03.選ばれし人
圏外島の参加者募集には予想以上の応募が集まったらしい。
新たにホームページで抽選を行い選ばれた百人を招待することが決まったことが報告された。圏外島を取り上げているYouTuberが隕石が自分の家にぶつかってくるレベルの確率でしか当たらないだろうと発言していた。
ふざけた発言だがそれくらい簡単に当たらないレベルなのは事実だ。
そしてその事実に少しだけすずは胸を撫で下ろしていた。知らない人ばかりの謎の島、スマホも届かない環境、何が起こるかわからないからこその不安はとてつもなかったし抽選なら自分の意思だけで責任を負わなくてもいい。
抽選結果は二日後に当選者だけにメールで一斉送信されるらしい。胸の奥で、怖さと期待が入り混じり、まるで小さな嵐が渦巻いているようだった。
SNSには応募した人たちの声がたくさん書き込まれており、その注目度が伺える。様々な思惑を持った人たちがこの島への期待を胸に抽選結果を待っているのだ。全国各地で注目されている圏外島の中に自分も一部として加われていることにも嬉しさを感じていた。
運命の二日後——
土曜日なのもあり、すずは早起きをして朝からずっとスマホと睨めっこしていた。
ピコン!
Xでも誰も当選したというツイートもなく、やっぱり何かのイタズラだったんじゃないかという声も聞こえてくる中、すずのスマホに一本の動画が上がった。
動画が再生されると可愛らしいクマのようなキャラクターが離島に立って軽快な音楽と共にこちらに手を振って元気いっぱいに話しかけてきた。
「やっほー! 応募してくれてありがとう!
この動画が届いたってことはね……、そう! あなたは抽選の結果、百人のうちの一人に選ばれました!
これから島への案内状を皆さんのお家にお送りします!
さあ、準備はいい?
それじゃあ、圏外島で待ってるよー! またねー!」
「え? 何これ?」
画面に写っていたのはあまりにも作り物めいた可愛いクマのキャラクターで明るく「選ばれた人です!」なんて言ってくる。
まるで子供向けアプリのご褒美ムービーのようで、非現実すぎて頭が追いつかない。胸の奥がドキドキしているけれど、その半分以上は「本当に?」「詐欺とかじゃないよね?」という疑いの気持ちだ。
すずはもう一度再生し直す。
動画はやっぱり同じで、クマが楽しそうに手を振っている。
「いやいや、そんなはず……でも……」
眉をひそめながらも心の奥でじわじわと現実味のない喜びが膨らんでいく。
普段のすずならこんな怪しいことに首は突っ込まないが今のすずにはあなたは選ばれし人ですという言葉が耳から離れなかった。
デジタルのない時代は考えられない世界になってしまった現在、これからなにが巻き起こるのか、どんな人に出会うのかわからないけれど自分の知らない世界へ飛び込んでいくワクワクに胸を躍らせていた。
様々な思いを抱えた百人の物語が今始まる。