガン!その視線、やめろ!」
「視線?」
モルガンは穏やかな目線で2人を見る。すると、カハルの震えが止まった。
「あれ?私、今、カハルを見ていましたか?ルフェを見ていたつもりだったのですが......」
「それは、"女王の視線"だな」
「"女王の視線"?」
初めて聞く言葉にモルガンは戸惑う。
「意図していないが、相手に恐怖を与える視線のことさ。アヴァロンにいる妖精にはほとんど聞くと思うぞ」
「意図していないのに勝手に発生するのですか?」
「まぁね。だいたいは怒りや悲しみなどの感情が昂ぶる時に発生すると思う。気をつけな」
「ご忠告ありがとうございます」
モルガンとルフェが会話している最中、カハルは改めてモルガンが女王になったことを実感していた。
『モルガン…さっきはすまなかった。仮にも女王にとる態度、行動ではなかった。心から謝罪する』
カハルは頭を下げ謝罪した。
「カハル…大丈夫です。私も知らなかった事実を知れてよかった。これで玉座に戻っても安心です」
『……ありがとう』
カハルは再び頭を下げた。
『モルガンは試練を達成し、私はそれを見届けたので私の役目も終わりだ。後は玉座に戻り、他のメンバーに説明が必要だな』
「ええ、それは私が自分で説明するわ」
『そうか、私は基本箱庭からは動けない。モルガンが説明してくれると助かる』
「わかったわ」
モルガンは玉座に戻る準備を始める。
「そういえば、ルフェ。ルルは?」
「ルルは先に玉座に戻ってるって出て行った」
「そうか……」
ルルを迎えにいく約束をしたのだが、先に戻っていることに少し寂しさを感じた。すぐ会えるだろうけど。
「モルガン……困ったらいつでも頼って。これからはブリテンにいくだろうから、中々会えないとは思うけど」
「ルフェ…ありがとう。ここを出る前に聞きたいことがあります」
「何かしら?」
「あなたはエクスカリバーを鋳造したことはある?」
「エクスカリバー…いや、した事はない。そもそもあれは神様からの授け物で、鋳造なんかできるはずない」
「そうですか…わかりました。ありがとう」
今までを知っているルフェなら何かヒントをくれるかなと思ったがどうやら目論見が外れたようだ。
モルガンは転送魔法を使い玉座へ戻る準備をした。
「では、そろそろいきます。二人ともありがとう」
「気をつけて」
『達者でな!』
2人に見送られながら、玉座へ向った。
戻ったモルガンをみた周囲の反応はカハルに似たようなものだった。しかし、冠をしたモルガンの説明を聞いた周囲は状況を理解しモルガンを受け入れた。
ティターニアの助言通り余計なことは話さず、淡々と結果のみ報告した。
肝心のオングスはいなかったので、モルガンは少し安心した。
モルガンが女王になったことを知らせる儀式、つまり戴冠式をするためメロウ、レイチェルが中心となり準備することになり、城内はモルガンが帰還してからずっと忙しなかった。
儀式の準備が整うまで、モルガンはマーリンの家に戻りゆっくりすることになった。
「いやぁ、モルガン、お疲れ様。無事に戴冠できてよかったね」
「ありがとう、マーリン」
食卓にて紅茶、お菓子を囲みながらマーリン、ルルと会話していた。
「マーリン、あなたずっとアヴァロンにいなかったけど何してたの?」
ルルがマーリンに問いかける。
「なんで、私がアヴァロンにいないことを知っているのかな?まぁ、いい。モルガンが試練に向かった後、ウーサー王に呼び出されてね、ブリテンに戻ったんだ」
「へぇ」
「ウーサー王が?」
「あぁ。そろそろブリテンの辺境で戦争するらしく、願掛けとか予言はあるかとか系の依頼さ」
「ふーん」
モルガンは気になっていることをマーリンに聞いてみた。
「マーリン、エクスカリバーって知っている?」
「エクスカリバー、伝説の剣だね。持ち主に絶対的な勝利と不死身の体を与えると言われている剣。持ち主は剣に選ばれ、使い手となる…ぐらいの情報しか知らないね」
「そうですか……エクスカリバーは神が作るのですか?」
「まぁ、そうだね。信仰心の強い人達の祈りによりできたと言われるからね」
「そうですよね……」
想定の回答だなとがっかりしたモルガンだったが、マーリンは話を続ける。
「確かに神により作られるけど、作り方を知っていれば作れると思う」
「それはそうかも知れませんが、作っても本来のエクスカリバーと同じにはならないのではないですか?」
「うーん…どうだろうか?剣を作る鍛治職人は剣に思いを込めて作ると言われている。持ち主はどうあれ、剣にはこうなってほしいと思いを込めて鉄を打つんだ。だから、技術の差こそあれど、職人の気持ちを具現した剣が出来上がるのさ」
「思いか……」
「それに作った剣はいろんな使い道があると思う。例えば、本物を手に入れるためにすり替え用として作るとか、サブの剣にするとか飾るために作るとか……ね」
「………」
「すり替え用なんてあまりいい気がしないね」
「そうだね、でもよくあることだし、悪いことではないさ」
「モルガン?どうしたの?」
ルルがモルガンの膝に飛び乗ってきた。
「ルル……あとで話すわ。私、いいことを思いついた」




