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第三章 一節 謁見〜後編〜


『メロウ様、落ち着いてください。さぁ、プリンでも食べて』

 

 そう言ってメイド――レイチェルは、喚き散らすメロウの首根っこを、プリンの山の中へ沈めるように押し込んだ。

 

(あれは食べるというより、溺れさせているように見えるのだけれど……)

 

 雛が呆気に取られていると、瞬く間に皿の上のプリンが消滅した。まるで時空ごと吸い込まれたかのような猛スピードだ。甘味を摂取したメロウは、いつの間にか元の姿に戻っていた。


『ふぅ、落ち着いた…』

『何を暴走しているのです。余計なことをしたのではないですか?』

『何をいうか!レイチェル!わらわは何もしておらぬ!そこにいる女がこの部屋を氷漬けにしたのじゃ!わらわは悪くない!』

『本当ですか?さすがに嘘がすぎますよ。ただの人間の女にそんなことができるでしょうか?また私を困らせようとしていませんか?』

『な…!信じておくれよ、レイチェルゥゥゥ…』


 メロウの瞳に再び大粒の涙が溜まりはじめる。それを見兼ねたマーリンが口を開く。


「レイチェル、お久しぶり。女王メロウが言っていることは本当だよ。この子はモルガン、私が連れてきた魔女見習いさ」

『あら、マーリン様。お久しぶりでございます。ほう、メロウ様が言ったことが本当なんですね。失礼いたしました』


 レイチェルはドレスの裾を摘んで深々とお辞儀をした。


『レイチェル!なぜ私よりマーリンを信じるのだ!扱いの差がありすぎるではないか!』

『マーリン様は偉大な魔法使いです。メロウ様より信頼できます』

「いやぁ、照れるな。褒めても何もでないよ〜」

『ぐぬぬぬ…こんな夢魔風情に負けるとは…』


 三人が話しているとそれまで沈黙を守っていたオングスが会話に割り込んできた。


『君たち、大事なことを忘れていない?モルガンとルルを放置しすぎでしょ』


 オングスの発言で皆がはっとする。先陣をきってレイチェルが話し始める。

 

『失礼いたしました…モルガン様にルル様。私はメロウ様のお世話係のレイチェルと申します。以後、お見知り置きを。私のことはレイチェルとお呼びくたざい』


 レイチェルは再び丁寧なお辞儀で挨拶をした。


「レイチェル、よろしく」


 雛は軽く会釈した。


『ところで、ここには挨拶にきたのでしょうか?』

「そうだよ、しばらくアヴァロンにいるし、女王メロウには挨拶しておきたくてね。オングスがいたのは誤算だけどね」

『私はマーリンに用があるのだ。お前、以前頼んでいた『件』について聞かせろ』


 オングスは人差し指をマーリンに向ける。人差し指から光の鎖がでてきてマーリンを捕縛した。


「オングス、私は逃げないよ。拘束はやめてほしいな」

『うるさい、お前は逃げ足が早いからな。こうしておくのが賢明だ』

「大魔法使いなのに…扱いがひどい…」


 マーリンは泣き真似をした。


『オングス様、ほどほどにしてあげてくださいね。メロウ様はこの後会議がありますので、準備しますよ。客人達にご挨拶してください』

『ふむ…モルガンよ、先ほど悪かった。私はこれから会議があるため立席します。あなたは修行のためにアヴァロンに来たと思いますがアヴァロンはいいところです。観光もしてみてください。よい魔女になることを願っています」


