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第四章 二節 試練〜中編〜

二つ目の試練です


 ー聖剣、エクスカリバー


 それはアーサー王伝説でも有名な伝説の聖剣


 アーサー王は魔術師マーリンの導きにより


 湖の乙女からエクスカリバーを授与する


 エクスカリバーは絶対的な勝利と不死の加護を


 アーサー王に与えた


 アーサー王はカムランの戦いで死ぬまで


 エクスカリバーを離さなかった



 モルガンは破られている紙片をポケットにいれた。おそらく他の試練を受けると残りの紙片も手に入るだろうと推測したからだ。辺りを見渡すと、地下室の天井から壁に伝って全体が波打ち、風景が変わっていく。気がつくと扉に入る前の部屋に移動していた。左の扉はなくなり、代わりに豪華な装飾がなされた椅子がそこにあった。


「どういうことを意味してるか考えたいけど、今は試練が優先よ」


 そう言ってモルガンは残る二つの扉を見つめる。次は真ん中の扉に入ると決めている。モルガンは扉に近づいた。


「さっきはナイフのようなマークが扉にあったわね…次はマスク…これは試練の内容を意味しているのかしら?」


 なんとなく推察したものの自信もなく、答えもわからないのでさっさと中に入ることにした。


「……いくわ」


 ゆっくり扉を押し、真ん中の試練の間に入る。入った瞬間、目の前には自分がいた。


「なっ……!」


 突然のことで驚く。しかし、じっくりみると目の前の自分は鏡に写った自分ということに気がつく。よく見たら目の前だけでなくいたるところに自分が写っていた。


「これは……鏡の間ってところね」


 いたるところに写る自分はただ直立不動だった。しかし、目の前の自分を皮切りにモルガンに語りかけてきた。


『どうせ今回も失敗に終わるのよ』

『惨めに死ぬだけだわ』

『可哀想なあなた。負債を押し付けられたのよ』


 あらゆる自分が変わる代わりに話しかけてくる。表情は崩さない。瞳は灰色に濁っておりどこか虚だ。


『あなたは不倫したやつを許せなくて、その鬱憤をここではらそうとしているのよね?別にここじゃなくてもいいんじゃない?この物語(ストーリー)で死んで、再び元の世界に戻ってやればいいじゃない』

『そうよ!あなたはやらなくていいことをしようとしている。できないことはやらなくていい。本来のモルガンがやるべきことだ』

『そうだそうだ!』


 何人もの自分がそうだと叫びだした。雛は正論を突きつけられ、考えこんでしまった。


(たしかに言われた通りで、本当は直接相手に復讐したい。ができない今、代わりにこの世界でやろうとしているけど、それで私の気は晴れるのかしら?結局モヤモヤするだけなんじゃ……)


 今まで怒涛の日々を過ごしてきた。改めて自分の置かれた状況を振り返ると鏡のモルガン達の言うことも一理ある。


『だから自分で神にお願いすればいい。元の世界に戻れるように』

『そう、本来のモルガンがなすべき』

『あなたは頑張らなくていい』


 心が揺れる。神にお願いして元の世界に戻れるのだろうか。戻って、夫とあの女に一泡吹かせたい…そう密かに思ってしまった。


「わ、私は………」


 震える声で話始めた時、ある記憶が流れ込んでくる。それは雛が転生する前のモルガンが幾度となく繰り返した奮闘劇の一部だ。


 --------------------------------------------


「姉さん!姉さん!まってよ!」


 幼い男の子が少女の後を追う。が、走っている間に転んでしまう。


「痛い!うわぁぁぁん」


 男の子は大声で泣き、その声に気づいた少女は男の子に駆け寄る。


「アーサー、大丈夫ですか?みたところすり傷ができたようですが…」

「痛い!痛いよ!大丈夫じゃない!」


 男の子は大声で泣き続け、泣き止む気配はない。


「仕方ないですね」


 少女はすり傷に手をそえた。するとほのかに光が放たれ、すり傷が綺麗になくなった。


「さぁ、治りましたよ。もう痛くないはずです」

「うん、痛くない…ありがとう、姉さん」


 男の子はにこりと笑った。落ち着いた男の子と少女は手を握り歩き始める。


「アーサー、アーサーの将来の夢はなんですか?」


 少女が不意に男の子に問いかけた。


「僕はね…僕は騎士になりたい!父様は僕が将来王になるって言うけど、僕は王になりたくない。姉さんのほうが王に相応しいと思う!だから僕は、姉さんを守る騎士になってずっとそばにいるよ!」


