第八話「封じられた残響」
夜の旧校舎。警告を無視して、ハルキとサクラは再び音楽室へと足を踏み入れていた。
扉を開いた瞬間、空気が張り詰める。そこには誰もいないはずだった――だが、鏡の前に立つ影が一体。しかも、それは「リク」だった。
「来るなと言ったはずだ」
だがその声は、どこか苦しげだった。鏡のひびはついに音を立てて砕け、粉々になった破片が宙を舞うと同時に、部屋の空間が歪む。鏡が“窓”であったかのように、その奥にはもうひとつの世界が広がっていた。沈んだ青の空、逆さに生えた木々、空間に浮かぶ金属の鎖。そして、空中に浮かぶ巨大な鳥籠。
ハルキとサクラはその“向こう側”に引きずられそうになるが、寸前でリクが手を差し出し、二人を押し返す。
「ここは……“封じられた記憶”の中だ。お前たちはまだ来るべきではない」
だがサクラは、一歩踏み出していた。彼女の瞳に浮かぶのは、過去の記憶――かつて見た、金色のカナリアが焼け落ちる鳥籠の炎景。そして、幼い自分の前で泣いていた“少女”の姿。
「知ってる……あれは私の、記憶……」
その瞬間、空間に亀裂が走り、リクが叫ぶ。
「戻れ!記憶に呑まれれば、お前は“ここ”に閉じ込められる!」
けれど遅かった。サクラの姿は、空間の奥に飲み込まれていく。手を伸ばすハルキ。だがその手は届かず――リクが彼の胸を突き飛ばした瞬間、現実の世界に引き戻される。
音楽室に残されたのは、静寂と、床に落ちた一枚の“カナリアの羽根”。