●2022年2月
2022年2月5日(土)
感染者数がついに全国で十万人を超えた。十万四千九百八人。東京は二万四千百七十九人。もう桁が違いすぎて麻痺してしまう。
今日は朝から雪がちらついている。February is always my least favorite month. 一年で最も寂しい季節だ。クリスマスもお正月も終わり、春はまだ遠い。コロナ禍でなくても憂鬱になりがちな時期なのに、今年は特に気持ちが沈む。
午前中はずっと企画書を書いていた。三月号の「春のトレンドカラー特集」。でも外出自粛でロケができず、結局スタジオ撮影になりそうだ。画面映えする写真は撮れるかもしれないが、街の空気感や季節感は伝わりにくい。
お昼に買い物に出ると、スーパーの棚がまた品薄になっていた。冷凍食品や菓子パンが少ない。みんな外食を控えて家で食べるようになったからだろう。レジの人に聞くと「物流の関係で入荷が不安定で」と言われた。
夕方、母から電話があった。実家は神奈川県の小田原。
「葵ちゃん、大丈夫? 東京の感染者数すごいことになってるじゃない」
「大丈夫だよ。外出も最小限にしてるし」
「でもお仕事は? ちゃんと食べてる?」
母の心配そうな声が胸に響く。
「心配しないで。リモートワークだから安全だよ」
電話を切った後、無性に実家の温かい食卓が恋しくなった。母の手料理、父のくだらない冗談、弟の近況報告。家族と囲む何気ない夕食。当たり前だと思っていたものが、今はとても貴重に感じられる。
### 2022年2月10日(木)
昨日のオンライン会議で上司から「春号の売り上げが厳しい」と告げられた。書店の休業や外出自粛で雑誌の売り上げが全体的に落ち込んでいるらしい。「デジタル版に力を入れよう」という話になったが、紙媒体で育った私たちには戸惑いも大きい。
ファッション雑誌の魅力は手触りや質感、めくる楽しさにもある。画面で見る写真と紙で見る写真では印象が全く違う。でも時代の流れには逆らえない。
午後は自宅でオンライン取材。画面越しにデザイナーの方と話をした。彼女のアトリエは自宅の一室で、後ろに見える本棚や植物が生活感を醸し出していた。
「コロナになってから、本当に大切なものが見えてきました」と彼女は言った。「無駄を削ぎ落として、本質だけを残すデザインを心がけています」
その言葉が印象に残っている。私自身も同じようなことを感じていた。派手な装飾や表面的な美しさよりも、心に響く本物の価値。それを求める気持ちが強くなっている。
夜、ベランダに出ると隣からかすかにピアノの音が聞こえた。ショパンの雨だれの前奏曲。とても上手で聴き入ってしまった。
隣の人は音楽もできるのだろうか。
どんな人なのかますます気になってきた。