◆ 第1-4話 告白 ◆
天ノ市に設立されて創業10年と満たない専門高等学校。
一般校と専門学校が合併して建てられ、他校と比べかなり広大な土地にある。
周囲には住宅街に囲まれており、遠目で見ると街並みの中にある学校はよく目立つ。
専門である機械科など言った特殊な専門があり工業社会の中でも近代な設備が揃えられている為、学校に入門出来る場所は正門のみとなっており、それ以外の門は基本使用が禁止されていた。
そんな多くの生徒の出入りが多い正門から入って近くに大きな桜の木が植えられている。
昔、この土地では1人のお殿様が統治されており、ある村娘に恋をした。
その村娘に振り向いてほしいお殿様はわざわざ村娘が住む場所の近くに桜の木を運び込み、そこで告白をして結ばれたという逸話があるらしい。
それが真実か嘘なのかは分からないが、実際にその噂が聞いた生徒の多くが桜の木の下で告白をして結ばれるケースが多いと聞く。
「ごめんなさい。 貴方とはお付き合いできません」
多いと聞く・・のだが、どうやら今回の告白は失敗に終わったようだ。
告白していたのはバスケ部で3年の先輩。
主将を務め人望も厚い事で有名な先輩だから運動部に所属している生徒の中では有名な先輩だ。
顔も悪くなく、これまで多くの女子生徒が告白されるほどモテる。
そんな先輩が正に今、有名な告白場所で玉砕した瞬間を目の当たりにした。
「マジかよ。 あの先輩でもダメなのか! うちのお姫様は!」
離れた場所で隠れながら一部始終を一緒に見ていたマサルは声を震わせる。
そしてマサルがお姫様と呼ぶ人物こそ、俺の中学からの想い人であり先輩の告白を断った女子生徒、時乃未来。
容姿端麗、才色兼備、一笑千金。
美人である言葉を体現した女性、それが時乃未来という生徒だ。
芸能関係やSNSで世界的な有名になっているが、すべての出演を断っており、彼女を引き抜こうと色々な大人達が毎日学校に詰め寄ってきている。
「これで先輩を含めた望みのある男子生徒は消えたな」
「なぁ、マサル」
「おん?」
「俺がもし時乃さんに告白してさ。 OKもらえる確率どれくらいだと思う?」
「0じゃね?」
分かってはいるが、ハッキリと言われると腹が立つので、とりあえず右頬を一発叩く。
「お前の質問に答えただけなのに!」
「すまん。 普通に腹が立った」
叩かれた右頬を擦り、涙目になるマサルを置いて再び桜の木の下にいる2人に視線を戻す。
離れた場所から覗き見ているせいですべては聞き取れないが耳をすませば微かに会話が聞こえる。
「一応、理由を聞いてもいいかな?」
「理由・・ですか?」
「うん。 時乃さんって美人で凄く有名人じゃないか。 だけど今まで男性からの告白はすべて断ってると噂で聞いた事があるんだ。 何でなのかなって」
「・・・それは」
「もしかして、すでに好きな人でもいるのかな?」
「・・・」
時乃は顔を下に向けて何も答えない。
だけど先輩はたったそれだけの行動で何かを察したように笑みを浮かべる。
「そっか。 なら仕方ないね。 ここは大人しく引くよ」
「・・すみません」
「気にしないで。 告白しといてこんな事をいうのもあれだけど、頑張ってね」
「はい・・ありがとうございます」
そうして先輩は時乃に背中を向けて校舎のほうへ戻って行った。
一方、そこまで一部始終の内容を聞いていた俺とマサルは両目を開いて御互いの口を手で塞いでいた。
そうしなければ大声で叫びそうになっていたから。
あの時乃さんに想い人がいる。
この時、俺の心はズタズタに砕かれた音がした。




