第一話:追放
「お前を...パーティーから追放する」
それは遠征先での討伐が終わった翌日でした。
宿で目が覚めた私の前にいたリーダーが告げた言葉が、寝ぼけて頭の働かない私の耳を素通りしていきます。
「...え?」
「聞こえなかったか? お前はもうこのパーティーにはいらないって言ったんだ」
パーティーリーダーであるテトの表情はとても険しいものです。
いつも頼りになって何度も助けてもらって、優しい顔で私をなでていた彼の顔は初めて見るほど怖い表情をしていました。
「前から思ってたんだ。ずっと後ろにいて怯えてばっかりでなんの役にも立たないと」
(そんなことない、だっていつもテトは私に下がっててほしいって言ったじゃないか)
冷静な頭の部分ではそう思いました。そう叫びたかったです。
けど、体は動いてくれませんでした。
「この前だってそうだ、少しけがをしたくらいで大泣きしやがって」
「だってあれは..」
あの時、誰より動揺していたのはテト自身だったはずなのに。
「うるさい!」
大きな怒号に思わずシーツを手繰り寄せて後ろに下がってしまいます。
私は夢を見ているんじゃないかと、そう考えずにはいられませんでした。
これは悪い夢で、目が覚めたらいつものように笑顔で私を起こしに来てくれるんじゃないかと。
そしてこの話をして、いつものようにウィザ姉に笑われながらも慰めてもらえるのではないかと。
しかし、目を瞑っても現実はなにも変わってくれませんでした。
「お前はぐずでのろまで.....それと...足手まといだ」
テトの口からは罵詈雑言が止まりません。
私は、その嫌な音から耳をふさぐことしかできませんでした。
「ごめんなさい...ごめんなさい..」
わけもわからないまま、ただひたすらに謝ります。
私は何かを間違えてしまったのでしょうか。いけないことをしてしまったのでしょうか。
答えの出ないままただ許しを請います。
私は精霊術が得意でした。
仲間を癒して支援して。パーティーを支える大事なヒーラーだったはずなんです。
私はおっちょこちょいです。へまをしたことも多いです。そのせいでパーティーを危険にさらしたこともあります。
それでも仲間だと思っていました。私が皆を癒して私が皆に守られる。そんな関係になっていたはずでした。
それも、私の独りよがりな妄想だったのかもしれません。
「テト..その辺にしておいた方が...」
「...ウィザは黙ってろ」
ウィザ姉の声が聞こえて顔をあげます。
いつの間にか部屋に入ってきてたみたいでした。
(そうだ、ウィザ姉なら助けてくれる)
涙で前もしっかり見れないですが、それでもウィザ姉に目線を送りました。
助けてほしいと、またいつものように一緒に冒険ができるようにしてほしいと。
しかしウィザ姉は私を見てくれませんでした。
まるで私を見るのもつらいとばかりに眼をそらし続けてぼそりと言ったのです。
「...ごめんなさい、フィーユ」
私の必死の懇願は無情にもウィザ姉の謝罪という拒絶により打ち砕かれました。
ウィザ姉は味方になってくれませんでした。
「お前はここに置いていく」
「いや...ま、待ってください! 私、頑張りますから。もっと回復だって上手になります..もう泣いたりだってしません。だから、捨てないで..ください...」
必死で声を張り上げます。このままでは本当に捨てられてしまう。
思いつく限りの私がここにいても良い理由を話しました。
しゃっくりで詰まる声を無理やりに動かして声を発しました。
それでも、テトの考えは変えられませんでした。
「...ダメだ」
そう言って私に投げられてのは私の荷物でした。
ここは地方の片田舎です。冒険者ギルドもないようなよくある農村でした。
こんなところでは満足に生活できるかもわかりません。
「村はずれに教会がある。そこに行って少しは自分の過ちを反省するんだな」
テトとウィザ姉は出て行ってしまいました。
扉の向こうには昨日までの仲間たちがいて、怒ったような悲しむような、何かを必死にこらえるような表情に見えました。
最後に扉を閉めるテトの顔も、同じに見えました。
これが私の1か月前の記憶です。
あれから私は教会のシスターとして過ごしました。
毎晩テトに罵倒される夢にうなされて、満足に眠れた日は一日もありません。
辛いです。
村の皆さんはそんな私を慰めてくれますが、立ち直れそうにありません。
泣きながら洗濯をしていたある日、村の男の子が私の所に来ました。
「お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」
その子はルソンといいました。
村から出たことのない子供で、記憶によれば近々成年の儀を行う予定でした。
元気が取り柄な活発な男の子で、一つ年下ですが近くにいるだけでその元気を分けてくれそうな気がしました。
教会に入ってから今までルソンくんには隠していましたがその時の私は限界でした。
この一か月という時間は私の心を癒してはくれませんでした。
「実はね..」
その言葉から私は止まることなくすべてを話しました。
自分より年下の子に甘えてしまっている自分が嫌になりましたが、それでも喋りだすこの口は止まってくれませんでした。
どうして、私を追い出すの?
どうして、誰も庇ってくれないの?
どうして、そんなつらい顔して私を攻めるの?
「なんで、私は追い出されたんですか! なんで、なんで...」
ずっと頭を離れなかったことを声に出しました。
感情を抑えることもできず、ひたすらに自分の想いをルソンくんにぶつけました。
ルソンくんはそんな私の話を遮ることもなくただ黙って聞いてくれました。
最後まで話切った私を抱きしめて、こう言ってくれたのです。
「わかった...じゃあ確かめに行こう」
「..え」
顔を上げてルソンくんを見上げます。そこにはからかう様子もなく、無責任な顔でもなく真剣な気迫がありました。
「お姉ちゃんの仲間は何か理由があってそうしたんじゃないかって、聞いてて思った。だからそいつらに会いに行って直接聞いたらいいじゃん」
「でも、私ひとりじゃあの街まで行くなんて」
村の外は危険です。街道が整備されているといっても魔物の襲撃は少なくない。
特にこの国は魔王軍の被害がそれなりに多く、不意の遭遇も多くあります。
今回の遠征も危険な魔物が付近に出たからと討伐依頼を受けてきたのです。
後衛職のヒーラーが一人で歩けるほど平和ではありません。
「僕が行くよ、お姉ちゃんを連れてってあげる」
抱きしめる私の腕を放して一歩下がり差し伸べられた手を、私は茫然と見つめてしまいました。
「いいの?」
「僕は大人になったら冒険者になりたかったし..それに、お姉ちゃんを放っておけないから」
頬を赤らめながら告げる少年の申し出を断る理由を私は持ち合わせていませんでした。
私はなぜパーティーを追放されたのか。
なんで仲間たちはあんな表情をしていたのか。
真実を探す旅はここから始まりました。
私は泣いた後のくしゃくしゃの顔に精いっぱいの笑顔を張り付けて。
「じゃあ、お願いします。ルソン君」
その手を取とって縋るように握りしめました。




