第三章 二節 魔術の修行
若干の性的表現ありです。
テーブルに広がる豪華な2人分の食事
純白のクロス、季節を表す美しい花
全てが完璧に飾られた食卓にすわる1人の女性
向かいの席には誰もいない
数分たって、女性は1人で食事を取り始める
頬をつたう涙を拭わずに
悲しみと虚しさが湧き上がる
外は今年初めての雪が降っていた
まるで誰かの怒りを表すかのように激しく
ーーヤツラヲ、ゼッタイニ、ユルサナイ
「は……!」
雛は目覚めた。どうやら夢を見ていたらしい。
「転生前の夢か…何かを暗示しているのかしら?」
考えてみたが、答えが出なかった。
仕方ないので服を着替え、1階に降りて朝食の準備を始めた。
昨日モノロエと茶会をした後、マーリンが帰宅した。
帰宅したマーリンに家での過ごし方、キッチンの使い方や家電の使い方などを教えてもらった。
公爵家ではご飯を作っていなかったが、転生前は普通に食事を作っていたので朝食を作るのは苦ではない。マーリンの家だからか、魔法がかかっていて作業を手伝ってくれる。作った食事は自動で浮遊してテーブルに並ぶし、使った調理器具は自動で洗浄されていった。
「魔法って便利すぎるな」
自身の分を作り終えたので、ルルとマーリンの分を用意する。ルルはいつもミルクだけだ。マーリンは食事はいらないと昨日聞いたが、お茶は欲しいとのことでマーリンの分のお茶だけはいれておく。
「雛、おはよう…朝からテキパキしてるのね」
ルルが2階から降りてきた。
「ルル、おはよう。珍しくおきてくるのが遅いね」
「うん…なんだか安心してね。アヴァロンは落ち着くから熟睡してしまったわ」
アヴァロンは癒しの国でもある。だからルルは熟睡できたようだ。雛自身はあまり恩恵を受けた気持ちではなかった。
「そろそろマーリンも起こしにいこう」
雛はそう言って2階へあがりマーリンの部屋へ向かう。
「なんか嫌な予感がする…私もついていくよ!」
ルルも雛の後を追う。
マーリンの部屋の前に立つ。扉の隙間から甘美で重厚な香りが漏れ出していた。
「いい匂い…なんだろか?とりあえず起こそう。マーリン、入ります」
ノックして扉を開けると、そこにはほぼ裸みたいな姿の女性らしき人と抱き合って眠るマーリンの姿があった。
「なっ……」
喉の奥で、苦い酸がせり上がる感覚がしたがぐっとこらえる。転生前にも似たような現場に遭遇したため耐性はあったものの、ノーリアクションは難しかった。
「ん…モルガンかな?起こしにきてくれたのかい?」
マーリンはベッドから上半身を起こした。見たところ服は身につけており、乱れた様子はない。一方、横で眠る女性は生々しい下着姿で、着ていたであろう衣服は床に散乱していた。
「は、はい。起こしにきました…ところで、隣で寝ている女性はなんですか?プライベートに口は挟みませんが、先に言っておいてください」
冷静にマーリンに抗議した。マーリンは横にいる女性をみて、すまなさそうな顔をし女性に杖をかざした。
すると床に落ちていた服が動き出し女性に着せられた、と同時に女性の体がほのかに光を帯びた。
光がだんだん強くなり、閃光弾のように光を放ったと思った瞬間、女性は消えていなくなってしまった。
「みっともないところを見せたね。しばらくは大丈夫だから。後で説明するね。さぁ、下で先に朝食をとっておいてくれたまえ」
そう言われると、扉がひとりでに勢いよく閉まった。
「雛、今の光は?」
ルルが近づいてきた。
「わからない、マーリンの近くにいた女性が光とともにいなくなってしまった…」
「女性?あー…なるほど、何か言われた?」
「後で説明するから、先に朝食とっていいって」
「じゃあそうしよう、私から言うことでもないし」
ルルがやけに素直だったので、不思議な気分になった。
言われた通り、先に朝食をとっているとマーリンがおりてきた。
「いやはや、すまないね。見苦しいところを見せてしまって」
頭をかきながらテーブルに近づき、椅子に座った。
「事情を説明してもらえば問題ないです」
