●2022年9月
2022年9月3日(土)
台風11号が近づいている。最近の台風は威力が強くなっている気がする。気候変動の影響だろうか。
今日は午前中から雨が強く降っていて、外出できない。こういう日は家で読書をするのが一番だ。最近読んでいるのは村上春樹の「1Q84」。パンデミックが始まってから、ディストピア小説やSF小説を読むことが増えた。
昼頃、雫さんから声をかけられた。
「葵さん、こんな雨の日はどうお過ごしですか?」
「読書をしていました。雫さんは?」
「絵を描いています。雨の音を聞きながら描くのが好きなんです」
しばらく雨音を聞きながら静かに過ごした。言葉を交わさなくても、彼女がすぐ隣にいるという安心感がある。一人暮らしの寂しさを忘れることができる。
午後になって雨が小降りになったので、コンビニまで買い物に出た。店内では台風対策用品が売り切れていた。停電に備えて懐中電灯や携帯ラジオを買う人が多いらしい。
レジで順番を待っていると、前の客の会計が終わらない。高齢の男性が小銭を一枚ずつ数えながら支払いをしている。後ろに列ができているが、店員さんは嫌な顔一つせずに待っている。
「すみません、お金が足りなくて」と男性が謝ると、店員さんは「大丈夫ですよ、ゆっくりで」と優しく答えた。結局、男性は商品を一つ棚に戻してから支払いを済ませた。
物価高の影響は高齢者により深刻なのかもしれない。年金生活者にとって、この値上がりは相当厳しいだろう。私も決して楽ではないが、まだ働いているだけマシなのかもしれない。
### 2022年9月18日(日)
バイデン大統領が「パンデミックは終わった」と見解を示したらしい。
本当だろうか。
でも確かに世の中の空気は少しずつ変わってきている。
「普通の病気」という言葉も聞かれるようになった。
雫さんとはすっかりベランダ友達になった。
仕事の合間にベランダに出て、他愛のない話をする。
彼女の描く絵の話。私の作る雑誌の話。
好きな音楽の話。好きな映画の話。
彼女はとても博識で、そして物事の本質を見抜くような鋭い視点を持っていた。
彼女と話していると、私の凝り固まった頭が少しずつほぐれていくようだった。
「葵さんの作る雑誌、読んでみましたよ」
ある日、彼女が言った。
「えっ! 本当ですか!?」
「ええ。とても キラキラしていて眩しかった。私にはもう失われてしまった世界」
彼女は少しだけ寂しそうに笑った。
「そんなことないですよ! 雫さんこそ、すごく綺麗でお洒落で、私の雑誌に出てほしいくらいです」
「お世辞でも嬉しいわ」
彼女は煙草の煙を細く吐き出した。
その仕草があまりにも絵になっていて、私は見とれてしまった。
今日は久しぶりに原宿まで出かけた。友人のデザイナーのポップアップストアを見に行くためだ。電車の中はまだマスク着用の人がほとんどだが、以前より少し緩い雰囲気になっている。
原宿の街も少しずつ活気を取り戻している印象だ。インバウンド客はまだ少ないが、若い人たちがお洒落をして歩いている。カフェのテラス席も満席に近い状態だった。
友人の店では、コロナ禍をテーマにしたアクセサリーが展示されていた。マスクチェーンやマスクに合うピアス、在宅ワーク用のブルーライトカットメガネなど。「コロナ禍で生まれた新しい需要にも対応しています」と友人は説明してくれた。
時代が変われば、ファッションも変わる。そして人々のライフスタイルも変わる。私たちメディアに携わる人間は、その変化を敏感に感じ取って伝えていく役割がある。