◆ 第1-6話 告白 ◆
「マサル、俺は覚悟を決めた」
夏休みまで残り1週間となった朝。
登校の途中で合流したマサルに第一声に宣言した。
「何を?」
「俺は夏休み中、必ず時乃に告白する!」
「ほ~。 それより8月の花火大会何時に行く?」
「もう少し興味持て?」
何事もないかのようにスルーされムカついたので微笑ながら胸倉を掴む。
だけどマサルは困惑する事もなく、朝食だと言って手に持つバナナをモグモグと頬張る。
「だってキミ、これで何度目の宣言よそれ」
「今回はマジだって!」
「それも何度目の言い訳よそれ」
細目で見られ思わずこちらの目を泳がせる。
「さ、3度・・め?」
「中学入学初日から数えて4度目ですぅ~」
中学の入学式に一目ぼれしてからマサルに告白する宣言をして今日まで計4回。
前野世壱はチキっていた。
「流石に4回も同じ宣言しといて全部声もかけられず結局諦めてはまた宣言をしての繰り返し。 これで興味を持てと言う方が無理という物ですよ世壱くぅ~ん????」
「う・・」
正論すぎて何も言えない。
1回目は周囲から人気があるという理由で諦め。
2回目は高嶺の花だからと諦め。
3回目は高学歴な高校へ受験するという噂を聞いて諦めて、どれも声をかける事すら出来ないでいた。
学校行事などで数回ほど会話をしたことはあるが、緊張のあまりイエスかノーでしか受け答えした記憶がない。
「やっぱり・・無理だろうか・・」
「ほら~! そうやってすぐに諦めモードに入る。 世壱の悪い癖だぜそれ~」
残りのバナナを飲み込み、マサルは何故かサングラスを取り出した。
「そんな世壱くんに質問です! 貴方の想い人の好きな所を1つ上げてみなさい」
「はぁ? なんでいきなりそんなこと」
「いいからいいから! 行動に移すにはまず言葉から。 なんでも口に出せばやる気に繋がるんだよ」
「だったら相手の好きな所じゃなくて告白する事について口にするのでは?」
「それはもうずっと言い続けてるだろ。 だったら相手の好きな所を改めて口にすれば、より気持ちが高まるってもんでしょ!」
「・・・そういう・・もん?」
「そういうもんです! ほれほれ、今なら同じ学校の奴らもいねえし白状しちまえ!」
ものすごくノリノリなマサルに違和感を感じたが、確かに言われた事も一理ある。
とりあえず言われた通りに時乃の事を頭の中で思い出す。
「えっと・・まずは美人で可愛くて」
「ほうほう?」
「勉強も出来て運動も出来て」
「うんうん」
「どれもスマートにこなしてるけど実は負けず嫌いで」
「へ~そうなんだ」
テストで間違った所は徹底的に追及して復讐していた事もあり、体育の授業で持久走をしていて陸上部に負けた時は学校の外周を1人で走っていた事もあった。
「真面目そうに見えて実は授業中に居眠りをしそうになってる所も可愛くて、それと実はすごく動物が好きなのか野良猫を見つけては小さい声でニャ~って鳴いている事もあったな」
特に意識しているわけではないが、好きな人が近くにいると何故か視線がそっちに集まってしまう。
たまたま登校時間が一緒の時は1日がとても幸福感に満たされ、笑っている顔を見れば不思議とこっちにも笑みが自然にこぼれた。
その仕草が、聞こえる声がどれも愛おしく感じる。
そんな時乃に惚れた話をしていて1つ思った事があった。
(・・あれ? なんで俺、時乃が動物が好きなんてこと知ってるんだっけ?)
口に出して猫と戯れていたと言ったが、俺はいつそんな場面を見ただろうか?
確かに時乃が猫と会話をして楽しんでいる記憶はある。
だけど、この記憶にある映像に違和感を感じた。
どうして俺は、時乃の隣にいるんだ?
恋とは恐ろしい物だ。
こんな存在しない記憶まで勝手に捏造してしまうとは。
俺にはどうもストーカー気質があるのではないかと内心本気で落ち込む。
「―と言う事で、俺が思いつく限りではこんな感じだな」
「なにがこんな感じなの?」
「いや、何がってお前が俺に時乃につ、い・・て・・・・・」
ある程度の時乃に惚れた話題を言い終えて隣にいるはずのマサルに声をかけたはずが、返ってきたのは聞き覚えのある女子の声。
返事を聞いてから数秒の時間を有した俺は壊れたロボットのような動きで、隣にいるはずのマサルの方へ顔を向ける。
「おはよう。 前野くん」
「・・・お、はよ。 時乃」
隣にいたのはアホ面したマサルではなく、今先ほどまで語っていた想い人、時乃未来が不思議そうな表情で俺の顔を見上げていた。




