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第九話:遺言

 


 荷物を置いて悲鳴の聞こえた方へ走ります。

 すぐに村のものと思われる家の屋根が見えてきました。


 襲撃した魔物は…ゴブリンのようです。

 粗雑ながらも武器をもつ彼等は、恐らくこの前の襲撃の生き残りでしょう。


 散り散りになった先でグループを形成して村を襲ったのだと思います。村の男性たちが迎撃に出ており、パッと見ですが旗色は良さそうです。


 村人から距離のあるゴブリンに対し矢を放ちます。


 あの襲撃の時よりは近いのもあってか、見事にゴブリンの胸を撃ち抜きました。


「冒険者か」

「助太刀します」


 村人の集団に交じり、ルソンの背後に回ります。


「頼みますよ」

「ああ、任せて」


 ルソンはしっかりと敵の方を向いたまま盾を胸の位置に構えます。

 剣も、背の低いゴブリンに合わせて剣先を下げた状態で向けています。


 一端の冒険者らしい、見事なフォームです。


「ギャギャ!」


 ゴブリンの突撃を盾でしっかり防いでから、隙を最小限に反撃しています。


 他のゴブリンが来ないか、視界から敵を外さないのも徹底していて非の打ち所がありません。


 いつのまにこんなに成長していたのでしょうか。



 斬られて負傷したゴブリンが一度下がり、もう一体のゴブリンと共にこちらに来ます。

 挟み撃ちをするようです。


「右を頼む」

「了解です」


 同時に攻撃される前に、先制して左側にいるゴブリンを潰しに行くルソン。



 負けてられません。

 彼が離れたことで射線が開けた私も、右のゴブリンへ矢を射ます。


 心地の良い風きり音と共に、ゴブリンの右眼へと矢が吸い込まれていきました。


 目を撃ち抜かれたゴブリンはそのまま地面を転がっていき、起き上がるよりも先に左のゴブリンを倒したルソンにとどめを刺されます。


 引き抜いた剣を振るって血を拭う姿も様になってます。





 なんでしょう








 かっこいいじゃないですか






 実戦を経て身に付けた技術で、前衛としてしっかり攻防一体の動きで敵を抑え込む。

 瞬間的に一対一を出来るように私が彼を援護し、彼は私に敵が来ないように牽制し続ける。


 冒険者として、理想の連携が出来ています。


 まさかここまで成長性のある人材だとは思ってませんでした。



 残った最後の一体も難なく討伐し、村全体で歓声が上がります。


「あんたら小さいのに強いな」

「助かったよ」


 村人は口々に褒めてくれます。

 ルソンも少し照れ気味です。


「負傷した人はここに集まってください、私が治療しますから」


 荷物を取ってきたらもうひと仕事です。









「もしかして、君がフィーユかい?」


 治療が一段落した所で、杖をついた青年が声をかけてきました。


「はい、そうです…どこかでお会いしたことあるでしょうか」


 青年の顔立ちは何処にでもいるような普通の村人のそれです。


 見覚えがあると言われればあるような気がしてくる。そんな印象すら受けます。

 ですが、杖をつくような青年の知り合いは覚えがありません。


「いや、はじめましてだよ。俺の名前はジャン、テトから世話になったと聞いてる」


 テトの名前を聞いた瞬間、心臓がドクンと跳ねました。


「…彼は、今どうしていますか」

「………死んだよ」



 最後の望みをかけた質問は、嬉しくない回答で返されます。


 わかってはいました。


「その様子だと聞いてはいたみたいだね」

「はい、知り合いからここに来れば何かわかると」


 広げていた荷物をまとめます。


「それについては後で話そう、まずは村を案内するよ」


 すぐにでも聞き出したいところですが、この前のように責め立てるわけにも行きません。

 左足を庇いながらも歩き始めた彼についていきます。



「テトは俺の幼なじみなんだ、昔はよく一緒に遊んだよ」


 テトが故郷に置いてきた親友とはジャンのことだったようです。

 なんとなく雰囲気が似ているような気がするのも、一緒に育ったからなのでしょう。


「ある日、勇者ごっこをして森に入ってた時かな。魔物に襲われてね、二人でなんとか追い払ったんだけど左足をやられたんだ」


 ぽんぽんと左足を叩くジャン。確かにその足には力がうまく入ってないように不安定です。

 恐らく、走ることもままならないのでしょう。