「やっぱり気になるよね」
マーリンは気まずい顔をしながら話始めた。
「私はね、人間と夢魔のハーフなんだ。だから夢魔の能力も引き継いでいてね。夢魔は人の夢や生命を糧にいきる種族なんだ。本家の夢魔ほど私はエネルギーが必要ではないけど、全く必要ではないということでもない。だからたまーに女の妖精から夢を吸収しているのさ」
「理解はできました、ですが下着姿の女性と同じベッドで寝る必要がありますか?」
雛はマーリンに直球の質問を投げつける。
「確かに、指摘通りだとも。言い訳にしか聞こえないが、私が魔法で誰かの夢に入り込むより誰かが近くにいてくれたほうが吸収効率がいいんだ。肌が触れ合うとなおいい。かつ自分の陣地内だともっといい。魔法使いは自分の寝ぐらを大事にするからね」
普通の感覚ではなかなか納得はできないが、ここは普通の感覚が通用しない世界だ。雛は無理矢理納得した。
「わかりました。とりあえず次に吸収するときは事前に教えてください」
「はいはい、わかりましたよ」
マーリンは仕方なしといった感じで返事した。
「話は変わりますが、修行とは何をするのですか?全容を教えてくれますか?」
「おぉ、そうだった。朝食を摂り終えたら話をしよう」
そう言ってマーリンはお茶を飲んだ。
朝食をとり、片付けを終えるとマーリンが椅子に座っていたので向かいの椅子に座った。
「片付けご苦労様。さぁ、修行について話をしようじゃないか」
そう言ってマーリンは杖を掲げる。杖から煙が出てきて、ホワイトボードのような形を成した。
「君が私のもとで学ぶことは3つだ」
マーリンが話終えると、ホワイトボードに文字が浮かび上がってきた。
ーー魔力の支配
ーー魔法の行使
ーー魔力の解放
「支配、行使、解放…」
「たった3つだけど、大事な3つさ。魔力の支配は、魔力を自由自在に操れるようにすること。魔法の行使は自由に魔法を使えるようにすること。魔力の解放は自身の魔力上限を知り、解放することでおきる影響をしること。以上、3つだ」
マーリンは簡単に説明してくれた。内容はホワイトボードにも追記される。
「順番に一つづつ確実にやっていこう、時間はたっぷりあるんだから。まずは魔力の支配からだね。さっそくやるよ」
そう言ってマーリンと雛は庭にでて、修行をはじめるのであった。
ルルはモルガンとマーリンが庭で修行をしている間、散歩にでていた。ルル自身、修行するわけではないし見ているだけは暇だったからだ。
歩き慣れたアヴァロンをとぼとぼ歩く。するとモノロエ含む複数の妖精達が何か作業していた。
「そういえば、近所にすんでるっていっていたね」
ルルは何をしているか気になりモノロエ達に近づいた。
「お前さんたち、何をしてるんだい?」
『あれ?あなたはモルガンの猫…?なぜこんなところに?』
「暇だからさ。散歩中だよ」
『1人で散歩して大丈夫?道に迷うよ?アヴァロンは迷うと中々大変だよ?』
「大丈夫、道はわかるから」
『ふーん、変な猫』
モノロエはルルに冷たく返された少し毒舌を吐いた。
「アヴァロンの8姉妹の長女がそんな口を聞いていいのかい?」
『な、なんでそれ知っているの?』
モノロエはわなわなと震えた。
「まぁ、いいではないか。ところで何をしているんだ?」
ルルはモノロエの問いにスルーして再度質問する。
『今朝起きたら“守りの結界”が壊れていて、慌ててみんなで修復しているところなの』
「ふーん……」
ルルは壊れた結界に近づく。
『触れたらダメよ!私達以外触れると吹き飛ばされちゃうよ!』
モノロエが大きな声で注意をしてきた。
「大丈夫だよ」
ルルはモノロエの忠告を無視して結界に触れる。壊された結界の残滓から澱んだ【水】の要素を感じた。
「これは……やつが悪さしているのかしら」
ルルはそう言って、マーリンの家に戻る。
『なんなのあの猫、やつって誰よ……』
『モノロエ姉さん、こっち手伝って〜』
妹の1人が声をかけてきた。
『今いくわ!』
モノロエは溢れ出した違和感を抑え、結界の修復作業に戻るのであった。




