2023年4月
2023年4月8日(土)
桜が満開になった。今年は例年より早い開花だ。
今日は雫さんと約束していたお花見の日。近所の公園で待ち合わせた。
公園は多くの花見客で賑わっていた。久しぶりに見る光景だった。レジャーシートを敷いて飲食をしている家族連れやグループが多い。みんなマスクは着けているが、食事の時は外している。
私たちも桜の木の下にシートを敷いて、持参したお弁当とお茶を広げた。雫さんが作ってくれたサンドイッチがとても美味しかった。
「料理もお上手なんですね」
「母に教わったんです。一人暮らしが長いので、自然と覚えました」
「お母様はどちらに?」
「故郷の松本にいます。コロナで帰省できていないんです」
彼女の表情が少し曇った。きっと家族に会えない寂しさを抱えているのだろう。
「今度一緒に帰省されませんか? 松本はとても良いところですよね」
「ありがとうございます。でも葵さんにご迷惑をかけるわけには」
「迷惑だなんて。私も旅行したいと思っていたんです」
桜を見上げながら、そんな会話を交わした。花びらが風に舞って、まるで映画のワンシーンのようだった。
### 2023年5月8日(月)
今日から新型コロナが5類感染症になった。
三年以上続いた「新型インフルエンザ等感染症」としての位置づけが終わり、季節性インフルエンザと同じ扱いになる。
朝のニュースでは記念すべき日として大きく報じられていた。街頭インタビューでは「やっと普通の生活に戻れる」という声が多かった。でも「まだ怖い」「様子を見たい」という慎重な意見もある。
会社では「マスク着用は個人の判断で」という通達が出された。オフィスでも半分くらいの人がマスクを外していた。久しぶりに同僚たちの素顔を見た。みんな痩せたような気がする。
編集会議でも「アフターコロナ」という言葉が頻繁に使われた。でも本当にアフターなのだろうか。ウイルスが消えたわけではない。単に付き合い方が変わっただけだ。
夕方、雫さんと5類移行について話した。
「どんな気持ちですか?」と聞くと、「複雑ですね」と答えた。
「もちろん制限がなくなるのは嬉しいけれど、この三年間で身についた習慣はそう簡単には変わらない気がします」
確かにそうだ。マスク、手洗い、ソーシャルディスタンス。もはや生活の一部になっている。
「でも少しずつ変わっていくでしょうね」と彼女は続けた。
「人間は適応する生き物ですから」