 幼女のような話し方ではなく統治者らしいきっちりとした話し方でモルガンに挨拶をしたメロウはレイチェルと共に奥の部屋へ入っていった。


「女王メロウへの挨拶がすんだから、アヴァロンでの住居に案内したいところではあるが、オングスと話をしないといけないからね…どうしたものか…」


 マーリンが困っていると小さき鈴のような声が聞こえてきた。


『マーリン、私が案内しようか?』


 声のほうにむくと、茶髪のウェーブがかかったショートヘアで小柄な妖精が話かけてきた。


「モノロエ、帰ってきてたんだね。では、君に頼もう」

『まっかせて!』


 モノロエは胸を大きく叩いた。


『決まったな。よし、マーリン行くぞ』


 オングスはマーリンを犬のようにひっぱり、もう片方の手で亜空間をつくり、その裂け目に消えて行った。


「ふぅ、やっと静かになったね」


 ルルがため息をついた。


「そうね…とりあえずモノロエ…?だったかしら。住居への案内お願いできるかしら?」

『まっかせて!これでやっと恩返しができる!』

「恩返し?」

『うん!私、ブリテンでお茶会をしたんだけどそこであなたに助けられたの!覚えてる?』

「あ…」


 雛は思いだした。見えざるお茶会の中にモノロエがいたことを。


『あの時助けてくれてありがとう。おかげでお茶会は成功したし、良かったよ!は…!無駄話している場合じゃないね。居住に案内するね。居住はマーリンがアヴァロンに来た時に使ってるところなんだ。私は近くに住んでいるの。お隣さんみたいな感じなんだ。さ、行こう!」


 モノロエは明るく丁寧に説明した後、マーリンの居住へ案内してくれた。

 マーリンの居住へは、客間のワープ機能を使い妖精達がすむ町の関所へ移動後、徒歩で向かった。

 関所からマーリンの家は遠くなく体感5分くらいだった。


『ついたよ!』


 マーリンの家は至って普通の家だった。特に特徴的な箇所はない。


『中に入っていよう。きっとすぐには帰ってこないよ。お茶でもして待っていよう』


 モノロエはそう言って中に入り、勝手に出際よくお茶の準備をし始めた。雛とルルも家の中に入る。中も至って普通だった。2階建てで、1階にはキッチン、食卓テーブル、お風呂があり、2階には寝るスペースが2つあった。


「普通ね…」

「マーリンはずっとアヴァロンにいるわけじゃないから最低限のものしかないと思うよ」


 ルルはそう言って窓の近くで丸まり始めた。


「そうよね…そういえば無事にアヴァロンに来たはいいものの何もわからないわね…」


 雛はそう言って椅子に腰掛けた。


『私が教えてあげようか?何が知りたい?』


 大きいポットを持って、お湯をいれながらモノロエが話しかけてきた。


「そうね…アヴァロンの歴史とかしりたいわね」

『まっかせて!』


 モノロエはティーカップにお茶を注ぎながらアヴァロンの歴史について語り始めた。



 昔、昔

 神がまだいた時代

 神は自由に生き、自由にモノを作れた

 とある女神がか弱く美しいモノ達のために楽園をつくった

 それがアヴァロン

 アヴァロンには妖精、精霊達が自由で豊かに過ごしている

 寿命の概念はなく、気ままにくらしていた

 しかし、一部のモノ達が不満や不安を理由に内戦、犯罪を起こし、アヴァロンは一瞬腐敗がおきる

 それを見かねた女神がアヴァロンを統治する女王を選定

 女王とその夫と共にアヴァロンを統治したことでアヴァロンは平穏を取り戻す

 女王は罪人達を管理、反省させる監獄をつくった

 監獄では悪しきモノを収容することでアヴァロンの平和のバランスは保たれた

 しかし、反乱が起きる

 とある妖精がアヴァロンを統治するために女王を殺害しようとした

 妖精のせいで女王は命を落としてしまうが、女王の活躍のおかげで妖精はとある地に封印され、アヴァロンから閉め出された

 女王亡き後、次代の女王が現れるまで女王メロウがアヴァロンを統治する

 


『大体の妖精達が知っているアヴァロンの歴史だよ。メロウ様は女王代理で、アヴァロンを頑張って統治しているんだよね』


 モノロエはお茶を飲みながらメロウを褒めていた。


「そうなの…ところでメロウ様がプリンを食べてたんだけど理由知ってる?」


 雛は気になっていたことをモノロエにたずねた。


『あぁ!メロウ様はね気が抜けると魔力コントロールができなくなって暴走状態に入るんだ。それを回避するために甘いものを食べるんだよ』

「そ、そうなの…妖精も大変なのね」


 雛はモノロエが入れてくれたお茶を飲みながらメロウに悪いことしたなと少し思った。

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