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#圏外島  作者: はるかぜ


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12/18

12.役職決め

 翌朝。

 チーン、と軽やかな音を立てて朝食お届けのチャイムが鳴った。


 扉横のポストを開けると、湯気の立つコーンスープと焼きたてのパンが。

 寝ぼけ眼のままテーブルに広げ、一口ずつ味わいながら食べていると——

「……あぁ、今、ほんとに島にいるんだ」

 ふわりと実感が胸に落ちてきた。夢とも現実ともつかない、不思議な感覚。


 食べ終えてポストに空になった皿を入れ直して、ふとクローゼットを開けると、上下合わせて十着ほどの服がきれいに並んでいた。

 シンプルで着やすそうなデザインばかり。最初の応募の時に身長や体重を書く欄があったのは、この服のためだったのだろう。


 歯を磨きながらベランダに出ると鳥のさえずりが聞こえる。毎朝、テレビをつけてスマホをいじるのが日課だったすずにとってデジタルを浴びない生活は新鮮だったが、ボーッと波の音や木々の揺れる音を聞くと頭がすっきりしていくように感じた。


 朝の準備を終えても何をしたらいいのかわからない。まずは広場に行くことにした。広場に行くと、すでに二十人くらいが集まっていた。何やら輪になって話し合いを行っているようだ。広場に置いてあるホワイトボード(掲示板)に大きく役職決め中と書いてあった。


「じゃあ、本屋の店員がいい人は?」

「本屋って何するんだっけ?」

「スタッフさんが運んできてくれた本を並べたり、レジをやったり新聞の管理したりするらしいよ」

「本好きだしやろうかな」


 役職の中には今日中に決めておいてくれと言われている役職(それぞれの店員、食事配達員など)がある。山本誠が中心になって、ルールブッグの役職のページを開きながら一つずつ決めているようだった。


 すずはその輪に入ることができず、ちょっと離れたところでウロウロしていた。


「じゃあ、本屋の店員は結城くんでいい?」

「俺やるわ」

「よし、決まり。じゃあ木札もらってきて」


 誠がそう言うと、結城くんと呼ばれた青年は「はーい」と言って輪から抜けてスタッフルームへと向かっていった。スタッフに名前としたい役職を伝えると、自分の名前の入った細長い木札を渡される。本屋、スーパー、食堂(食事配達員)の役職になった人はそれぞれその板を建物に掛けられるようになっており、そこに掛けた瞬間役職持ちになる。


 自分たちで勝手に役職を作ってもよくて、それが受理されると正式な役職として紙幣もちゃんと報酬としてもらえる仕組みだ。元々島の役職としてある清掃、花の水やりなどの庭師、記録係に加えて新しく受理された役職になった人は、広場に置いてある木の立てかけに自分の木札を入れることで役職持ちとされる。


 また、島で作られている役職には定員がある。いつでも辞めることができるが、辞めたいときは代わりの人を見つけることと、仕事の内容の引き継ぎも行うことが必須となっており少しめんどくさい。


 少しずつ広場に人が集まってきて輪も広くなってきたが、それでもすずは輪に入る隙を見つけることができず、ベンチに座ってその様子を見守っていた。


 「記録係したい人ー」

 山本誠が問いかける。

 「はい」

 デスノートみたいなのを作っていた現役大学生遠藤智也がすっと手を挙げた。

 記録係は毎日、島で起こる出来事をなんでもいいから日記として日記帳に書くこと、余裕があれば島内の新聞を作成することが主な役割となっている。定員は一人だ。

 「他にしたい人はいませんかー? じゃあ、遠藤くんで決まり」

 誠の進行力でポンポンと決まっていく。


(場を回すの上手だな)

 すずは遠くから眺めて感心していた。


「おっはよー! これ何してるの?」

 凛が元気よく現れた。

「なんか役職決めてるっぽい」

 

「もう決めてるんだー! すずちゃんは行かないの?」


「私は今のとこ様子見かな」


「そっかそっか、じゃあ私行ってくるね!」

 凛は迷いなく輪の中に入っていった。


「今来たんですけどまだ空いてますかー?」

(すごいなぁ……。こういう時に自然に入れるって)


「今日決めないといけないので残ってるのはスーパーの店員だけだね。もう結構決まっちゃっててごめんね」

 誠が話す。


「じゃあ、私スーパーの店員やってもいいですか?」

 誰も反論しない。


「OK、凛さんスーパーで決定。スタッフルームのところで木札もらってきてね」


「はーい!」

 あっという間に凛の役職が決まった。


「はい! 一旦、今日決めなくちゃいけない役職は決まったので解散しますか」


 誠の進行力のおかげであっという間に誰も言い争うこともなく役職が決まり、輪の中にいた人が自然と拍手を送りながら口々に「誠さんのおかげで早く決まったよ」「この島の司会は誠さんだね」と誠を褒めていた。


 すずが、名前の札を手に笑顔を見せている参加者たちの姿を遠くから眺めていると、背後から、ふわっと甘い香りが近づいてきた。

 「ねぇねぇ、これ何してたの?」

 振り向くと、フリルの少女が、にこりと笑みを浮かべて立っていた。耳にはハートのイヤリングをつけている。

「さっきまで役職決めしてたよ」


「へぇー、そうなんだ! もう終わった感じ? ってか君、昨日涼くんのこと知らなかった子じゃん、何歳なのー? 名前は?」

 ハイテンションでそう聞きながら自然に隣に腰を下ろしてくる。


「川崎すず、十八歳です」


「一個上だー! 私は大谷りりあ、十七歳! よろしくー!」


「よろしく…!」


「すずはなんの役職にもまだついてないのー?」

(呼び捨て……! 距離近っ!)