 男の子は大きな声で答えた。その様子をみて少女はクスクス笑う。


「叶うといいわね。その夢」


 少女と男の子はひたすら歩いていた。2人が見えなくなると場面が変わる。それは若い男が女性に向けて剣を突き出している場面だった。


「モルガン、そなたはこのブリテンには不用だ。マーリン、母上、ギネヴィア、円卓の騎士…みな私が王に相応しく、私の存在を認めているのだ。そなたはブリテンを脅かす悪の魔女だ。そなたはブリテンから去れ!」


 若い男のそばには、騎士達、年のいった女性、若く美しい女性、マーリンがいた。各々がお前はいらないとばかりの視線を向けてくる。

 女性は発言した。


「アーサー…また、ですね。私を追い出しても何も解決にはなりません。それでも不用だと切り捨てるのですね?」

「そうだ!」

「…………わかりました。私は私の故郷に帰ります」


 そう言って女性は震える手を抑えながらその場を去った。


 また場合が変わり、とある場所にて騎士達が戦っている。ほとんどの騎士達はたおれており、戦っているのはわずかな騎士だけだ。その中でとある騎士と魔女が戦っていた。魔女は余裕の表情で剣を受け止め、騎士は今にも倒れそうなほど負傷していた。


「あなたは、いつまで私の邪魔をするのだ。早くいなくなれ!消えろ!私がブリテンを、ブリテンを統治し、最強の国にするのだ!!!」

「………………」

「何か言え!そうか…私が怖いんだな……あなたが私より劣っていると認めることが!!」


 騎士は剣をふるう。しかし、魔女には当たらない。何度目かの攻撃のあと、魔女は手に力を込め、騎士の胸めがけて腕を伸ばした。伸ばした腕は騎士の胸を貫通し、騎士は血をふく。


「ぐっ………」

「アーサー…あなたは、あなたはどこからおかしくなってしまったのでしょうか……」

「おかしくなどなっていない…私が、わた…しが、ブリテンの王に相応しいのだ。あなたは魔女だ。ブリテンを崩壊させる魔女だ。だ……から……」


 騎士は血を流し続け、言葉も途切れ途切れになる。


「ごっぽ……あな…たに、ブリテンは渡しません。私は……しん…でも、あなたを……み…とめ……ない……」


 魔女は貫いた腕を抜く。騎士はその場に倒れ込み、息を引き取った。


「……………………」


 魔女は膝から崩れ落ちた。目から涙を流す。


「どうしてですか……?私は、私は王になりたいわけではありません。平和なブリテンを望みました。だけど、裏切られ、殺されて、死んで、生き返り……どうして同じ結末になるのです!!」


 魔女は握った拳を地面に何度も叩きつけた。


「悲しい……悔しい……つらい……憎い……私は、私はどうすればよかったのでしょうか……」


 目から溢れる涙は地面に何度も落ちる。拳は血まみれになっていた。


  --------------------------------------------


 雛は気がつけば涙を流していた。私は確かに不倫され、復讐してやろうと思った。それは怒りにまかせた感情にも近かったが、モルガンの記憶をみて思った。雛は、悲しかった、つらかった、それを誰かに受け止めてもらいたかったのだ。復讐に心情が傾いたが、それはこれ以上、自分が傷つかないための自己防衛だったのだ。それに気づいた雛は涙を流し、自分自身を、モルガンを労った。そして気付いた。モルガンの気持ちを受け止める存在がいないということに。


 それに鏡の自分と今の自分を見比べる。鏡の自分は頭から爪先まで綺麗な状態だ。それに比べて今の自分は、指先は薬草の色で若干変色していたり、小さな傷があったり、服で隠れているが、幼いころの“しつけ”の跡があったり…(そこ)には生きた証がたくさん刻まれていたのだ。


「確かに私は頑張らなくていい存在でしょう…復讐も元の世界でやればいい」

『そうよ!』

『その通りよ!』


 鏡の中のモルガン達は一斉に同意する。


「でもね、この世界で一生懸命生きてきた。その証が体に刻まれている。だから今更戻らない。鏡のあなた達はただの偽物。偽物の意見なんていらない」

『なっ…』


 鏡のモルガン達は顔を引き攣らせる。


「それに今までは復讐や憂さ晴らしを目標としてきた。けどこれからは違う。これからは私がこの世界を書き換えて、モルガンを救うことを目標とする!だからもう惑わされない!消えなさい」


 モルガンは指を鳴らすと鏡が粉々に砕け散った。


「私は、もうブレない。必ず“ブリテン”の女王になってやる」


 粉々に砕け散った鏡の破片がゆっくり雨のように落ちてくる。その中に混じって、紙片が落ちてきた。


「紙片の一つね。回収」


 紙片を掴み、再びポケットの中に入れた。すると少し先に光っている扉があった。おそらく出口であろう。


「ここは私の覚悟を確かめる試練だったのかしら?わからないけど…モルガン…いや、ルフェ。あなたを助けるから、待っててね」


 そう言ってモルガンは出口に向かって歩き始めた。

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