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●2022年3月

2022年3月16日(水)


岸田首相が「まん延防止」を二十一日に全面解除すると発表した。

本当だろうか。感染者数は少し減ってきたとはいえ、まだ高止まりしているのに。

街からは少しずつ緊張感が薄れてきているのを感じる。

でも私の心はまだ晴れない。


今日は月のものが来て身体が重い。お腹の鈍い痛み。気分の落ち込み。こういう日は何もする気になれない。

カモミールティーを淹れてベランダの椅子に座る。

春の匂いがする。

隣のベランダからかすかに絵の具の匂いがした。

油絵の具の匂い。

隣の人は画家かイラストレーターなのだろうか。

静かで孤独で、でも何かを創造している人の気配。

少しだけ羨ましいと思った。


午後、会社から久しぶりに出社要請があった。明日は月一回の編集会議で、どうしても対面での打ち合わせが必要だという。電車に乗るのは三週間ぶりだ。


準備をしながら、外出用の服を選ぶのに迷った。在宅ワークばかりで、きちんとした服を着る機会が激減している。クローゼットの中のブラウスやスカートが遠い世界のもののように感じられる。


結局、シンプルなニットワンピースを選んだ。メイクも久しぶりで手が震える。鏡の中の自分が少し疲れて見えた。


### 2022年3月22日(火)


まん延防止が解除されて初の平日。街に少しだけ活気が戻ってきた気がする。

昨日の出社では、久しぶりに同僚たちと顔を合わせた。みんなどこかよそよそしく、距離を保って会話していた。以前のような気軽な雰囲気はなく、見えない壁があるようだった。


会議では夏号の企画について話し合った。「アフターコロナの新しいライフスタイル特集」。でも「アフターコロナ」という言葉に違和感があった。まだ続いているのに、なぜ「アフター」なのだろう。


帰り道、久しぶりに書店に寄った。雑誌コーナーは以前より縮小されている。代わりにビジネス書や健康関連の本が増えていた。「免疫力を高める食事」「在宅ワーク快適術」「心の整え方」。コロナ禍で人々の関心が変わったのがよく分かる。


夕方、買い物に出ると近所のカフェが営業を再開していた。店主の田村さんが外に出て準備をしている。

「おかえりなさい」と声をかけると、彼は苦笑いを浮かべた。

「やっと再開できました。でも客足がどこまで戻るか…」

彼の表情に不安が滲んでいた。


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