◆ 第1-5話 告白 ◆
「ここに、第1回 時乃さんの好きな人はどんな人なのか当てよう選手権を開催します!」
教室に戻り、すでに3年の有名な先輩が時乃に振られた事が広がっている事に気付いた否や、マサルは他クラスの男子を集め意味の分からないイベントを開催させていた。
集まった男子生徒は多種多様な感情が渦めいており、時乃の想い人を考えるだけで発狂する者や、落ち込む者、憎悪を剥きだした者などいる。
そんな中、俺はと言うと心ここに在らずと告白しても玉砕される事が確定されて身体から魂が抜け出していた。
時乃の想い人に関しては色々な意見が飛び交う。
有名なアイドルや海外ハリウッド、プロのスポーツ選手に歌手、政治家や資産家など言いたい放題。
結局、教室に集まった男子生徒達の討論会は白熱していく中で、扉が勢いよく開けられた。
さっきまで賑わっていた生徒達は驚いて扉の方へ視線を向けると担任の先生が鬼のような形相で立っている。
「このバカタレ共がッ! 今日は16時までに帰宅しろって終礼の連絡で言われただろうがッ!!」
時計を見ると時刻はすでに16時をすでに回っていた。
男子生徒達は慌てた様子で教室から飛び出し、よく分からない選手権はそこで解散となった。
「しゃーない。 それじゃあ俺も今日は帰るわ。 世壱は? もう部活始まって遅刻確定だけど部活は?」
「・・・あ?」
「ダメだ。 まだ魂ぬけてるわコレ。 お~い起きろよ世壱く~ん。 部活のお時間ですよ~」
バシバシと2回ほどの叩かれる音と痛みで意識を取り戻した。
当然、1発だけやり返す。
「起こしてあげたのにこの仕打ち!」
「だったら普通に起こせバカ」
叩かれた両頬を擦りながら、鞄を担ぎ教室を出ようとした時、担任の先生に呼び止められる。
「おいどこ行く気だ前野」
「え? まぁ部活ですけど」
「あ~そういえばお前ら終礼の時はウンコ行ってて知らないんだったな」
マサルの咄嗟の嘘を信じていたのか、担任は腕を組んで哀れんだ瞳を俺達に向ける。
あとでマサルにはもう片方の頬も叩いておこう。
「それで、何のことですか先生」
「実はな。 お前達も知ってると思うが最近この地域で物騒な事件があったのは知ってるな?」
先生に言う物騒な事件とは、今年に入ってから定期的に起こっている殺人事件の事だ。
夕暮れから夜になる時間帯の間に人が殺される事件がある。
犠牲者は先月だけでもすでに3人の死体が発見され、どれも心臓を一突きされているとニュースで報道されていた。
しかも、その3件の事件のうち2件は俺達が暮らす地域だ。
「そういう事もあり、学校側としては犯人が見つかるまで、または安全が確認されるまで16時以降の部活動は禁止される事となった。 生徒はすぐに帰宅して自宅待機。 バイトをしている生徒に関しては親御さんが送り迎えをするか随時連絡を怠らないようにするという事で話をしてある」
「マジですか! よし世壱! 今日はオレの家でゲームしよう!」
「バカタレッ! 自宅待機だと言っただろうがッ!!」
人の話を聞かないマサルに先生の拳骨が勢いよく頭に降りかかる。
今の時代そんな事をすれば体罰やらなんやらと言われかねないのに、この先生は気にしないようだ。
俺達は先生の言う通り、そのまま家に帰る事にした。
「あ~あ。 せっかく世壱も部活が休みなのに遊びにも行けないんなんて、さっさと殺人鬼捕まらねぇかな~」
「そうだな~」
先生に叩かれた頭を擦りながら小言を言うマサルの横で、正門に向かう途中で見える桜の木が視界に入る。
今日、時乃は想い人がいると言って告白を断っていた。
俺の知る限りで時乃は同年代の男子と仲良くしている所はあまり見た事がない。
学校の行事やクラスで会話をしている所はなんとなく見た事があるが、どれもなんとなく他人行儀で男女問わずに敬語で会話をしている。
そんな彼女の想い人がどんな相手で、それは誰なのか。
あの告白の場面からそればかりが頭の中でグルグルと回っている。
「・・・なんだよ」
そろそろ正門に出ようと言う所で視線を前に向けるとニヤニヤとした顔で見てくるマサルと目が合う。
「べっつに~~?? 青春してるなと思ってさ~??」
「ぶっ飛ばしてやろうか?」
笑顔で拳を握って見せるとマサルは全速力で逃げて行った。
「はぁ、全くアイツは・・ん?」
学校から出てなんとなく振り返った俺の視界に映ったのは校庭の真ん中に誰かが立っている。
少し目を細めてみると、そこにいたのは今も尚考えていた想い人の時乃だ。
(なにしてるんだ? 生徒はもう全員帰宅指示が言われてるはずなのに)
何か手に持ってキョロキョロと探し物をしているように周りを見渡していと、こちらの視線に気づいたのか時乃とバッチリ目があった。
(・・あ)
「おーい世壱! 何してんだよそんなところ突っ立ってさー!」
思わず大きな舌打ちをして戻って来たマサルを睨みつける。
「お、おぉ・・なんでそんなガチ切れしてんの?」
「初めてお前と絶交したいと本気で考えたからだが?」
ショックを受けたのかその場で崩れ落ちる様に両手を地面につけて落ちこむ。
そんなマサルの事など無視してもう一度校舎の方へ視線を向けるが、そこに時乃の姿は消えていた。
「・・・」
「なんだよ~そんな起こる事ないだろ~! いいじゃんか青春~。 高校生なら別に恥ずかしくないって~。 普通の事だって~」
「鬱陶しいな!! 足を掴むな足を! 別にさっきの事について怒ってるわけじゃねぇよ!」
「え? そうなの? じゃあなんで怒った?」
「いや、それは・・・」
好きな人と目が合ってテンションが上がっていたからだとは言えるはずもない。
「気分だよ気分。 ほら、さっさと帰るぞ」
「なんだよその明らかにはぐらかした返事は~」
なんで帰宅指示されている中でまだ学校にいるのかは分からないが、この時間帯はまだ人通りも多い。
夏も近づいてきて日が落ちるのも19時頃となってきている。
殺人鬼もまさかこんな住宅街のど真ん中で事件を起こす事もないだろう。
そう結論づけて、俺はマサルに時乃が学校にいる事を気付かれない内に学校から離れた。




