第二話「静寂の裂け目」
放課後の屋上で語り合った夜から、一日が経った。
ハルキは、昨夜の会話がただの偶然や思い込みであってほしいと願いながらも、心の奥底では、その「予兆」が確かなものであることを理解していた。サクラの目も、同じ確信を宿していたからだ。
その日、学校には妙な静けさが漂っていた。校庭では風が止まり、蝉の声すら聞こえない。まるで時間が少しだけ、引き伸ばされているかのような違和感。そんな中、二人の前に転校生が現れる。
彼の名前は白石リク。どこか影のある雰囲気を漂わせた、無口で無表情な少年。初日から周囲に溶け込もうとせず、まるでこの空間に存在することすら拒んでいるかのようだった。だが、ハルキとサクラにはすぐに分かった。この少年もまた「境界の外側」に足を踏み入れている、と。
放課後、サクラが偶然校舎裏で見かけたリクは、壁にもたれたまま虚空を見つめていた。その足元では、落ち葉が風もないのに渦を巻き、まるで彼を中心に空間そのものが揺らいでいるかのようだった。
「……見たんだね」と、リクは背を向けたまま言った。
サクラは息を呑む。リクの背中越しに、何かがひび割れたような音が聞こえた。気づけば、彼の周囲の空間に微細な“亀裂”が走っている。それは目には見えないが、確かに“存在している”。
「これから君たちも、選ばれる。抗える時間は、あまりない」
言葉を残して、リクは立ち去る。
その夜、ハルキの夢に現れたのは、白い空間に浮かぶ巨大な鳥籠のような構造体。中には無数の“人の影”が閉じ込められていた。そしてその外側には、一羽の金色のカナリアが飛んでいた。
目を覚ました時、彼の部屋の窓辺に、現実には存在しないはずのカナリアの羽根が、そっと落ちていた。