第六話「記憶の反響」
金色の光が旧音楽室を包んだその瞬間から、何かが変わり始めていた。
目の前に現れた“ぼやけた人影”の声は、意味の断片を繰り返すように揺らめいていたが、その言葉の一つひとつが、ハルキとサクラの心の奥を揺さぶる。とくにサクラは、奇妙な既視感に襲われていた。
「……あの声、聞いたことがある」
彼女は小さく呟いたが、それがいつ、どこでだったのかは思い出せない。
やがて金色の光が収まり、旋律も静かに消えた。人影も消え去った旧音楽室は、まるで何事もなかったかのように静まり返っていた。ただ、鏡のひびは以前よりも深くなり、今にも砕け散りそうだった。
その夜、ハルキは再び夢を見る。鳥籠の中で眠るようにうずくまる金色のカナリア。その外では、幾重にも絡み合った“鎖”が空間を縛っていた。そこに立つのはリク……ではない。今まで見たことのない、黒いローブをまとった“男”。その男は、カナリアに手を伸ばしながら呟いた。
「この“境界”が破られれば、すべてが交わる。彼らが気づく前に、檻は閉じねばならない」
目覚めたハルキの額には汗がにじみ、胸には得体の知れない恐怖が残っていた。だがその直後、彼のスマートフォンに一通のメッセージが届く。
《旧校舎・夜・再び“扉”が開く。来るな。》
送り主は登録されていない。だが、ハルキには分かっていた。その警告は、“リク”からのものだと。
ハルキは決意する。「行くしかない。あの影も、歌も、すべて……つながってる」
その頃、サクラもまた一人、自室で鏡の中に“誰か”の姿を見ていた。