 一度治癒してしまった怪我による後遺症は、普通の精霊では治せません。


 傷跡をもう一度抉ってから精霊術を使うことで後遺症が治った例も無くはないですが、失敗に終わる可能性のほうが高いです。

 私ではどうしようもありません。


「気にしなくていいさ、もう諦めてる」


 私の雰囲気を感じ取ったようです。

 こういう勘の良さはテトとそっくりです。


「すみません」


 少しだけ重い空気の中、ジャンによる村の案内が始まります。


 村で唯一道具の修理ができる何でも屋さんや、よく遊んだという広場。

 こっそり忍び込んだこともあるという醸造所だったり、魔物の剥製だったり。


 辺境とはいえ、それなりに見どころのある村というのがわかります。

 この辺は魔物が多いからなのでしょうが、その剥製が軒先に飾られてたりするのは少々不気味です。


 ゆっくりと歩きながらも、ジャンはテトとの思い出を語ってくれます。



 ジャンの思い出の中のテトは、私の知るテトよりもお茶目でよく動き回る活発な子供のようです。


 その情景が思い起こせるくらい、ジャンはテトについて熱く語ってくれました。



「と、もう家に着いてしまった」


 そこはよくある一軒家。

 家畜は飼ってないようですが、猫がいるようです。


「上がってくれ」

「お邪魔します」


 最初に目に入ってきたのは大きめの織り機でした。

 畑仕事が出来ない代わりに服飾をやっているのでしょう。壁際にはいくつもの服とその材料が置かれています。


「片足が動いてくれてほんとに良かったよ、おかげで俺でも食べていける」

「…」


 こういうとき、なんて声をかけたら良いのかわかりません。



「さて…なにから話そうかな」


 ジャンはしばし悩んだ素振りをします。

 彼にとっても話しにくいことなのでしょう。あー、とかうーんとばかり口にしていて、内容に悩むというより話すことそれ自体に躊躇しているように見えました。


「ジャンさん、順を追って話してください」

「そうだよね…ごめん、まだ踏ん切りがつかなくて」


 ジャンは深呼吸をして息を整えると、意を決した表情を作りました。


「あれは、ひと月ほど前のことだ。ここから少し北に行ったところにある街に冒険者やら傭兵やらが向かっていた」


 ひと月前というと、私がパーティーを追放されてから10日前後になります。


「一部の人らはこの村に泊まって行った、なんか暗い顔をしていたり魔王討伐だと息巻いてたりと不思議だったのを覚えてる。だってそうだろう? 勝てるはずの戦いで、志願したはずの遠征でなんで表情が二分してるんだと不思議だった」



「けど誰も語ってくれなかった、そんな中テト達が来た」



「会うのは久しぶりだったから大喜びで会いに行ったよ。でもその顔を見た瞬間、俺はかけようとした声が引っ込んじまった」


 ジャンの右手は、きつく握り拳が作られています。


「アイツが泣きそうな顔をしてこっちを見てたんだ。魔物に襲われても果敢に立ち向かってたアイツがだ」


 テトがそういう表情をするのは見たことがありません。


「何事かと思って問いただしても何も教えちゃくれない、ただ"もしフィーユが来たらこれを頼む"って紙切れを押し付けて村の外に行っちまった」



「それから暫くしてからだ、この国が隣国に戦争を仕掛けたと知ったのは」


 …やはり、この国は隣国に戦争を仕掛けていたのですね。


「ひどいことに、冒険者は正規兵の壁として最前線に置かれたらしい。逃げ出してきた冒険者が運良くこの村に辿り着いて初めてそれがわかった。街道を使って逃げた連中は検問で引っかかってそのまま処刑されたって話だ」


 私達が出会った殺気だった兵士たちは、脱走兵を捕らえるのが目的だったということになります。

 そう考えると、あの場で拘束されなかったのは幸運でした。


「匿った冒険者の一人がテト達の近くに配置されていた。そいつ曰く隣国の魔法掃射でテト達が全滅したらしい…最も、そいつも傷が悪化して死んじまったからこれ以上は分からずじまいだが」



「色々見越して、何を思ってこれを書いたのか俺にはわからない。けど、心底辛かっただろうってのはあの時の顔でよくわかる」


 引き出しの中から、1枚の紙を取り出しました。



「それが…」


 私の漏らした声にジャンは「ああ」と相槌を打って、その紙切れを私の前に差し出しました。




「テトからの遺言だ」


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