第三章 五節 王の依頼
パックは翌日にマーリンの家まで来てモルガンに変装術を教えていた。パックの変装術はその辺の変装術とは一線を置いてるらしく、数日でマーリンを騙せるくらいにまで習得した。
『あとは、実践を積み重ねるだけだよ。嬢ちゃんはブリテンに戻るんだよね?人間相手なら今のままで充分騙せるよ』
「ありがとう、パック」
『いやいや、無料で教えた訳じゃないし、こちらも感謝しているから。ありがとう、嬢ちゃん』
パックが手を差し伸べてきたので、雛は手を差し出して握手した。
『ところで、嬢ちゃんはいつブリテンに戻るんだい?』
パックに問いかけられて、考える。欠けていたピースは全て埋まった。魔術、医術、変装術…この3つがあればブリテンに戻ってもうまくやれるだろう。アヴァロンに留まる理由もない。
「数日したら戻ろうと考えているわ」
『そうかい。じゃあ、嬢ちゃんが帰るまでにまた会いにくるよ。最後の挨拶くらいはしたいしな。嬢ちゃん、またくるよ〜』
そう言ってパックは素早く飛んで行ってしまった。
「パック、ありがとう」
飛んで行き見えなくなったパックに向けてそっと呟き手を小さく振った。パックと入れ替わるようにマーリンがやってくる。
「モルガン、さっきの話聞いていたが数日したら戻るのかい?」
「ええ、ここで得たいものは得たと思う。だから戻って宮廷魔導士になるための準備をしようかと思う」
「まぁ、用もないのにアヴァロンに滞在するのもね…わかった。じゃあ私も一緒に戻ろう。そろそろウーサー王にも会っておかないとね」
「わかったわ、じゃあすうじ…」
雛が話かけているところに急に突風が吹いた。とっさに結界をはり、飛ばされないようにする。突風が止んだと思った時、目の前にはオングスがいた。
「オ、オングス様?何か用かしら?」
雛はオングスに問いかける。オングスは青い瞳で見つめてきた。何かを見定めるような目線。一通り見定めるとため息をついて話しかけてきた。
『モルガン、お前に頼みがある』
「私に?何でしょうか?」
オングスは発言するか悩み、少し考えた後口を開いた。
『私の代わりに洞窟に生じた異変について調べてくれないだろうか』
「洞窟?どこの洞窟ですか?」
『箱庭だ』
ーー箱庭
それはアヴァロンの監獄であり、囚人に近いもの達が収監されている場所だ。
「いいですが…理由を教えていただけますか?」
『理由か…』
オングスは言いにくそうだった。だが、理由なしにはいはいと何でも聞くわけにはいかない。こちらもブリテンに戻らなければならないのだから。
「理由が言えないなら依頼は受けれません」
『わかったわかった!言う。理由は愛する人に会いに行きたいからだ』
「逢瀬のために、異変の調査をしろと…?なんだがバカげていますね…考えさせてほしいです」
『た、頼む…行ってほしい…』
オングスは弱々しい態度で頼んできた。正直見た目からは想像もつかない弱々しさ。雛は依頼を受けるか悩んでいるとマーリンが口を出してきた。
「オングス、ちゃんと理由は説明したほうがいい」
『わかっている!ただ、言えないのだ…口が震えて…』
「……では私が簡単に説明しよう。モルガン、アヴァロンでは死者の魂は死んだ日を起点に前後1週間戻ってくると言われている。オングスの愛し人はもう亡くなっているんだ。亡くなった日を考えると今日から魂が戻ってくるはずだ。それに会いたいんだよ、オングスは」
「………」
前世は不倫され、倒すべき相手も不倫でブリテンを壊す女だ。汚らわしい存在ばかりの中、純粋な愛を見せつけられたようで雛は何も言い返せなかった。ただ、断る理由もなかった。
「わかりました。異変の調査を代わりにしましょう」
『すまない…ありがとう。異変が分かれば伝えてくれ。すぐにかけつける』
そう言ってオングスは霧が深く立ち込めるエリアに飛んでいってしまった。
箱庭は、アヴァロンの端に位置している。アヴァロンの周りは霧があり全体を覆い隠すように存在しているが、箱庭には霧がかかっていない。それはただの監獄であり隠す必要もないものということを意味している。神秘性も美しさもそこにはない。ただ、罪人を収監する箱であるだけだ。
箱庭へは塔を使ってのワープはできないらしく、仕方なく魔法で飛んでいくことにした。霧がないエリアだということもありアヴァロンの地理に詳しくなくても場所がすぐにわかった。ルルはモルガンの肩に乗りついてきた。マーリンは暇だということで一緒についてくることになった。
「箱庭は久々に来たな。やはりアヴァロン、ブリテンとは違い居心地が悪いね」
「マーリン、あなた箱庭には何しに来たの?」
「尋問さ。罪人のね。ただ、だいたいの罪人には口を割らないけどね」
マーリンはそう言うと複雑そうな顔をした。
「さぁ、あの辺に降りよう。洞窟は一つしかないから調査はそんなに時間かからないかもね」
マーリンが指差した場所に降り立った。場所自体はアヴァロンと大体同じような雰囲気だが、降り立った場所の前にある大きな門より奥は禍々しい気を放っている。用がないものはくるなと言わんばかりに。
門より奥は箱庭になり、問題の洞窟は門の横にあった。
「あそこですね。行きましょう」
モルガン達一向は洞窟に向かって歩き出した。
洞窟の中はところどころに明かりがあった。先に進むと行き止まりに遭遇した。
「行き止まり…これ以上道はないですね。どうしましょうか…」
考えているとふと行き止まりの空間の右側に魔力の気配を感じた。
「魔力の気配…右にいってみましょうか」
右手の力をこめ、壁を殴る。
【鋼の一撃】
右手が鋼のように硬さ、強度が増し、その状態で壁を殴ることで穴をあけることができた。気配を感じる方向へ歩き続ける。ある程度歩くと今度は下のほうから感じた。
同じように床を殴り穴を開ける。流石に下に向かって降りるには飛ぶしかなくなる。
「飛びましょう。ルル、おいで」
ルルを肩に乗せて飛んで下に降りていく。下へ下へ、奥深く降りていくとだだっ広い空間にでた。
全体の空気は澄んでいて、水が流れている。空間中央には人が住んでいるかのような居住スペースがあった。
「洞窟にこんなスペースがあったんだ。誰か住んでいそうだね」
マーリンがスペースに近づき降りたとうとした瞬間、マーリンの背後に人が現れ、マーリンを羽交締めにし首にナイフをあてがった。
「わぁ、びっくり。私は人質かな?」
マーリンはおどけていた。背後の人物が話始める。
「誰だ!お前達は!」
口を開いたその人物は、背丈はマーリンと同じくらい、銀髪で髪が伸び切りだらしなくなっており、布一枚のワンピースを来ていた。伸び切った前髪から見える鋭い紫色の瞳と目があった瞬間、驚き話始めた。
「なっ…あなた、なぜここに来たの?」
「え?それは、オングス様に頼まれて…」
よく見るとマーリンを羽交締めにしている人物はどこかでみたことがあった。会ったことはないが、見たことがある。毎日鏡で見ている顔と似ているような気がする。なんとなくだが聞いてみた。
「もしかして、あなた、本当のモルガン…?」
そう問いただすと、彼女は答えた。
「そうよ、私がこの世界のモルガン。絶望から逃げて、あなたに全てをなすりつけたずるい魔女よ」
そう言うと彼女はマーリンから離れ、居住スペースにある椅子に座り泣き始めてしまった。




