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第三話:救済

 

「フィーユ…僕、眠い……」

「二人で野営するなら睡眠時間は半分になるのは仕方ないんです。慣れてください」


 一応、ルソンには長めに寝てもらいましたがその瞼は重そうです。

 初の実戦をした翌日なのでもう少し日が昇ってから動いても良かったですね。

 ですが、あまり時間もかけたくありません。


「今日は途中の街に寄って宿に行くんです。頑張ってください」

「はい…」


 都市に近いほど魔物の駆除も進んでいるので多少気が緩んでも大丈夫ですが、宿にはたどり着かないと明日の体力が持ちません。

 足を引きずってでも歩いてもらいます。



 休憩を挟みつつも移動していくと荷車が見えました。

 大きめの街道ですのでこうして人と出会うのは珍しくありませんがなにやら様子が変です。


「何かあったのかな」

「ちょっと声をかけてみましょうか」


 近付いてみれば馬の手綱を握っていたおじさんが困った顔をしています。

 馬に声をかけたり手綱をあっちへこっちへ動かしているのを見るに盗賊というわけでもなく、本当にただ困っているだけの人のようです。


「どうかしましたか?」

「ああ、馬が急に動かなくなっちまってよ。普段馬なんて使わんもんだから何が悪いのかさっぱりなんだ」


 おじさんが手綱を引いても馬は首を振るばかりで、一歩も歩こうとしません。

 まるで歩きたくないとばかりに拒絶を示してます。


「私が見てみましょう」


 首は動かすものの脚を全然動かしてないことから何処か怪我をしているかもしれません。少し診察してみましょう。


 そう思い手を前脚に触れた時でした。

 突然、馬が嘶いて前脚を上げたのです。


「えっ」

「あぶない!」


 次の瞬間グイッと後ろに引っ張られたかと思うと、私の居た場所を馬が踏んでいました。

 ルソンが私を守ってくれたようです。


「嬢ちゃん! 怪我ないかい」

「大丈夫です、まさかここまで怒るとは思ってませんでした…」


 心配そうにするおじさんに返事をしつつ、ルソンへ礼を言おうと振り返ると彼は凄く怒った顔をしてました。


「フィーユ、動物だって危ないんだぞ」

「…はい、すみませんでした。それと、ありがとうございます」


 魔物ではないからと油断していました、人は馬に蹴られただけでも簡単に死んでしまうことがあります。

 普段魔物ばかり相手にしていたことですっかり危険意識が薄れてしまっていました。

 実際今の状況なら私は大けがしてもおかしくありませんでした。


「馬に触る時はまず正面から声をかけてからやるんだ、こうして鼻に触れて馬なりの挨拶をしてからじゃないと怒りやすい」

「ルソンは馬に詳しいんですね」

「うちでも馬を飼ってたしよく世話してたから」


 慣れた手つきで馬を顔を撫でて、その後ゆっくり脚をみていくルソン。

 優しく足を触ったり声をかけつつ診察していく姿は、まさに仕事のできる男の子という感じです。


「蹄の近くに小さいけど怪我してる。フィーユ、治せそう?」

「任せてください」


 私も馬の顔を撫でてからそっと足に触れます。

 言われた通りの場所を見ると尖ったものでも踏んだのか切り傷のような怪我がありました。

 患部に手をかざして治癒魔法を施します。

 精霊を通して出る淡い光が怪我を包み込んでいき、その傷を塞いでいきます。


「これでもう大丈夫です」


 怪我が治ったことを理解したのか、馬が嬉しそうに足踏みをします。

 その姿はまるで小躍りしているようでした。


「おお、ありがとう嬢ちゃん達。おかげで助かったよ」

「いえ、お馬さんが元気になって良かったです」


 人助けをして感謝をされるのはとてもうれしいです。

 自分の力が誰かの為になっているんだと、自分は生きていていいんだと思わせてくれます。


 思い返してみれば、こうして誰かの力になる為に私は冒険者の道を選んだのです。


