09.伝言板と街の概要
「一時間後に寮の前にみなさん集まってください! この島のルール説明をして部屋の鍵をお渡しします!それまではどうぞごゆっくり自由気ままにお過ごしください!」
アナウンスが入った。
広場の時計は昼の十二時を指している。
凛とすずは一旦街の中を探索することにした。
広場を出るとすぐに道を挟んで右側に男子寮が3棟、左側に女子寮が三棟、横一列に並んである。一棟二十人は住めそうな大きさだ。それぞれの寮の目の前に黒板のようなものが置いてあり、その前で山本誠が黒板を見つめていた。
何も書かれてない黒板をじっと見つめる誠。
不思議そうに二人が見ていると、その様子に気づいた誠が
「お二人さんは伝言板とか知らない世代かな?」
と話しかけてきた。
「伝言板?」
二人は声を合わせて呟いた。
確かに右端に伝言板と白い文字で書いてある。
「ちょうど君たちの親御さんの世代はスマホなんてなかったからね、こういう黒板に〇〇集合とか先行ってるねって書いてたり相合傘書いたりとかしてたんだよ。おじさんの青春だよ。また見れるとは思わなくて感慨深くてね」
「へぇ。なんかキュンキュンしますね」
凛がニマニマしながら言った。
「そうなんだよ。駅前によくあったんだ。手書きの文字だからこそのその人らしさも出てくるし、知らない人の書き込みを見るのも好きだったんだ」
誠は昔を懐かしむような穏やかな表情で話してくれた。
(素敵だなぁ)
今の時代では手書きで書くことも少なくなってきているけれど手書きだからこその良さがあるとすずは思った。
男子寮の隣にはコテージのようなものが六つ。手前に三つ、奥に三つの形で並んでいる。木で作られしっかりとした造りではあるが街の中では一番森に似合っている建物だ。
女子寮の隣には真っ赤な郵便ポストと大きな食堂のようなもの。その隣に小さな本屋さんがある。
本屋さんと食堂のドアには店員募集中の貼り紙が貼ってあった。
「参加者の誰かが店員になってく感じかな。なんか本当に一つの街だね」
すずが言った。
本屋さんの前で道は左に折れ曲がり、少し歩くと左に小さな学びやが現れた。
右はもう森林で木々が生い茂っている。
その隣を公園、ジム、スーパーが続く。
そこからまた左に折れ曲がると、展望台のようなものが現れた。高さは三十メートルはありそうな立派な展望台で円状の建物の中に螺旋状の階段がある。島全体を見渡せそうだ。
その隣は工房、アトリエ。まだ閉まってはいるが外から絵の具やノコギリなどが見えた。いろんなものが作れそうだ。
そしてその隣は集会場と書いてある建物が建っている。集会場の前の道を進み左に曲がると最初の広場に到着した。
広場を中心に円状に色んな建物が建っている感じだ。
「戻ってきたー。結構広いね、疲れたー!」
凛はハアハア言っている。
広場の時計は十二時三十分。
早歩きで回って三十分くらいかかった。
東京ドーム一個分くらいの広さだ。
本当に思っていた以上になんでも揃っている。
「喉乾いたー! 自販機使っちゃお」
広場や公園、寮の前など至る所に自動販売機が設置されている。
先ほど配られた紙幣一枚で一つ買える仕組みになったこの島特有の自動販売機のようだ。中身はお茶、炭酸、水、オレンジジュースなど多種多様でよくある自動販売機の中身になっている。
凛とすずは一枚ずつ紙幣を取り出しそれぞれお茶を一本ずつ買うことにした。
「あー、生き返るー!」
広場のベンチに座り空をぼんやり眺めていると、横からスニーカーのような音がドスドスと近づいてきた。振り向くと、リュックを雑に背負った男の子が、乱暴に隣のベンチに腰を下ろす。
よく見ると、すずが通っていた中学と同じ校章をつけた紺色のブレザーに、まだ少し大きめの学生鞄。制服の襟元は開けっぱなしでネクタイはゆるゆる。いかにも「反抗期です」と言わんばかりの雰囲気だ。
思わず「中学生……?」と口にすると
「見りゃわかんだろ」とつっけんどんに返された。
高校生くらいの人ならちらほら見かけるが中学生くらいの年代は初めてみた。
「その制服〇〇中学だよね? 私も通ってたんだ」
少年はこちらを睨みつけて何も返してこない。
「お前ら、同じフェリーだったけどうるさすぎた奴らか、悪い意味で覚えてるわ」
「はぁ? そこまでうるさくしてませんけど」
黙ってボーッとしていた凛が割り込んできた。
「特にお前がうるさかった、イケメーン♡ とかって言ってたやん」
「なんだこの」
凛がヤバいことを言いそうだったのですずが間に入る。
「まあまあ、落ち着いて2人とも……」
「そんなことよりなんで中学生がこんなとこきてんの? 確かに年齢制限はなかったけど」
「さあね。俺だって知りてえよ」
少年はつぶやく。
色々とイラつくような発言をしてきたこの少年は校内で問題を起こし、学校からは「もう来るな」と言われたらしい。そこから不登校になり家にいても引きこもってゲームばかり、両親とは喧嘩が絶えなかった。そんなある日、両親から学校から連絡があったと告げられ、強制的に家から連れ出される。そして着いたのは学校ではなくフェリー乗り場でこの島へと送り込まれていた、という流れのようだ。
「要は問題児でどうしようもなかったからこの島に勝手に応募されてたってわけか」
一通り少年の流れを聞いた後に凛はつぶやいた
「別に俺は悪くねえけどな」
「今、聞いた限りの話だと九割君が悪いよ。残りの一割はそういう時期だからっていう考慮」
凛とこの少年はずっと少しバチバチしている。
「流れはどうにしろ中学生一人でこの島は大変だよね、私高三だけどまだ緊張してるし怖いもん、すごいよ」
すずはフォローに入った。
「は? 子供扱いすんなよ」
少年はベンチから立ちこちらを睨みつけてから別の場所へと移動した。
「今のは君をフォローしてくれてたんだよー! そのひねくれた性根をこの島で治せるといいねー!」
凛は立ち去る少年の後ろ姿に向かって大声で叫んだ。
カンカン照りつける太陽の下で東京ドーム一個分の広さの街が中心に作られた離島、圏外島。
(この島生活、どうなるんだろうな……)