29/41
●2024年4月
2024年4月10日(水)
桜が満開になった。今年は雫さんと二人だけでお花見をした。
去年より人出が多く、コロナ前の賑わいが戻ってきた感がある。
私たちは少し離れた静かな場所にシートを敷いた。持参したお弁当とお茶を広げながら、桜を見上げた。
「美しいですね」と雫さんがため息をついた。
「本当に。でも桜より美しいものがここにありますよ」
その言葉が口から出た瞬間、雫さんは驚いたような顔をした。私も自分の大胆さに驚いた。
「葵さん…」
「すみません。変なことを言って」
「いえ、嬉しいです」
しばらく無言で桜を見上げていた。でも空気が変わったのを感じた。
風が吹いて花びらが舞った。雫さんの髪に花びらが一枚止まった。思わず手を伸ばして取ろうとした時、彼女も同じタイミングで振り返った。
顔が近づいた。とても近くに。
「葵さん」と彼女が小さくつぶやいた。
「雫さん」
その瞬間を何かが遮った。近くで遊んでいた子供のボールが飛んできたのだ。
私たちは慌てて離れた。頬が火照っていた。




