◆ 第2-2話 事件 ◆
3年間の片思いだった時乃と実を結ぶ事が出来た当日の放課後。
世壱は焦っていた。
朝から休憩時間を狙い時乃に声を掛けようとしたが、学校中の男子達から妬みの含んだセリフと共に追いかけられ、声どころか顔さえ見合わせる事ができていない。
このままでは夢のような朝の光景が、本当に夢になってしまいそうだと考えてしまう。
その不安を解消する為にも、何とかして時乃と再度2人で会いたいのだが・・・。
「クソ・・ぜっっっんぜん出会えないッ」
まるで俺の居場所をすべて把握しているかのように次から次へと男子達が時乃のいる場所を妨害してくる。
「結局下校時間になっても門前にはデカい先輩が立ちはだかってるし。 マサルの奴は先に帰りあがったし」
面倒事は嫌だ。
スマホに短く表示されたマサルのメッセージを見て、とりあえず嫌がらせに無駄なスタンプを連打する。
「もう少しで17時回るし。 先生に見つかっても面倒だしな~。 どうするか」
「何がどうするって?」
「うォッ!!」
2階にある下駄箱の隅で身を縮めて隠れている背後に、気配もなく急に声を掛けられ思わず飛び跳ねて振り返る。
そこに立っていたのは3年の東雲朝。
我が校の生徒会長であり、部活動の先輩であり、そして世壱の幼馴染だ。
「びっくりした。 急に背後に立つなよ朝姉」
「驚いたのは私の方よ。 あんたなんでこの時間にまだ学校にいるのよ」
「・・いや~。 色々とありまして・・・」
昔からの幼馴染という事もあり、朝は世壱の事を実の弟のように構う節がある。
中学の頃は友人と遊びに行けばわざわざ迎えに来るし、高校へ先に上がっても中学までの登下校は必ず待ち合わせを要求してきた。
嫌いという訳ではないが、流石になんだかんだと口を挟まれてしまうと嫌気がさすので、高校に上がってからは自然と距離を置くようにしていた。
・・が、そんな事も気にせずしつこく構ってくるので最近は学校の登下校は別々にする以外は今まで通りである。
つまり何が言いたいかと言うと、朝に片思いの相手に告白して実を結んだ事なんて絶対に知られたくない。
絶対に面倒くさいから。
「どうせ時乃さんの件で学校の男子に追いかけられて逃げ隠れしてたらこんな時間になったんでしょ」
すでにバレてた。
「あれだけ新聞部が騒いでばら撒いてたのよ。 生徒会長の私が知らない訳ないでしょ」
「・・・ですよね~」
新聞部の活動以降から授業中の先生でさえ興味本位で確認するくらいだ。
生徒であり会長の朝が学校中の噂を知らない訳がない。
「え~とですね。 これはあれなんだよ朝姉。 説明すると長くなるというかなんというか・・・」
「時乃さんなら生徒会室にいるわよ」
「・・・え?」
朝は下駄箱から靴を取り出しながら、まるで活動報告するかのようにそう言った。
「今朝の事は時乃さんから聞いた。 知ってると思うけどあの子は本当に良い子だから悲しませちゃ駄目よ」
「お・・あ・・・う、ん。 もちろん。 わかってる」
「そ。 じゃあ私先帰るからね。 これ以上遅くならないように。 それじゃ」
靴を履き替え何事もないかのように帰っていく朝を見送りながら、少し調子を狂わせる。
いつもの朝なら不純異性交遊やら交際はまだ早いやらと言ってあれやこれやと説教をしてくると思っていたが、あまりにも呆気ない態度に若干不思議に感じた。
「・・まぁ、朝姉も流石に恋路までは口に出さないか」
それよりも、まさかの情報で自然と両足は生徒会室へ向かっていた。
初めて時乃を認識してから3年間の想いがようやく実を結んだ今日。
信じられず夢なのではないかと頬を抓った事と夢ではないと自覚する事を繰り返した日はない。
だけど、その確認もする必要がない。
なぜならようやく、時乃と2人で落ち着いて会う事が出来るのだから。
普段なら感じない階段を上がるのがしんどい気がする。
息が上がっているのもきっと緊張しているからだと自覚がある。
生徒会室に前に着き、息が上がった呼吸を整える。
数度短く深呼吸を繰り返し、生徒会室の扉にノックをしようと手を上げた。
「失礼します」
あぁ、ようやく君と出会える。
――― ◆ ――――
「・・・・?」
扉にノックをしようとした瞬間、なにか変な感じがした。
視界が歪んだような。
建物が揺れたような。
意識が消えたような。
何が変なのか具体的に言葉に出来ないが、何か変な感じがする。
「あれ、俺なんで生徒会室にいるんだ?」
別に生徒会室に用があるわけでもないのに。
俺は何故か生徒会室の前に立っていた。
「え!? もう17時すぎてんじゃん! 先生に見つかったら面倒くさ! はよ帰ろッ!!」
そう言って、世壱は生徒会室の扉を開けることなく、そのまま学校から帰宅した。




