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第三章 四節 変装術の習得

ちょっとだけいつもより長めです。


 ミハと影の国にいったモルガンは、影の国にある夜戦病院でひたすら患者を治し続けた。

 もちろん、外科的な手術や内科的な解毒まで様々な処置を施した。途中、魔法と組み合わせて白魔法のような治癒を専門とする魔術を独自で編み出し、多数の負傷者を救った。ミハはモルガンの隣で指導する反面、自分もモルガンの処置から色々学んでいた。ミハは弟子でもあり師匠のようなモルガンを気に入っていた。


『モルガン、そろそろ休憩にしよう。だいぶ患者も落ち着いているしな』

「そうですね、休憩します」


 ミハに休憩を誘われて、休憩室でコーヒーを飲んだ。


『たいしたもんだよ、こんな短期間で医術を習得するなんて。天才だな』

「まぁ、そうですね…」

『いや、謙遜しろよ!天才なのは事実だけど」


 たわいもない会話をしながら、束の間の時を過ごす…ここ数ヶ月は大変だったが、達成感もすごかった。欠けたピースが埋まったようにも思えたが、あと少し足りないと感じていた。


 (もう少し…何かが足りない…)


 考え事をしながらコーヒーをすする。そんな様子を見ていたミハが声をかけてきた。


『モルガン、何か悩みがあるのか?』

「えっ?」

『顔に出ている。よければ話を聞くぞ。たいした助言などできないがな』


 ミハの気遣いに雛は感謝し、相談をはじめた。

 言える範囲のことを簡潔に話し、今悩んでいることを打ち明けた。


『ブリテンに戻る時に必要な能力か…そんな妙案すぐには出てこないな』

「まぁ、出てきていたら私が悩むことはないんですけどね」

『確かにな…俺が勝手に思ったことだが、ブリテンに戻って仕事するなら別の顔が必要なんじゃないか?』

「別の顔?」

『例えば、自分のことを有利な立場にしたいなら相手の立場を悪くするように誘導すればいい、別の人になって。自分が風潮すればすぐバレるが、別の人になって風潮すれば自分がやったとはすぐにはわかるまい。そんな術があればの話だがな』


 ミハは助言したが、あまりいい内容ではないと反省した。一方、雛はそれを聞いて閃いていた。


「別の人になる…別の人に化ける…変装…」

『なるほど、変装なら別の人になれるな。変装を得意とする妖精はたくさんいる。アヴァロンに戻って誰かに教えてもらえばいい』


 会話が終わったのを見計らっていたのか、急に爆音が鳴り響いた。


『誰かが派手にやったな…負傷者が出たはずだ。モルガン準備するぞ。アヴァロンへはもう少しで返そう』

「わかりました。やりましょう」


 そう言って2人は休憩室から急いで出て行ったのであった。




 モルガンが影の国へ行き数ヶ月たった。戦争も落ち着きそろそろ帰るとの知らせがミハから届きルルは安心していた。


「やっと帰ってくるのね、長かったわ」


 ルルはあれから“ヴィヴィアン”の事を調べていた。ヴィヴィアンは湖の乙女とブリテンでは呼ばれており、現在ブリテンを統治しているウーサー王を含めた様々な人達が聖なる対象として崇めている。

 ヴィヴィアンは湖に住んでいるだけあり、水にまつわる力を使える。以前、結界の綻びから水の気配を感じたため、彼女かあるいは彼女に関わる何者かがやった可能性があるとルルは考えていた。

 独自のルートで調査したもののたいした結果は得られなかったため、久々にマーリンの家へ帰ってきた。


「やぁやぁ、ルル。久しぶりだね」

「マーリン…あんたどこ言ってたの?」

「いろんなとこさ」

「相変わらず適当な回答ね」


 ルルは調査の合間に家に寄ったりしたが、一度もマーリンとは顔を合わせなかった。つまりマーリンとは数ヶ月ぶりに会った。


「ところで、モルガンがそろそろ帰ってくるんだろ?」

「そうよ、多分、もう少ししたらじゃないかしら」


 そんな会話をしていると、光線が地面に突き刺さった。


『ふぅ、無事についたな…モルガン、無事か?』

「ええ、ありがとう、ミハ。お世話になりました」

『いや、こちらこそ。また影の国にきて手伝いにきてくれ』

「やぁやぁ、2人ともおかえり」

『マーリン、モルガンを弟子にさせてもらって感謝する。こちらも勉強になった。私はすぐに戻らないといけない。またゆっくり話すとしよう。じゃあな、モルガン、達者でな』


 ミハはそう言って、また影の国に戻った。


「モルガン、おかえり〜」


 ルルがモルガンの胸に飛び乗った。雛はルルをゆっくり撫でる。


「ただいま」


 感動の再会をしている最中、マーリンが話しかけてきた。


「モルガン、おかえり。影の国はどうだった?」


 返事をしようとした際、妙な違和感を感じた。目の前のマーリンは、確かにマーリンなんだが何故か別の人のように感じる。


「マーリン…大変だったので色々話したいですが…質問です。あなたは“誰”ですか?」

「ん?私はマーリンだけど、見間違うほど疲れたのかい?」


 否定された。が、自分の中でこいつはマーリンではないと警鐘を鳴らしている。


 【風の(ウイングブロー)


