2023年5月
2023年5月20日(土)
5類移行から二週間。街の様子は少しずつ変わってきている。
カフェやレストランでもマスクを外して食事をする人が増えた。でも電車の中はまだほとんどの人がマスクをしている。
今日は雫さんと久しぶりに映画を見に行った。映画館に入るのは三年ぶりだ。座席の間隔は以前より広く取られているが、ほぼ満席の状態だった。
見たのは小津安二郎の「東京物語」のデジタルリマスター版。1953年の作品だが、家族の絆を描いた普遍的なストーリーに心を打たれた。
「やっぱり映画は映画館で見るものですね」と雫さんが言った。
「大画面と音響の迫力が違います」
私も同感だった。家でストリーミング配信を見ることに慣れていたが、映画館での体験は特別だ。
映画の後はカフェでお茶をした。今度は堂々とマスクを外して会話ができる。彼女の表情がよく見えて、より親密さを感じた。
「葵さんはどんな映画がお好きですか?」
「ヨーロッパ映画が好きです。特にフランス映画」
「いいですね。私も好きです。今度フランス映画祭があるので一緒に行きませんか?」
「ぜひ」
こうして二人の時間が増えていくのが嬉しかった。
### 2023年6月10日(土)
梅雨入りした。今年は例年より十日ほど遅い梅雨入りだ。
雨の日が続くと気分も沈みがちになるが、雫さんがいるおかげで一人暮らしの寂しさをあまり感じない。
今日は雨が強く降っていたので、一日中家で過ごした。午前中は仕事をして、午後は読書。夕方からは雫さんとベランダ越しに話をした。
「雨の音って心が落ち着きますね」と彼女が言った。
「ええ。特に夕方の雨は詩的で好きです」
「葵さんは詩もお読みになるんですか?」
「時々。谷川俊太郎さんや茨木のり子さんの詩集を読みます」
「素敵ですね。私も好きです」
彼女は詩についても詳しく、いろいろな詩人の話をしてくれた。文学への造詣の深さに感心する。話していると時間を忘れてしまう。
「良かったら今度、私の部屋に来ませんか? 詩集をお貸しできます」
そう提案すると、彼女は少し驚いたような顔をした。
「いいんですか?」
「もちろんです。もうお隣さんというより、友達だと思っていますから」
「私も同じ気持ちです」
初めて私の部屋にお招きすることになった。準備が楽しみだ。