02.決心
圏外島の発表から1日が経った。
テレビのニュースでも大々的に取り上げられコメンテーター達がこれは一体なんなのかという議論を繰り広げている。
詳細は少し明らかにされたものの未だに謎が多い圏外島。ただ、ネットの反応を見るともう応募している人も多く100人は余裕で超える応募者が殺到しているようだ。
すずは迷っていた。
圏外島——。
その言葉を目にした時から、ずっと心に引っかかっている。
ただの怪しい企画だと笑い飛ばせればいいのに、なぜか胸の奥がざわついて仕方なかった。
すずは至って平凡な女子高生だが人見知りな自分にコンプレックスを抱いていた。新しい環境に飛び込むのも苦手でクラス替えや部活の体験入部さえ、心臓がバクバクして固まってしまう。
こんな自分を変えたい。
行けば何かが変わるかもしれない。
けれど、行かなければ何も失わない。
その狭間で揺れる自分が情けなくもあった。
圏外島へ行くにはウェブサイトの応募ボタンをクリックして個人情報を書き込めばできる。至ってシンプルな応募方法だ。
スマホを眺めてはため息をつく。
その晩、家族と一緒に食卓を囲んでいた。
「ねぇ…。圏外島って知ってる?」
恐る恐る圏外島の話題を口に出す。
「圏外島?あんな怪しいやつ行く人おるんかいなw」
父は箸を置き、茶碗を傾けながら鼻で笑った。
「なんかの実験でもするんじゃない?怖いよね。」
母も冗談混じりで2人は圏外島に対して疑いの目しか向けていない。
弟は横目で2人の様子を見ながら、無言で箸を動かしている。
すずはうつむき、声を押し殺して言った。
「でも…私、ちょっと興味がある…。
私の周りは結構みんな信じてるし何か変われるかもしれないし…。」
父はため息をつき、肩をすくめる。
「受験生だろ。そんな怪しい話に時間を使うな。」
母も続けて言った。
「もしこの島が本当だったとしてもすずちゃんには無理よ。1人で何もできないじゃない。」
やっぱりこれだ。
受け入れてくれるわけがないことは分かっていた。
自分の意見を言ったり行動したりするよりも両親がやってくれることに甘える方が楽だし、そういう人生を歩んできたからこそ今の自分があるのだろう。
愛されて育ったし恵まれている家庭なのだろうけれど私の意見を受け入れてくれることはあまりなかった。小さい頃から見てるからわかると全てを理解されてるように言われていて、それもそうかと思っていたけれど最近は自分の人生を自分で選択したい、全てわかるわけないという気持ちが芽生えてきていた。
勉強も真面目に取り組み、校則もきっちり守るいい子ちゃんで生きていたけれど、そんな自分にも疲れた。
普段は言われた通りに頷いていたけれど家族との会話で胸の奥の何かが弾けた。
“もう、いい子でいるだけの自分はやめよう”
家族が寝静まった頃。
真っ暗な寝室のベッドの上で圏外島のホームページを開き、震える指で応募ボタンを押した。
やっちゃった。
まだ何が起きるかわからない。ただ自分で何かを行動した一歩に高揚感を感じた。恐怖とワクワクが入り混じり、心臓の鼓動が聞こえてくる。
「私、やったんだ…。」
不思議と顔が熱くなり、思わず小さく笑ってしまう。
普段なら逃げ出してしまう状況なのに、今の自分は少しだけ自由を感じていた。