 指先を弾き、魔法で生み出した強烈な風をマーリンにぶつけた。


「うっ、うわぁあ」


 目の前のマーリンは情けない声をだし尻もちをついた。そこへ雛は近づき再度問い詰める。


「あなたは誰なの?」

『へへ、ばれちまったのなら仕方ない』


 そう言うと、目の前のマーリンの頭から花びらが湧き真の姿があらわになった。


『お嬢ちゃん、オイラの変装を見破るのはすごいな。オイラ、変装の達人なのに』


 そう言ったのは小さい男の妖精だった。


「あなた、変装が得意なの?」

『あぁ、そうだよ。変装ができる妖精はたくさんいるけど、オイラみたいに見破るのが難しいレベルの変装をする妖精はそうそういないよ』

「どうしてマーリンに変装していたの?」

『それはオイラがよくマーリンに変装して、マーリンを手伝っているからさ。魔法はさすがに使えないけどな』


 そう言うと目の前の妖精はふんぞりかえった。


「ふーん…ねぇ、私に変装術を教えてくれない?」

『いいぞ!ただし条件がある』

「条件?何かしら?」

『マーリンが私の大事な宝物を持っているんだ。それを取り返してくれないか?』

「いいわ、宝物って何なの?」

『メガネだよ』

「メガネ?」

『あぁ、昔じいさんからもらった変装術のメガネなんだ。それがあるとより見破られなくなるんだ。だが、昔マーリンにとられて、それ以来返してくれないんだ』

「いいわ、マーリンと話をするわ」


 そんな会話をしている最中、マーリンが現れた。


「やぁ、モルガン。影の国から帰ったんだね。無事で何よりだ。ところで、パック。なぜここにいるんだい?」

『そっ、それは…』


 パックは少し焦ったような様子だったが、雛が会話に割って入った。


「マーリン、パックのメガネを返してくれませんか?」

「メガネ…?あぁ、あのメガネか。どうして君がその存在を知っているんだい?」

「それは…」


 雛は今までの経緯を簡潔に話した。


「なるほどね。パックも考えたね〜確かに、変装術はモルガンには必要かもね。わかった…メガネは返すよ。その代わり条件がある」

『な、なんだい?』

「この先数年、メガネを使うのは禁止する。それでいいかい?」

『……わかったよ、条件を飲む』

「交渉成立だね。はい、じゃあ返すよ」


 マーリンは懐からメガネを出して、パックに渡した。


『わぁ!ありがとう!お嬢ちゃん、ありがとう!約束通り、変装術を教えるよ。明日からでいい?』

「明日からで問題ないわ」

『わかったよ。じゃあ明日またここにくるね」


 そう言い残しパックは去って行った。


「ところで、マーリン。なぜメガネなんか奪ったんですか?」


 雛は純粋な疑問を投げつけた。


「あのメガネはね、パックのおじいさんの呪いがかかっていてね…とりあえず呪いは解除されたから返してあげることに決めたよ」

「呪い?」

「あぁ、パックは変装術を悪用して悪さしていたんだ。それを見兼ねたおじいさんが改心するようにパックの変装術が見破られやすくなるような呪いをメガネにかけて持たせたのさ。それを私がたまたま拾って、おじいさんの呪いを解読してね…いいように利用して私の下で働いてもらうことにしたのさ。変わりにメガネの呪いは解いたけどね。この先数年、使用を禁止したのは呪いの残滓が自然に消えるために数年必要だからさ」

「見破られやすくなるだけの呪いなら、受けても問題ないのでは?」

「正確な呪いはね、『変装が見破られやすくなる。仮にこの呪いを受けてもなお悪さをする場合は“箱庭(ヴォーガーデン)”に追放し、永遠にそこで過ごす】という呪いだったんだよ。箱庭は、アヴァロンの刑務所みたいなところだよ。アヴァロンの刑務所は怖いよ。人間でいう地獄に落ちると同義じゃないかな」


 マーリンの話を聞いて、知らないほうが幸せなこともあるなと感じたのであった。

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