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第十一話「目覚めの歌」

旧音楽室。

ハルキが最後の音を弾いたそのとき、空間が静かに脈打ち、目の前に光の粒が降ってきた。


「サクラ……!」


彼女は倒れるようにピアノのそばに現れ、ハルキの胸にしがみつくように倒れ込んだ。鼓動が聞こえた。生きている。戻ってきた。


「……ありがとう、ハルキ」


その一言に、ハルキの目尻から涙がこぼれた。


そのとき、リクが扉の前に姿を現した。制服ではなく、かつて夢で見たような、銀と黒の刺繍が施されたコートを身に纏っていた。


「君たちは、“声”を解き放った。それは、檻の中にあったものだけじゃない。世界に、響いた」


彼の目は、どこか寂しげで、同時に安堵を湛えていた。


「リク……君は一体、何者なんだ?」


ハルキの問いに、リクは答える。


「僕は……“選べなかった者”だよ。かつて、声を閉じ込める道を選んでしまった者。だから君たちに賭けた。檻を壊せるのは、“共鳴できる人間”だけだから」


サクラが立ち上がり、静かに尋ねる。


「あなたは、これからどうなるの?」


リクは微笑み、胸元の最後の羽根を、窓辺にそっと置いた。


「僕の役目は終わった。もう、檻に囚われていた誰かが、自由になったから」


その言葉とともに、リクの体はゆっくりと金色の光となり、朝焼けの空へと溶けていった。


沈黙のあと、音楽室の窓から見える空に、一羽のカナリアが飛び立っていくのが見えた。


サクラは、手を胸に当てて呟いた。


「私の中の声は、もう檻の中にいない。これからは、ちゃんと――歌える気がする」


「一緒に、聞いていこう」

ハルキが言う。


世界の軋む音も、誰かの心の揺れも、そして新しい旋律も。二人の歩く先で、まだ見ぬ“境界”が歌い始める。


目覚めた声は、もう、誰にも止められない。



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