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第三章 三節 医術の習得


 マーリンとの修行は途方もなく時間がかかった。

 魔力の支配、魔法の行使はあまり時間がかからなかったが、魔力の解放には膨大な時間と体力を消耗した。

 モルガンは稀代の悪役魔女、その能力は底知れず限界などないと言わんばかりに魔力が溢れ出る。

 これにはマーリンも驚き、修行の終わりを線引きするのが難しそうであった。

 解放の修行を終わらせるためにアヴァロンに発生する魔物を狩りに狩り続け、しばらく魔物が発生しないほどに狩り尽くしてしまったことで、マーリンもお手上げ状態になり修行はそこで終了してしまった。


「いや〜天才だね。私より遥かに魔術のセンスがある」

「あなたと一緒にしないで、モルガンはすごいんだから」


 ルルが素早くツッコミを入れる。


「辛辣だな…でもお世辞でもなく本当のこといってるからね。充分宮廷魔導士になれるよ」


 マーリンは誇らしげに言った。


「ありがとう、マーリン。でも、まだ何か足りない気がするの」

「足りない?あれだけ魔物を倒しておいて?」


 マーリンの言うことも頷ける。

 アヴァロンにいるいろんな妖精達に感謝されるほど魔物を倒した。それは女王であるメロウや王であるオングスも含まれる。それだけ結果を出したのにも関わらず、雛の心はピースが欠けた状態のようだった。


 (何が足りないのかしら…魔術以外も必要なのかしら…)


 そう考えごとをしていると、近くが騒がしくなってきた。


「ん、なんだい?あれは…かなりまずいね」


 マーリンの目線の先には黒いモヤが湧き出る妖精が複数人おり、どれもが床に横たわりながら苦しそうにしている。


「あっ、あれは“呪い”だ。かなりひどい状態だね。マーリンなんとかできないの?」

「私は魔法使いだけど、呪いとか治癒の分野は専門外だよ。そもそも呪いとかをかからないように魔法で防御かけるんだから、治す術などもっていないよ」

「正論野郎が!」


 ルルがマーリンの足に猫パンチした。


「猫パンチはあまり痛くないな〜」


 マーリンは声を出して笑った。


「ルル、あれを治さないとどうなるの?」

「どんな呪いかにもよるんだけど、基本呪いは人間の世界でいう怪我とか病気に近いんだ、だから何もしなかったら死んでしまう」

「死ぬ…」


 雛は寒気がした。自分も事故に遭い死んだし、モルガンも関係ないトラブルに巻き込まれて何度も死んでいる。

 関係ない人かもしれないが何の罪もない人が死ぬのは嫌だ、死ぬところなどみたくない。

 雛は強く心の中で思った。

 気付くと倒れている妖精達のほうに向かっていた。


「モルガン!?」

「モルガン、何をしようとしているんだ?君に何かできるのか?」


 マーリンの鋭い指摘を無視して妖精達の元に駆け寄る。

 黒いモヤをじっと見つめる。すると金色の文字のようなモノが浮かび上がっていた。


 ーーショクチュウドク。ヤクソウヲアタエロ。ーー


 (症状と対処法が書いてある…とりあえずこの通りに従おう)


 雛は文字の通り、常備している薬草を妖精達に飲ませた。数分経つと妖精達の周りにあったモヤが消えていった。


『モヤが消えた!』

『よかったー!』

『あんたすごいな!』


 周りで見守っていた妖精達が次々に話始めた。

 その騒がしさを掻き分けるように1人の男が走ってきた。


『急患と聞いて駆けつけたが、何やら騒がしいな』


 その男は茶髪のロングヘア、片眼鏡をかけ、白衣を連想させるローブをきていた。


『ミハ!遅いよ!この嬢ちゃんが患者を治しちゃったよ』

『何?』


 ミハという男が鋭くモルガンを睨んだ。


『貴様が治したと聞いたが本当か?』

「まぁ…薬草を飲ましただけですけどね」

『薬草を飲ます…どうして治し方がわかったのだ?』


 ミハはモルガンを問い詰めるかのように質問してくる。


「黒いモヤに金色の文字が浮かび上がっていて、そこに症状と対処法が書いてあったわ」

『なんだと!?』


 ミハはかなり驚いた。それは自分の父と同じ発言だったからだ。父であるディアンは医の神であった。なんでも治せる父は自分からしたら尊敬の対象だった。そんな父がよく言っていた。


『俺は天才なんかじゃない。患者をみたら治し方が浮かび上がってくるんだ。俺はその通りに治してるだけさ』


 (目の前の女は父と同じ発言をして患者を治してしまった…もしかしたらこの女は父の生まれ変わりなのか?)


