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外伝一 零れ落ちた螺旋の記憶

 何度目の「最後」だろうか。燃え盛るカムランの丘。鉄の臭いと、絶望の叫び。

 アーサーの亡骸を抱き、アヴァロンへと漕ぎ出すはずだったモルガンの胸を、白銀の剣が貫いた。


「また……。また、この結末なの……?」


 視界が暗転する。

 次に目覚めた時、そこはまた、あの忌々しいコーンウォールの寝室だった。


 モルガンは狂ったように笑い、そして泣いた。

 この数百年、彼女はあらゆる手を尽くした。

 ある時は王妃ギネヴィアの不貞を正当な手順で告発し、

 ある時はランスロットを闇討ちし、

 またある時はアーサーへの愛を捨てて国を離れた。

 けれど、結末は変わらない。

 どれほど正しく動こうと、どれほど歴史を歪めようと。

 見えない「神の手」がチェスの駒を戻すように、彼女は必ず殺され、ブリテンは崩壊する。


「お嬢様、またその不気味な笑い声を……。さっさと食事をお摂りなさい」


 侍女の冷ややかな声が突き刺さる。かつてのモルガンは、この侮蔑に耐えるだけの気力を持っていた。だが、今はもう、空っぽだった。魂が摩耗し、ひび割れ、境界線が消えていく。


「……もう、嫌。このロールは、私が背負うには重すぎるわ」


 モルガンは鏡を見た。そこに映るのは、絶望に沈んだ幼い少女の姿。その時、鏡の端に、ゆらりと揺れる「歪み」が見えた。


 そこには誰かがいた。白銀の髪でもなければ、金の冠を戴く王でもない。ただ、暗闇そのものが人の形を成したような、実体のない影。


『――無駄だよ、モルガン。あなたがどれほど足掻こうと、この物語の「結末」は私のペンが決めることだ』


 姿の見えない何者かが、楽しげに囁く。そいつが笑うたび、世界のシステムが軋み、書き換えられていくのが分かった。ギネヴィアを聖女に仕立て上げ、モルガンを悪に落とし、ブリテンを糧にする――この世界の真の支配者。


「あなたは……誰なの……っ!」


 モルガンが叫ぶと同時に、影は霧のように消えた。彼女の限界だった。


「誰でもいい……。私ではない誰か、この地獄を笑って踏み越えられる魂よ、この壊れた物語を、完膚なきまでに叩き壊して……」


 モルガンの意識が遠のく。彼女の魂が、世界の隙間へと逃げ出した瞬間。入れ替わるように、異世界から呼び寄せられた「復讐者」の胎動が始まった。


 漆黒の猫が、窓辺で静かに目を細める。

「……リクエスト通り、最高の魂が来るよ。期待して待ってなよ、黒幕さん」


 黒猫は見つめる。新しい魂が入った『彼女』を。




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「いやぁ、傑作だな」


 高笑いする女の声が響く。


「あの魔女、逃げ出したな。傑作、傑作。これでこの世界は私のものだね。神もあきらめてくれないかな?しぶとすぎる」


 少し怒った女は近くにある湖の滝に光線を放ち水しぶきをわざと発生させた。

 水しぶきは激しさを増し女にかかりそうであるが、女は平気そうだ。


「はやく手に入らないかな。もう私の勝ちでしょ。」


 勝ち誇った顔でぼそっと呟く。


「でも新しい魂がきてたな。何しても無駄だと思うけどね。私の勝利は目の前までせまっているよ~はやく、はやくあのモルガンも『追い出さない』とね」


 女の笑い声はますます大きくなり、その声は湖の滝音にかき消されるのであった。

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