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第五話「共鳴する影」

割れた鏡の前で、ハルキとサクラは言葉を失っていた。ひび割れた鏡の向こう側には、確かに自分たちではない影が一瞬映った。そして、残された金色の羽根は、あの夢のカナリアとの繋がりを強く示唆していた。


「あれは……一体何だったんだろう」


ハルキの声は、かすかに震えていた。サクラも顔色が青く、鏡から目を離せずにいる。


「わからない……でも、あの影が言った言葉。『カナリアの声を、閉じ込めるか、解き放つか』。あれは、私たちに何かを問いかけている気がする」


旧音楽室の空気は重く、誰もいないはずなのに、まだ微かに不気味な旋律が残っているような気がした。二人は慎重に部屋の中を見渡したが、他に奇妙なものは見当たらなかった。ただ、古びたピアノの鍵盤だけが、夕日の光を受けて白っぽく光っていた。


その夜、サクラが見た夢の話を聞いたハルキは、不安を募らせた。リクの「次は、君の番だ」という言葉は、一体何を意味するのか。金色のカナリアは、単なる夢の象徴ではないのかもしれない。


翌日、ハルキとサクラは、白石リクの行方を捜した。しかし、彼はまたしても学校に姿を見せなかった。彼の奇妙な行動は、二人の不安を一層増幅させた。


放課後、二人は再び旧音楽室へと向かった。昨日の出来事が、どうしても頭から離れなかったのだ。ドアを慎重に開けると、昨日と同じように、部屋には微かに不気味な旋律が漂っていた。


今度は、ハルキもその音をはっきりと聞いた。それは、孤独なカナリアの鳴き声のようにも聞こえ、同時に、哀しげな人間の声のようにも聞こえた。その旋律は、二人の心の奥底に響き、疑念と不安を呼び起こした。


鏡の前に立つと、昨日のひび割れはそのままだった。ハルキが慎重に指先で鏡に触れた瞬間、彼の脳裏に、断片的な映像が流れ込んできた。金色の鳥籠、誰かの冷たい目、そして、取り憑かれたように歌う人影。


「うっ……!」


ハルキは思わず呻き声を上げた。彼を心配そうに見つめるサクラの前で、鏡のひび割れがさらに広がった。そして、その中心から、弱々しくも金色の光が漏れ始めた。


「ハルキ、大丈夫!?」


サクラの声も震えた。その時、鏡から漏れる光が最大に達し、部屋全体を金色に染め上げた。光が収まると、鏡の前には、昨日の影とは異なる、ぼやけた人影が立っていた。


その人影は、弱々しい声で何かを呟いている。途切れ途切れに聞こえる言葉の中で、ハルキとサクラは、取り憑かれたように繰り返される一つのフレーズを聞き取った。


「……カナリア……歌……檻……解放……」


その瞬間、二人の胸に、昨日の音楽室で聞いた不気味な旋律が、さらに大きな音量で流れ込んできた。それは、幽霊の声と共鳴するように、二人の精神を直接揺さぶるような、奇妙な歌声だった。



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