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第三話「檻の中の歌」

翌朝、ハルキは窓辺に落ちていた金色の羽根を慎重に摘まみ上げた。それは、夢の中で見たカナリアの羽根と寸分違わなかった。信じられない思いで羽根を見つめるハルキの背後で、母親が訝しむような声を上げた。


「ハルキ、どうしたの? そんな金色に光る羽根、どこで拾ってきたの?」


「いや……ちょっと、夢で見た鳥の羽根に似てて」


ハルキは曖昧に答えた。夢の中の出来事が、現実とこうして繋がっているとは、とても説明できなかった。母親は納得していない様子だったが、それ以上は追及せず、朝食の準備に戻っていった。


学校に着くと、ハルキはすぐにサクラの姿を探した。彼女はいつものように、昇降口の近くで一人静かに立っていた。ハルキが近づくと、サクラはわずかに顔を上げ、その瞳に不安の色が宿っているのをハルキは見逃さなかった。


「昨日のこと、覚えてる?」


ハルキが小声で話しかけると、サクラは無言で頷いた。


「あの転校生……白石リク。彼の周りに見えた歪みみたいなもの、あれは一体何だったんだろう」


サクラは少し考え込むような様子で、遠くを見つめた。


「わからない。でも、あれはただの気のせいじゃない。私たちと同じように、何か特別な力を持っているのかもしれない」


午前中の授業中、ハルキは何度も白石リクの姿を探したが、彼の姿は教室にはなかった。欠席なのか、それとも何か別の理由があるのか。彼の奇妙な雰囲気が、ハルキの胸に引っかかっていた。


放課後、サクラはハルキを昨日の校舎裏へと誘った。夕焼けが校舎をオレンジ色に染める中、二人は昨日リクが立っていた場所へと足を運んだ。


「ここで、あの歪みが見えたの」


サクラは空気を掴むような仕草をした。ハルキも周囲を注意深く見渡したが、昨日のような異様な様子はどこにもなかった。ただ、夕方の静けさだけが二人を包んでいた。


その時、不意にどこからか小さな音が聞こえてきた。それは、金属が擦れ合うような、非常に細い音だった。二人が音のする方へ顔を向けると、古びた物置小屋の陰から、昨日の転校生・白石リクが姿を現した。


彼の表情は相変わらず無表情だったが、その手には小さな銀色の鳥籠が握られていた。そして、その鳥籠の中には、ハルキが夢で見たものとそっくりな金色のカナリアが一羽、弱々しい声で鳴いていた。


「君たちも、聞こえただろう」


リクの声は低いながらも、どこか冷徹な響きを持っていた。


「世界の、軋む音が」


ハルキとサクラは言葉を失った。目の前にいるリクと、彼の持つ金色のカナリア。そして、彼が口にした「世界の軋む音」という奇妙な言葉。すべてが昨日の奇妙な出来事と繋がっているように思えた。


「それは……どういう意味?」


ハルキは勇気を振り絞って問いかけた。リクは無感情に瞬きをし、その金色の目で二人を交互に見つめた。


「選ばれる、と言ったはずだ。君たちも、この檻の歌を聴くことになる」


リクはそう言うと、鳥籠を胸に抱きしめ、再び物置小屋の陰へと姿を消した。後に残されたハルキとサクラは、冷たい夕焼けの下、彼の奇妙な言葉の意味を考えながら、立ち尽くすしかなかった。金色のカナリアの弱々しい鳴き声だけが、夕方の静寂をひとりでに破っていた。


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