◆ 第1-2話 告白 ◆
野蛮な先輩から命令された部活動の時間までおよそ2時間半。
本来、家に帰宅して昼飯を食べようと考えたが、その前に果たさなければならない事があった。
1階の図書室から近くの階段で4階まで駆け上がる。
夏休み初日という事もあり、普段であれば話し声が聞こえる廊下や教室だが、代わりに聞こえるのは吹奏楽部の奏でる楽器の音。
各々で教室に分かれて練習をしており階段を上る毎に違う楽器、別の音程が聞こえてくる。
そんな音を通して聞きながら4階まで上がってすぐに見えるのは生徒会室と表記された教室。
扉の前まで近づいてノックをする前に1度呼吸を整える。
普段は気にしない前髪を整え、スマホで表情の確認までしてみていると生徒会室の扉が開いた。
「・・・あんたそんな所で何してんの?」
「ゲッ、朝姉」
黒縁眼鏡に後ろにまとめたポニーテールをした怪訝な表情で見てくる彼女は1つ上の先輩にあたり、かつ家が御近所同士の幼馴染、東雲朝だ。
先ほど練習に来いと指示メールを送って来た張本人。
「まったく。 少しは色気づいたと思ったら肝心な所でバカなんだから」
「な、なんだよ。 朝姉には関係ないだろ」
「関係ないわけないでしょバカタレ。 ほら、あの子ならもう行ったよ。 さっさと行きな」
「うぇ?! まじかよ!」
回転するように身体を方向転換させて走ろうとした1歩目。
服の襟の箇所を掴んできた。
思わぬ行動に首が閉まる。
「あにすんだよあざね”え”」
掴まれた状態で背後にいる東雲を尋ねるが、何も答える気配がない。
朝姉の昔からの悪い癖だ。
言いたい事があるのに何か言わないで口にせず、いつも誰かの背後で小さくなる。
中学に上がり周囲の大人達から頼られるようになってからその癖もなくなったのだと思っていたが、稀に何かの拍子でこうなる。
「・・あの~東雲朝さ~ん。 何か言いたい事があるならまた後で聞くので放してくれませんか~?」
「――なさい」
「? 今なんてい~~~~~~~~~ったぁぁぁぁああいッ!!」
小さい声で何かを呟いたと思うと背中全体に広がる痛みとビンタの音が廊下に響く。
「頑張ってきなさい! バカ世壱! 振られたらちゃんとお姉ちゃんが慰めてあげるわ!」
「~~~~っ・・・あ~それはどうもありがとうございます~。 その時はよろしくお願いします~」
伸ばしても届かない引っ叩かれた背中の痛みに耐えながら、世壱は想い人のいる教室へ向かった。
「・・じゃあね。 大好きだよ。 世壱」
走り去って見えなくなった背中を思い出しながら、彼女は我慢していた涙を1度だけ流した。