 ありえない話だが、ミハは信じたくもあった。


『貴様、名前はなんという?』

「モルガンです」

『モルガン、私の元で医術を学ばないか?』

「医術…」


 雛は考えた。医術は必要かもしれないと。ブリテンに戻ればいつかは戦争にまみえるかもしれない、その時攻めの魔法だけでなく、守りの術も身につけておいたほうがいい…。


「わかりました、その話受けましょう」

『いい返事だ』


 ミハとモルガンのそばにルルとマーリンが近づいてくる。


「やぁ、ミハ。影の国から戻ったのかい?」

『マーリン、お前もブリテンから戻ったのか?』

「そうそう〜相変わらず目つきが怖いよね」

「マーリン余計なこと言わない」


 ルルが再び猫パンチをする。


『マーリンは相変わらずだな。マーリンはモルガンの知り合いか?』

「いかにも、モルガンは私の弟子だ。アヴァロンには魔術の修行をするためにきたのさ」

『ほう…魔法の才もあるのか。すごいな』


 ミハはモルガンを心から賞賛した。


「ミハ、モルガンに医術を教えてくれるのかい?」

『あぁ、こいつには医術の才があるし、何より俺も近くで学ぶことができそうだ』

「影の国にいくのかい?」

『ここは患者が少ない。経験を積むなら影の国が一番いい』

「影の国か…少し危険だね』

「ルル、影の国って何かしら?」

「影の国はね、試練と死が隣合わせの国なんだ。アヴァロンとは真反対の島さ。絶えずどこかで戦いが起きてるから、負傷者も多いと思う…危険だけど、行くんだよね?」

「医術はブリテンに戻っても役に立つと思う」

「そうだよね…気をつけてね。私はついていけないから」


 雛は驚いた。ルルはてっきりついてくると思っていたから。ルルが自らいけないというなら何か理由があるんだろう。


「わかった。ミハについていって学んでくるよ」

『決まりだな。さっそく行くぞ。急患は待ってくれない。私と一緒にワープするぞ』


 そう言うとミハは右手を上空に掲げた。


『モルガン、私につかまりなさい。体ごと移動する』


 ミハに言われたとおり体にしがみつく。


『では、いくぞ』


 そう言ったと同時に光の速さで影の国へ飛んでいってしまった。


「ルル、君はなぜいかなかったんだい?行けるんだろ?本当は」

「………」

「言いたくなければ言わなくていいけどさ」

「私には他にやることがあるし、影の国にいい思い出がない」

「君は影の国に行ったことがあるのかい?」

「ええ、何度もね」

「ふーん」


 マーリンは含みのあるように相槌をうった。


「それより、マーリン。あんたに聞きたいことがある」

「珍しいね、なんだい?」

「あんた、ヴィヴィアンと最近会った?」

「ヴィヴィアンか…アヴァロンに来てからは会ってないな」

「アヴァロンに戻る前は?」

「まぁ、1週間に1回は会っていたかな」

「なんか変なことはなかった?」

「変なこと?」

「変わったこととか」

「うーん…特には」

「そう、じゃあいいわ。私はモルガンが戻るまでは調べものをするから、家には帰らない」

「はーい、調べものはヴィヴィアンに関係することなのかい?」

「そうよ、ヤツが悪さしてないか調べるの」


 ルルはそう言ってマーリンの元を去った。


「ヴィヴィアン、愛しのヴィヴィアン…君は悪さをしているのかい?そう言われると気になってしまうよ」


 そうマーリンは呟き、ブリテンへ移動する塔へ向かうのであった。

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