01.日常の侵食
『情報社会に疲れてしまっているあなたへ。新しい生き方のご案内です。この度現代社会の騒音から隔離された圏外島が誕生します! 本来の自分に戻ってみませんか?』
「なんだこれ?」
朝の食卓。トーストをかじりながら、高校三年生の川崎すずがいつものようにテレビをぼんやり眺めていると離島が映し出されポップな音楽と共に怪しげなCMが流れ始めた。
スマホを手に取ると、Xのトレンド欄には《#圏外島》の文字。
@news_holic
トレンド入りしてるけど怪しすぎるwwwこれ本当に存在するの?
#圏外島
@meme_master123
スマホとかも没収されるんかな?スマホがない生活は絶対無理だわー
#圏外島
@yamada_kaede
みんな騒ぎすぎwwwどうせまた企業のステマでしょ
#圏外島
@hikikomori_life
もし本当にできるなら行ってみたいかも
#圏外島
すずはスマホを見ながら、思わずため息をついた。
「なにこれ……。バラエティの変な企画とかでしょ」
画面には次々とリツイートやコメントが流れ、見れば見るほど混乱してくる。疑いつつも気になるので手が止まらない。
「すず! もう学校行く時間なのになに携帯ばっかいじってんの。遅刻するわよ!」
毎日送り迎えをしてくれている母親に促されながら車に乗り、車の中でもツイートを追っていた。
学校に着くと教室は圏外島の話題で持ちきりだった。
「川崎さんも見た? 圏外島のCM!」
ペアワークでくらいしか話さない隣の席の伊藤くんすらも私に話しかけてくるレベルだ。いつも以上にクラスも学校中の空気も騒がしくなっている。
「みんな席ついてー! 朝の会始めるぞー!」
担任の声が教室に響き渡り教室の騒ぎは一旦収まった。
日直による朝の会も終わり、いつも通り今月の行事予定やお知らせが印刷されたプリントが配られる。
しかし、その中に見慣れない一枚が混ざっていた。青い海に白い砂浜が映し出された離島の写真。
再び教室がザワザワし始める。
「圏外島のチラシじゃん」
「学校でチラシ配られるってことは本当ってこと?」
そのチラシにはCMではわからなかった圏外島の詳細が少しだけ明らかにされていた。
•スマホ没収。情報端末には一切触れられない
•人数は百名まで
•年齢制限なしで申し込みは誰でも可能
•本人確認ができるものさえあればそれ以外不要
応募はチラシに記載されたQRコード、URLからできるらしい。
教室中がザワザワと盛り上がる中、すずはチラシを握りしめてじっと考えた。
スマホなしで情報が遮断される世界ってどんな感じなんだろう。わからないことがあればすぐに検索できるこの世界、手のひらサイズの機械の中には無限とも思える情報が存在している。便利だけれどあることによって生じる問題や人としての醜さがあるのも事実だ。
疑っていた圏外島が現実的になってきたことですずの圏外島への興味は一気に強まった。