 すずは距離感の近いりりあに驚きながらも

「うん一旦様子見しようかなと思って」と答えた。


「すずはー、なんでこの島に来ようと思ったのー?」

 りりあが小首を傾げて聞いてくる。


「私は、なんとなくかな……」


「えー? なんとなくな訳絶対ないよ。この島に来るの結構勇気いるしなにか理由はあるでしょ? 言いたくないなら言わなくてもいいけどみんな少なからずいろんな事情、気持ちを抱えてここにきてると思うよー?」


「本当に私の理由は大したことないよ。りりあちゃんはなんか理由あるの?」


「うーん、私の理由はー…ってかすず、私の顔みたことない? 同世代の中では結構知られてるインフルエンサーだったりするんだけど」

 すずはりりあの顔をマジマジと見た。


「ごめん、私本当にそういう芸能関係疎くて」


「高橋涼も知らないレベルだし私を知らないのもそりゃそうか、でもその方が私は楽だよ」

 りりあはニコッと微笑んで一息ついてから続ける。

「私、ラブチェイスっていう恋愛リアリティーショーに出てたんだけど知ってる?」


「聞いたことある! え、りりあちゃん出てたの?」

 毎週放送後の次の日の教室で女子たちの話題にあがる男女の恋を応援する大人気番組だ。すずも切り抜きで見たことがある。


「そう。出てたんだけど男に色目使いすぎ、距離近すぎって大炎上しちゃってさ、DMで度がすぎた発言してくる人もいてSNS見るのも外出るのも怖くなっちゃって、それがきっかけで私はこの島に来たの」

 りりあは少し俯きながら言った。


「この島に来た時もすずとか同世代の女の子いたらちょっとビクビクしてたんだけど全然知られてないし自意識過剰だったかもしれない、あとみんな優しいし安心した」


「確かにこの島に来てる人みんな優しいよね。まだ二日目なのに結構仲良くなってきてる感じもある」


「それなー。まだスマホない生活はちょっと慣れないけど私この島に来てよかったー! すず仲良くしてね!」

 りりあが明るく手を差し出すと、すずは照れながらもその手を握った。


「うん。ありがとう話してくれて、仲良くしようね!」


 遠くでは他の参加者たちもそれぞれ和気藹々と団欒を楽しんでいる。平和な一日だ。


(この島の空気は年齢、性格関係なく誰とでも自然に仲良くなれる不思議な感覚をくれ素直な気持ちにさせてくれる。ここは、少しだけ理想郷みたいな場所かもしれない)


「すずちゃーん! 私スーパーの店員決まったよ! これから店員のみんなで顔合わせしたらスーパーオープンするみたいだから来てくれない?」

 凛が駆け寄ってきた。


「行きたい!」


「りりあも行ってもいい?」

 凛とすずの会話を聞いていたりりあも会話に入ってきた。


「いいよー! いっぱいお客さんいてなんぼだしね。あ、君! 涼くんの取り巻きの一人やん。涼くんもスーパーの店員だよ」


「え、本当に! 私スーパーの常連客になっちゃおっかな♡」


「なっちゃえ、なっちゃえw じゃあ、一旦私はスーパーの顔合わせと説明聞きに行ってくるね! すずちゃんとりりあちゃん? は三十分後くらいにスーパーに来て欲しい。じゃあまた!」


「わかったー!」

(これがコミュ強の会話か…)

二人の怒涛のやり取りに圧倒されながらすずも笑顔で頷いて凛を見送った。


「涼くんいるなら、りりあメイク直ししたいなぁ。ねぇ、すず、今のりりあの顔変じゃない?」


「変じゃないよ、可愛いよ!」


「ほんとに? 確かに私はいつでも可愛いけど、でもやっぱり一番の可愛さで会いたいから、ちょっとメイク直し今からするね」

 りりあはそう言いながらメイクポーチとミニ鏡を取り出しベンチでメイク直しを始めた。


「すずはメイクしてないの?」


「してない、したことないよ」


「えー、勿体無い。絶対メイクしたら可愛くなるのに、今は時間ないからあれだけど、また今度メイクさせて! 絶対可愛くなるから」

 りりあはリップを塗りながらすずにウィンクしてきた。


 すずは思わず笑ってしまった。

「りりあちゃん、女子力高いし、自分に自信もある感じがしてすごい羨ましいよ」


「え? 全然そんなことないよ! むしろ不安だからこうやってメイクでごまかしてるの。この服だってメイクだって可愛ければ可愛いほど私の気分も上がるし自信もつくんだよ」

 リップを塗り終えたりりあがパチンと鏡を閉じてすずを見た。


「やっぱり女の子は着飾ってなんぼだよ。すずは彼氏できたことある?」


 すずは静かに首を横に振る。


「じゃあ、この島で一人くらい作っちゃいなよ♡いい男たくさんいるし、恋する乙女が一番可愛いんだからねー♡ここで一組くらいカップルできないかなぁ」

 りりあは楽しそうに笑った後、指をひらひらさせる。

「あ、でも涼くんはダメだよ! あの人は天の上の存在だから」と言いながら空を見上げるりりあに、すずはまた思わず笑ってしまう。


 そんな恋愛話もしながら、りりあのメイク直しも終わった。

「よし、準備完了! そろそろスーパー行こう! 涼くんが待ってる♡」


 ルンルンのりりあと一緒にすずはスーパーへ向かった。


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