04.はじまり
一週間後、すず宛の一枚の封筒が自宅のポストに投函されていた。
家族に言ってもややこしいことになりそうなので置き手紙だけを置いて行くことを決めていた。すずにとって人生で一番大きな行動に出ようとしていること、両親へは罪悪感を感じていたが、これから出会う人々、島の存在のことの方で頭がいっぱいだった。
リュックサックに身分証明の学生証、筆記用具、お菓子と水を詰めて持って行くことにした。招待状には北海道、東北地方、関東地方、近畿地方、中国四国地方、九州、沖縄の七ブロックでそれぞれ専用のフェリーが用意されていること、学校や職場についても圏外島のスタッフが説明をしてくれるため心配はいらないことなどが書かれていた。
未だに信じきっているわけではないが、いよいよ動き出したプロジェクト。出発は明日の十時、明日は平日のため学校に行くふりをして両親が仕事に行き弟が学校に行った後に帰り、準備しておいたリュックを持ってフェリー乗り場に向かう計画にしている。
すずは大阪住みのため近畿地方ブロック用に用意されているフェリーに乗る。明日のイメージを浮かべながら、すずは深い眠りについた。
次の日。
いつも通り学校に車で送ってもらった後、学校のトイレに隠れて両親が仕事に行った時間を見計らって家に帰った。
(今頃、教室で私来てないことバレてるよなあ、お母さんに電話行ってるかな、ごめんなさい)
家に帰ってきて置き手紙をリビングのテーブルに置き、制服から動きやすいTシャツとジーンズに着替えて、いつ帰ってくるかわからない我が家に別れを告げフェリー乗り場へと向かった。
近畿地方ブロックは神戸のフェリー乗り場らしい。初めて行く場所だ。近くまで電車に乗って行くことにした。高校さえ近いのに心配だからと毎日送り迎えしてもらっている過保護なすずは、フェリーはもちろん電車も一人で乗るのは初めてだ。切符を買うのにも一悶着しながらなんとかフェリー乗り場に着いた。
行っている最中、スマホが震えていた。おそらく、学校か母親からの連絡だろう。通知を見る勇気はなかった。
港に浮かぶ船はどれも観光用や貨物用ばかりでそれっぽい船なんて本当にあるのだろうかと不安になる。
——そのとき。
少し離れた場所に、白と藍色に塗り分けられた小ぶりなフェリーが静かに停泊していた。船体には大きな文字で「近畿ブロック」と書かれている。観光船にしては人影が少なく、フェリーの前には一人だけ受付の係員のようなお兄さんが立っていた。
「これ……だよね?」
すずはリュックの肩紐をギュッと握り、周囲を気にしながら一歩踏み出した。
受付で名前を告げると、係員は小さく頷き、名簿らしきものにチェックをいれ、すずを船へと通した。
フェリーに足を踏み入れると、自分と同じような年代に見える若者もいれば、スーツケースを持った会社員風の男、年配の女性まで見知らぬ人がまばらに立っていた。おおよそ二十人くらいが乗っているぽい。
けれど全員、同じように落ち着かず、視線を逸らしあっている。
すずは船べりに近づき、海を覗き込んだ。快晴で波が陽射しを反射してきらめいている。
「ほんとうに来ちゃった……」
低いエンジン音が鳴り響き、フェリーは静かに動き出した。