「嬢ちゃん達、せっかくだから今晩うちに泊まっていかないかい?」

「いいんですか? お邪魔になってしまうんじゃ…」

「かまわんさ、息子が使ってた部屋が空いてるから。女房も久々に子どもの世話がしたくなる頃だろうからね」


 とてもありがたい申し出です。

 手持ちの路銀はあまり多くないので節約できるに越したことはありません。


「どうする? フィーユ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

「よしきた、ほれ後ろに乗りな」


 人助けをすれば巡り巡って自分達の為になる。

 先人たちは偉大な言葉を残したものです。




 歩きとは違って、馬車はとても快適です。

 長く座っているとお尻が痛くなりますが、足が痛くなるよりは断然マシと言えます。


「嬢ちゃん達はあれか? 冒険者ってやつかい?」

「私が冒険者で、ルソン…彼がこれから冒険者になるために街を目指してます」


 本当の目的はただ暗くなるだけなので伏せることにしました。無関係なおじさんに余計な心配をさせる必要もありません。


「ほほー、まだ若いのに勇気があるねえ。家族はよく許してくれたもんだな。最近また税が上がったってのに」

「また税が増えたんですか?」


 近頃魔王軍との戦闘が活発化していたこともあってか、確かに税は増えていました。といっても冒険者は納税の優遇制度があるので私はあまり負担に感じてませんでしたが。


「なんだ知らんかったんかい。そうさ、また納める税金の量が増えちまってこっちは生活苦さ」


 冒険者が納める税が少ない分、農村や町民の家計が圧迫されているはずです。

 中には家族を楽にさせるため都市に出稼ぎに行く人も少なくないでしょう。

 おじさんは息子が使っていた部屋があると言っていたので、もしかしたら息子さんが出稼ぎに出ているのかもしれません。


「もしかして、息子さんが出稼ぎに行ってたりするんでしょうか」

「そうさ、なんでも今は稼ぎのいい仕事があるってんでこの前王都に行っちまったんだよ」


 軍人の募集か大きな工事でもするのでしょうか。

 冒険者は戦闘ができる人材なら重宝されますが、今の時点でも過剰なくらい数がいますし裕福に暮らせるのは一部の上位の人たち位です。


 それでも元犯罪者でも成り上がれるという要素から人気が厚く、戦えないのに冒険者になる人が後を絶ちません。

 なので農村から一攫千金を夢見る人が目指すのはわかるのですが...今回は違うようです。


「そういえば」

「ん?」


 一つ、おじさんに聞いておきたいことがありました。


「つい一月ほど前に4人ほどの冒険者パーティを見ませんでしたか」


 テト達も拠点に戻ったならこの街を通ったはずです。

 来た時に泊まった宿で聞き込みをするつもりでしたが、もしかしたら何か情報があるかもしれません。


「一月前...ああ、宿屋のかみさんがなんか言ってたっけな。なんか数日前に明るい顔で泊ってった連中が浮かない顔して戻ってきたって」

「そうでしたか...」


 やはり、あの時見たくらい表情は見間違いなんかじゃなかった。

 それを聞けただけでも、今日は収穫でした。







 おじさんの家で一泊した後、近くで聞き込みをしましたが有益な情報は得られませんでした。

 しかし、もうここまでくれば直接向かった方が早いです。

 暖かい食事とベッドを提供してくれたおじさん夫妻にお礼をして、あとわずかばかりの道を行くのみ。


 街に続く関所でルソンの通行料を吹っ掛けられましたが、浮いた宿代を渡して黙らせました。


 一歩、一歩と足を前に出すたびに心臓が高鳴ります。



 次第に聞こえる喧騒の音。


 道を行き交う人々の足音。


 舞い上がる砂煙。


 客引きを行う露店。


 クエストに出かける冒険者たち。


 ついにたどり着きました。

 アミチの街です。


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