表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第十話「境界のカナリア」

金色の羽根が空間を舞い、ハルキの指先から放たれる旋律が、旧音楽室の空気を微かに震わせていた。


古びたピアノの鍵盤は所々沈み、音も不安定だったが、それでもハルキは止まらずに弾き続けていた。指が覚えていたのは、サクラと共に過ごした、何気ない日々の記憶。屋上で笑い合った夕暮れ。黙って隣を歩いた下校の坂道。何度もすれ違いながら、それでも見つめ合ってきた時間。


「思い出してくれ、サクラ……。君の声は、ここにある」


同じ頃、**“記憶の檻”**の中。

サクラは、夢と現実の狭間に浮かぶ空間で、自分自身と向き合っていた。


檻の中に立つ“もう一人の自分”――少女の姿をした彼女は、どこか寂しげに笑っていた。


「あなたは、私をここに閉じ込めた。自分の“力”も、“感情”も、“恐れ”も、全部ここに置いていったの」


サクラは言葉を詰まらせる。確かにそうだった。自分の見えるもの、感じるものが怖くて、他人に否定されるのが怖くて、ずっと蓋をしてきた。自分を守るために、自分を閉じ込めた。


「でもね、もう聞こえるの。ハルキの音が。私のために響いてる、あの音が……」


もう一人のサクラが頷いた。「なら、行きなさい」


鳥籠にそっと手を伸ばすサクラ。

その瞬間、檻の中のカナリアが目を開き、小さく一声だけ、啼いた。


空間が震え、鎖が弾けるようにほどけていく。檻の扉が、ゆっくりと――開いた。


まばゆい金色の光に包まれて、サクラは意識を現実へと引き戻していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