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◆ 第1-7話 告白 ◆


 何がどうしてこうなったのだろうか。


 マサルのバカとの登校中に時乃と偶然居合わせたまではいい。

 問題なのはマサルから質問された内容の回答を聞かれたかどうかだ。

 告白もしていないのに相手の好きな魅力を聞かれたなんて今後の人生で1.2にランクインする黒歴史。

 なんとしてでもはぐらかせなくてはならない・・・と考えていたのだが。

 俺は何故か想い人の時乃と共に、学校の告白スポットである桜の木まで来ていた。


 「・・あの時乃・・さん?」

 

 ここに辿り着いて5分ほど。

 時乃は会話をする事もなくジッと桜の木を眺めている。

 まだ朝礼まで時間はあるが、それでも少し急がないとギリギリの時間だ。

 というより俺がこの沈黙の時間に耐える事ができない。


 「前野くんはここがどんな所か知ってる?」

 

 どうやってこの沈黙を破るかと必死に考えている中で、時乃がようやく口を開いた。


 「えっ・・と、学校の有名な告白スポット、だよな?」

 「・・うん」


 短く返事をした時乃はゆっくりと俺の方へ振り返る。

 その表情はどこか寂しそうで、だけど嬉しそうな微妙な顔をしていた。


 「私、この学校に入学してほとんど毎日ここで告白されているの」

 「・・知ってるよ。 時乃さんはモテるからね。 嫌でも噂は聞こえてくるから」

 「だけど今日はまだ誰にも告白されてないわ」

 「うん・・・うん?」


 一瞬、時乃が何を言っているのか理解できなかった。

 眉をひそめて時乃と視線を合わせる。

 そこには何かこちらの返答を待っているのに思える表情をしていた。

 

 「そ、うなんだ。 まぁ登校してきたばかりだし。 まさか朝から告白する人もいないだろうしね」

 「そうね。 だからまだ今日はここに来たのは貴方と初めてって事になるわ」

 「う、ん・・そう、だね?」

 「えぇ。 そうなのよ」


 「「・・・」」


 謎の沈黙が流れる。

 時乃は明らかに何かの答えを待っているように見えるが、俺はその意図を全く理解できない。

 いや、勘違いを真に受けてはならないと必死に自問自答している。

 明らかに時乃は俺に対して何かを待っている。

 それがこの場所(告白スポット)で周囲には誰もいないシチュエーションであれば、誰であれ思いつく言葉。

 

 だけど、俺はその言葉を口にして出す事ができない。

 出来なかった。

 だっておかしいだろ?

 今まで中高と同じ学校に通っていただけで、まともに会話をしてこともない俺に、高嶺の花が好意を抱いている?

 そんな恋愛漫画やドラマみたいな話があるわけがない。

 あったとしても、それは俺が成就することの出来ない臆病な片思いの物語。

 主演の主人公ではなくエキストラの1人なのだから。


 「・・予鈴ね」


 頭が真っ白になって考えがまとまらない間に、本礼前のチャイムが鳴る。


 「こんな時間に呼び止めてごめんなさい。 教室に行きましょ」


 時乃は何事もなかったかのように俺の横を通りすぎて教室へ向かう。

 

 「――――あのッ!」


 その離れていく足跡を聞いて、俺は思わず声を出して呼び止めた。

 振り向いて呼び止める事もせず自然を地面に向けて。

 しかし、その呼び声に耳を傾けてくれたのか離れて行こうとした足跡はピタリとその場で止まった。

 

 心臓の音がうるさい。

 だけど周囲の音は驚くほど静かで耳に何も聞こえてこない。

 息も苦しく全身に汗が出てるのが服の貼り付け具合で分かる。

 もうこんな状態であればきっと顔も真っ赤で恥ずかしい事になっているだろう。

 帰りたい気持ちと覚悟を決めた気持ちで思考がグチャグチャだ。

 

 「どうしたの?」


 けれど、だけど、でも!

 背後から聞き返してくれた声と同時に、心の器に溜まっていた感情が一気に溢れ出た。




 「好きです! 俺と、付き合ってください!!」




 振り返る事もせず、顔を上げる事もせず、俺は叫ぶように言葉にした。

 声量からすれば遅刻ギリギリに登校してきた生徒達が驚いてこちらの視線を向けているのが感覚的に分かる。

 声を聞いて窓から生徒達が上から何事かと覗いているのが分かる。

 

 あぁ、帰りたい。

 今すぐに布団の中へダイブして喉が潰れても良いくらいに泣き叫んで部屋に引きこもりたい。

 溢れ出た感情が空になり、代わりに羞恥心の感情が心の器に入り込んでくる。

 

 逃げたい。

 帰りたい。

 消えてしまいたい。

 

 そんな負の感情に耐え切れなくなり、本当に今から走り出そうとして足を一歩前に出した時。

 下に向けていた視線の前に誰かの足が見える。

 ゆっくりと頭を上げると、そこには目に涙を浮かべて笑顔を向ける時乃の姿があった。


 「はい。 よろこんで」


 この日、この時、この瞬間。

 俺の人生の運はここですべて使い果たしたらしい。

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